―「さようなら、あとはよろしく」―
事務所の中で今まさに首をくくろうとしている男。そこへ部屋を間違えて偶然入ってきた若い男がそれを見て驚く。
その若い男デニスはその事務所にある映画会社と契約した脚本家。そして首をくくろうとしてしていた男が、憧れの名監督で脚本家のボビー・ラッセルだと気づいて感激する。
しかし、ボビーの脚本はもう9年間も採用されず、最後に書いた脚本『さようなら、あとはよろしく』もボツにされたままである。デニスは自分の原稿をボビーに読んでもらい、代わりにボビーの脚本を読み、内容はよいけれどもタイトルが古臭いという。
デニスの脚本はそのままではモノにならない、手直しすればよくなるがボビーが手伝っては一年かかるという。そこでボビーは自分の脚本をデニスの名前で、クレジットも彼の名前にして共同作業でやっていこうと提案する。
デニスの提案でタイトルは『愛の半熟目玉焼き』に変えることでボビーは妥協し、二人の契約は成立する。
ボビーはその映画の監督は自分がするつもりでいたが、プロデューサーがOKしないということで不承不承ボビーは絵コンテでデニスの黒子役に徹することで我慢する。
映画は大成功となるが、脚本の一部がデニスに書き換えられ、映画のシーンも自分が描いていたものとはかけ離れているとボビーはその成功をまったく喜ぶことが出来ない。デニスはその成功で高慢な態度でボビーと激しく言い争う。
ボビーを崇拝している助手のメアリーは、ボビーの意に反してデニスの映画を激賞する。
メアリーは、ボビーも駆け出しのころデニスと全く同じような事をやって成功を収めたことを指摘する。ボビーはデニスとは根本的に異なると反論するが、メアリーはボビーに引退を勧め、アンが休暇で過ごす予定のパリの案内を頼む。ボビーは気の向かないまま考えておくと言って、メアリーとの同行を約束する。
メアリーが部屋から出て行った後、ボビーは最初の場面から吊るされたままの首吊り用のロープに再び首を通す。そこへデニスが先ほどは言い過ぎたと謝罪にやって来る。デニスは、自分の母親が憧れのボビーが自殺したのを見たら動揺すると言って止めに入る。ボビーは今にも首を吊るように見せながらも、ロープの首輪をナイフで切り落とす。それを見たデニスは、安堵の驚きを示す。
ボビーは驚いたままのデニスに向って、「喜劇は意外性だよ」と言って、すまし顔。そして、助手のメアリーとパリに行くので、「さようなら、あとはよろしく」と言って、茫然としたデニスを残して部屋を出ていく。
最初の場面から最後に再び同じ場面に戻るが、それはシチュエーションとしては移相しており、その意味合いのずれがこの喜劇に味わいと深みを感じさせ、まさに「喜劇は意外性」を体感させてくれる。
映画に対する考えは、古い世代の自分にはボビーの主張の方に共感を覚えた。
出演は、ボビー・ラッセルに加藤健一、若い脚本家デニスに関口アナン、助手のメアリーに加藤忍。
上演時間は、休憩なしで2時間。良質の喜劇を楽しんだ。
作/リー・カルチェイム、訳/小田島恒志、演出/日澤雄介、美術/乗峯雅寛
3月29日(水)14時開演、下北沢・本多劇場、チケット:5500円、座席:C列8番
|