No.87 曾我廼家五郎作 『五兵衛と六兵衛』 No.88 仲木貞一作 『柿実る村』
企画・演出/川和 孝
両国、シアターX、チケット:2500円(シニア、出演者優待割引)、全席自由席(最前列にて観劇) |
【観劇メモ】
今回の名作劇場は、喜劇と悲劇の2本立て。
喜劇と悲劇と一口に言っても、その幅は非常に広く、そして深いものがあり簡単には割り切れないものがある。
シェイクスピアの全集(フォリオ)にあるように、主人公の結婚で終わるものを「喜劇」、主人公の死で終わるものを「悲劇」として単純明快に区分できれば問題もないが、『柿実る村』は主人公の死で終わるので「悲劇」として割り切れるとしても、『五兵衛と六兵衛』はその様に単純ではないが、そこはかとない喜劇性を感じるということで、「喜劇」と称して間違いない。
両作品に共通して感じたことは、人情味ということである。
『五兵衛と六兵衛』は、貧乏長屋に住む五兵衛と六兵衛の二つの家族の話で、五兵衛は紡績工場の機械の油さしをする工員で月給とりながらも安月給で貧乏生活、隣に住む六兵衛は車引きで天気が悪ければ仕事がないその日暮らし、二人とも女房だけで子供もなく親類縁者にも恵まれないこともあって、兄弟同様の契りを結んで助け合って生きている。
六兵衛は元々財産家の生まれであったが、極道の末に勘当され、本家とも縁を切られていた。
その本家の者が亡くなり、跡取りの一人息子は失踪して行方知れず。そのため、六兵衛に思わぬ10万円という大金の相続をする話が転げ込んでくる。
六兵衛と女房のおらくはとたんに貧乏長屋を見下し、高価な衣装を着て豪邸に住むことを想像して有頂天となり、五兵衛にもそのおこぼれのおすそ分けをしようと言う。その言い草と、俄か成金となった六兵衛への嫉妬心から、六兵衛の申し出をはねつけてしまい、二人の仲は決定的に崩れてしまう。
ところがそこにはオチがあって、失踪していた跡取り息子が見つかり相続の話が水の泡と消えたところに、米代の借金取りがやって来て、六兵衛は五兵衛に取り立て代金の無心をせざるを得なくなり、その事で二人は元通り仲直りして幕となる。
人情の機微に富んだ苦い味でありながら、どこか心にしんみりとくる人間模様の喜劇である。
五兵衛に根本明宏、その女房おらくに鷹嘴喜洋子、六兵衛に船阪裕貴、女房のおたつに高崎佳代、番僧・一念の女鹿伸樹ほか、村長の湯沢勉、弁護士の矢田稔など脇役が好演し、舞台を盛り上げ、楽しく、面白かった。
『柿実る村』は、北条方の村に上杉の軍勢が押し入ってくる戦国時代を背景にした舞台。
その村は、土地がやせていて米作が出来ず、元は北条方の侍であった渡四郎次が村長となって、村の産物としての柿づくりに専念している。男衆はみな戦に駆り出され、残っているのは年寄りと女子供だけの村に、上杉軍がやって来たことで起こる悲劇。村の女を駆り集める上杉軍の侍頭加賀見藤弥太が、背後から鉄砲で撃たれて死ぬ。
その犯人捜しで、村長の下僕、倉蔵が犯人として捕まり、その責任を負って渡四郎次も縄目を受ける。
夜明けまで二真犯人が見つからなければ、倉蔵を犯人として処刑するというので、村長が自分が犯人だと名乗って自害して村を守り、幕が下りる。
村長の渡四郎次に根岸光太郎、その娘八重に野々宮かおり、その婿で上杉勢の侍頭でもある音若に麻生潤也、女中ひさにおぎのきみ子、ほか総勢11名の出演。自分が抱いてている芝居らしい芝居を楽しませてもらった。
二作とも実に見応えのある舞台であった。
上演時間は、途中15分の休憩を挟んで、2本で2時間半。
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