宮本研の重厚な作品が好きだ。『ブルーストッキングの女たち』は観た記憶があるのだが、『美しきものの伝説』と重なって記憶が曖昧である。今回観劇していてもこの二つの劇の内容が交錯して重なって感じられた。それもそのはずで、二つの劇の中心人物が同じで、同じような内容を扱っているので、どちらがどちらだったか分からなくなってくる。
この二つの劇は、結末は悲惨であるにもかかわらず、大正時代のロマンを感じさせるものがあり、個人的には、いきいきとした時代の明朗な夢を感じる。
今回この劇を観ていて感じたのは、この劇のテーマの一つが「愛」であるということであった。特に劇中、市子が大杉に向って発する言葉、「二つの魂が一つになるのが愛」だという激白は、ジョン・ダンの『唄とソネット』の底流にあるテーマと同一であると感じた。
大杉をめぐる保子、市子、野枝ら三人の女性の愛、辻潤の野枝に対する愛、島村抱月と松井須磨子の愛、らいてうと奥村の愛、さらには劇中劇、イプセンの『人形の家』におけるノラの「愛」と夫の「名誉」の問題など、それぞれの異なる愛をめぐってのドラマであるということが強く感じられた。
劇を観ているうちに忘れていた内容を思い出させるシーンがいくつも出てきたが、全く記憶にない場面も多々あった。その一つは、辻潤の母親ミツの登場場面、それに大杉と野枝の子ども、魔子の登場である。特に、ラストシーンでは、魔子が野枝の手紙を読む場面、その魔子を遠方から眺めるように佇む辻潤の姿、そして暗転して幕となるところなどは全く記憶になかった。
それとは反対にこの劇を観たことがあるという記憶を呼び起こしたのは、劇の始まる前の蝉の鳴き声に続いてパラソルをさした野枝が登場してくる場面や、喫茶店での10年ぶりの一同の再会の場面での辻潤の登場と、姿を見せない野枝の長男を野枝が負う姿、松井須磨子が島村抱月の命日に後追い自殺をした事を表象する天井から吊るされた赤い紐の演出、そして大杉と野枝が憲兵に連れ去られる直前の二人の衣装、眩しいばかりに見える白いスーツ姿と白いパラソルなどが鮮明に蘇ってきた。
10人の16期終了生と、3人の既修了生が加わっての公演を、じっくりと堪能させてもらった。
主たる登場人物役に、野枝に伊海美紗、大杉栄に安森尚、らいてうに越後静月、市子に米山千陽、紅吉に藤原弥生、保子と魔子に岸朱紗、松井須磨子と劇中劇のノラに大久保眞希(第13期修了生)、辻潤に都筑亮介、荒畑寒村に宮津侑生など。
上演時間は、途中休憩15分を入れて、3時間。
作/宮本 研、演出/宮田慶子、美術/池田ともゆき、照明/三澤裕史、衣装/半田悦子
3月1日(水)14時開演、新国立劇場・小劇場、
チケット:(A席)3300円、座席:C2列8番
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