高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

2月の観劇日記
 
002 7日(土) MONO 第36回公演 『床下のほら吹き男』

作・演出/土田英生、舞台美術/柴田隆弘
出演/水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、土田英生、亀井妙子、ぼくもとときこ、松田青子、山岡徳貴子

吉祥寺シアター(座席はC列7番)

 

【観劇メモ】

MONOのドラマはどこかとぼけた味があり、ふんわりとした優しさを感じる。
非日常的な、アンリアルな感じでありながら、どこかもっともらしいところがある。
この『床下のほら吹き男』もありえないような話だが、これを人の深層心理の暴露と考えると多分にリアルである。
京都のお公家さんのような名前の四姉妹の家。
舞台の中心は床下になるので、床上が舞台の上部になる。
舞台下手にある通風口のところだけが長方形の切りかきになっていて、そこを行き来するときには足の部分だけしか見えない。
その見えないところで姉妹の会話が聞こえてくるから始まる。
南大路家の長女絵莉子(亀井妙子)がフラメンコのレッスンで一緒になったリフォーム会社の社長(土田英生)に修理を依頼する。ところがこの会社はまったくのインチキ会社。
通風口から下りていくと、床下が広い部屋のような空間になっていて、そこにはソファーもあり、小さなテーブルまである。そして下手には人がしゃがんで出入りするのがやっとの扉がある。
リフォーム会社の社員たちがその床下で、その扉から登場してきた謎の男(水沼健)とばったり出会う。
床下の謎の男は平清盛の末裔だと言ったり、会うたびに名乗る名前が変わっているが、その話を聞かされる当人にとっては思い当たることが多く、自分のことを言い当てられたような気にさせる妙な雰囲気を持っている。
リフォーム会社の社員、戸村(金替康博)と青木(尾方宣久)は、自分たちのインチキを暴かれその良心の呵責でその仕事を下りることを決意する。
一方、近所でも評判の仲良しであった四姉妹が、その床下の男の話によって、実は互いに嫌いあっていたり、憎みあっているのが表面化してくる。
床下の男はまったく口から出まかせを言っているに過ぎないのだが、それを聞いた本人たちが潜在的に秘めていた気持を露出させるきっかけとなる。
床下の男は、抑圧された感情=深層心理の起爆者ともいえる。
通風口の故障というきっかけで、隠された深層部が露出するという寓話。
リフォーム会社の社員を演じる金替康博が数テンポも遅れたボケ役、尾方宣久のツッコミ役がMONOでおなじみ的なおかしみを楽しませてくれる。
土田英生+MONOのメンバーのキャラクターの妙味。
それに、今回客演で四姉妹を演じる各女優がそれぞれとても個性的で、およそ似ていない姉妹同士だがそこがとても面白かった。

今回の劇場、吉祥寺シアターは初めてであったが、劇場の雰囲気も大きさも親しみを感じるものであった。

満足度評価: ☆☆☆☆(満点ではないが別に不満があるわけではない)


004 28日(土)昼 華のん企画プロデュース 『ワーニャ伯父さん』

原作/アントン・チェーホフ、英訳/マイケル・フレイン、
翻訳/小田島雄志、脚本・演出/山崎清介
出演/木場勝己、伊沢麿紀、松本紀保、戸谷昌弘、柴田義之、小須田康人、楠侑子

池袋、あうるすぽっと

 

【観劇メモ】

第4幕、旅立つセレブリャコーフが、なんと『マクベス』と『ハムレット』の台詞を!

本来は、「過ぎたことは過ぎたことだ…」のと言うころだが、代わりに、マクベスの「やってしまえばすべてやってしまったことになるなら...」とハムレットの「このままでいいのか、いけないのか」という台詞が続いて驚かされる。

木場勝己のワーニャ伯父さんと、柴田義之のセレブリャコーフの対立の場面が印象的であっただけにこの台詞が重く、しかも効果的に響いてくる。

戸谷昌弘がマリーナの役を含んだテレーギンを演じ、その役の融合が自然な感じであった。

休憩なしで2時間弱の上演時間。

(座席はA列8番と最前列。舞台を見上げる形で、奥行きの場面がよく見えなかったのが難点だった)

 

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