~吟遊詩人・条田瑞穂の連続創作詩劇~
今回の演目には4月と5月に朗読された詩劇がそれぞれ1篇ずつあり、朗読と共に演奏される楽器が異なるとまた違った印象を味わうことが出来るだけでなく、再度聴くことで記憶が新たに蘇ってきて懐かしい気持にさせられた。
その再演は、第一部の「光る骨」と第二部での「銀の月」であった。
「光る骨」は、マリア・サロメ・スクウオドフスカ(キューリー夫人)の遺骨がパンテオンに移送され、そこに埋葬される話を取り扱ったものであるが、最初に聴いた時には辻邦生の小説の世界を想像させるものを感じ、その幽玄な世界に浸って聴いていたのだが、マリア・サロメ・スクウオドフスカがキューリー夫人であることに思いつかなかった。しかし、今回、この朗読劇を初めて聴くK氏がすぐにキューリー夫人のことだと分かっていたのには驚きを感じた。
第一部は、この「光る骨」の朗読に始まって、次に「ガラパゴス」(風のゆくえ)、「ゴドーを待ちながら」(バラ狂ひ)、そして「青いライオン」(アンリ・ルソーに)の4篇。
5分間の休憩の後、第二部として「銀の月」、「かむろ坂」、「赤い靴」(アンデルセン)の3篇。
第一部の「ガラパゴス」は本来「人魚姫の手紙」(アンデルセン)の予定が、朗読の当日になって急きょ差し替えとなった作品で、23歳の兵隊詩人タケウチ・コウゾウに捧ぐとされた詩劇で、この詩人が歌った「人間は生きるのがつとめ」というのがモチーフとなっている。ウィキペディアでこの詩人、竹内浩三について調べると、三重県の宇治山田市出身で、入営中に記された日記(筑波日記)に詩が記されており、1945年4月、フィリピン・ルソン島バギオの北方で戦死とある。この詩人への思いが伝わって来る朗読であった。
「ゴドーを待ちながら」はベケットの不条理の世界とは一見関係なく、むしろ副題の「バラ狂ひ」にテーマが潜んでいるように感じられ、この詩劇を聴いていて想像したのは、北原白秋の「薔薇の木に 薔薇の花咲く なにごとの不思議なけれど」と、サンテクジュペリの『星の王子さま』の一場面だった。
第二部の「銀の月」では、この詩が書かれた時期について、2004年、条田が末期がんで余命3カ月を宣告され、故郷である秋田に戻って療養生活をしている時に地元の看護学校の文化祭で詠んだ詩であることと、サハラ砂漠を独りで旅した時の話がエピソードとして語られた。
「かむろ坂」は条田が住む新宿区にある坂で、昔の街並みが66階建てのマンションが2棟建って風景が一変した話を前置きにして詠まれた。
「赤い靴」はアンデルセンの童話をモチーフにした幻想的な詩劇で、この詩の最後の方で赤い靴が雨あられとなって降ってくるシーンが印象的であった。
今回の朗読の伴奏者はジャズピアニストの藤澤由二。
終演後、ヴィオロンの隣のタイ料理店で参加者一同と歓談でひと時を過ごした。
参加者は、初参加の元名古屋在住、現在は東京に移り住んで2年という演劇やハープに似た楽器のライアーを演奏するというK氏、4月の演奏者吉本裕美子さん、ピアノ演奏者藤澤氏のライブ仲間の女性と出演者を加えた6名での歓談であった。
K氏のおかげで初めて聞く楽器、ライアーを知ることが出来たのも収穫の一つで、いつの日か、ライアーを伴奏に条田の詩の朗読を聴く楽しみが加わった。
6月25日(月)19時開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロンにて
料金:1000円(コーヒー付き)
|