企画・演出/川和 孝
『厩舎』/田中 純 作、『僧俗物語』/江戸馬齢 作
両国・Xシアター、チケット:2500円(シニア及び出演者による割引)、全席自由席(最前列にて観劇) |
【観劇メモ】
両作品とも45分前後の1幕ものだが、ずっしりと重厚な内容であった。
二つの作品に共通しているのは、作者についてはまったく知られていないということで、特に江戸馬齢は名前からしてペンネームのようであるが、残されている作品はこの1篇のみであるということである。
このように無名で埋もれた作品を発掘して世の中に再び日の目を見させてくれるこの企画に感謝したい。
大作ではないが、心にしみじみと残る作品であった。
自分の記憶のためにも簡単に両作品の概要を記す。
『厩舎』
1919(大正8)年に発表された作品。
家族内の問題で精神を病んでいる退役軍人が主人公で、その家族内の問題とは、使用人でしかも戦場では命の恩人ともなった馬丁が、長女と恋仲になり一子まもうけたことであった。
命の恩人と身分の差は別問題で、退役軍人はそのことでプライドが傷つきトラウマとなり、馬丁を家から追い出し、長女は家に留まらせはしたものの女中として取り扱っており、その事件の後生まれた二女と三女は事情を知らず、長女を女中としてしか取り扱っていない。
主人公の長男のみがその事件を記憶していて、一人だけ、長女を姉として気をつかっている。
退役軍人は、自分の家に傷をつけられたということで、長女の息子まで邪険に扱ってきたため、その子はひねくれた子に育っている。
しかし、実は、退役軍人はその自分に対して腹が立っており、その事件のあった厩舎で一人、ときおり忍び泣いているが、ついにそのいわく因縁のある厩舎を取り壊す決意をする。
父が一人忍び泣いているのを知っている長男は意を決し、姉とその子供に対する扱いを改めるように頼む。
折も折、その日、姉の子供が近所の家で盗みを働き、刑事が訪ねてくる。
盗んだカバンが見つかったことでその子供は近くの川に投身自殺をし、長女は嘆き苦しみ、父の退役軍人も空を仰いで心で慟哭する。
主人公の退役軍人を演じる菅原司が好演、その長男役に菊口富雅、長女に矢内のり子、刑事役に女鹿伸樹、他、総勢10名の出演。
上演時間は、45分。
『僧俗物語』
この作品は1930年9月の『舞台戯曲』に載ったものを企画・演出の川和の目にとまって上演の運びとなったもので、作者については一切知られていないだけでなく、作品はこの1作が残っているだけという。
川和の解説によれば、この作品の主人公である木食上人は実在の人物で、宝暦5年(1755)に現在の塩山市上萩原に生まれたが、この物語ではその木食上人のいつ頃を描いたかは不明とある。
戯曲の内容は、この木食上人の住む村に或る日盗人が現れ、村人に追われて上人の家に匿ってもらう。
上人は弟子と共に日々、村々の寺のために仏像を彫っているが、その中に女人と幼い子供の一体の像があるが、村人たちにもその像のいわれを知らない。
盗人は酒まで馳走になり、そこで一夜を過ごすことになるが、夜中にうなされて目が覚める。
盗人は、上人に促されるままに過去の罪状を語るが、その話の中でその盗人が唯一犯した殺人が、実は上人の妻子であったことが判明する。盗人が夜中にうなされたのは、母子像のせいであった。
上人は、その盗人が自分の妻子を殺した者であることが分かっても許し、無事逃げられるように自分の僧衣を与える。
盗人はその僧衣をまとって家を出るが、捕まる覚悟でその衣を脱ぎ捨てる。
あとで、その衣が脱ぎ捨てられているのを弟子が見つけ、月を見上げて深く嘆息する。
木食上人に井ノ口勲、弟子に高橋岳則、盗人に根岸光太郎、他村人役、総勢8名の出演。
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