【観劇メモ】
早船聡という作家(脚本)の名前はまったく知らなかった。
新国立劇場の「シリーズ・同時代」という糸口がなかったら、今後も出会うことがなかったことを思うと、このシリーズに敬意を払わなくてはならないだろう。
プログラムで早船聡の経歴をみると、2002年に演劇集団円の研修所終了後、05年に劇団サスペンデッズを旗揚げし、同劇団上演作品のすべての作・演出を手がける一方で、俳優としても活躍していると記されている。
開場時間を待つ間、劇場の入り口のテラスのテーブルに座っているとき、となりにやってきた舞台関係者と思しき人物(老年の男性)と連れの中年(?)の女性の会話に、その老年の男性が昔、テレビドラマ『7人の刑事』に関係があったようで、当時生放送であったことの舞台裏など話していたのだが、その彼が今回の舞台は登場してこない人物がむしろ主役で重要だ、というようなことを連れの女性に説明していた。
舞台を見終わってその説明の意味がよく分かったのであるが、そこにこの作家の非凡な才能を感じた。
僕にとって芝居の面白さは、どれだけペイソスとカタルシスを味あわせてくれるかに尽きると思うのだが、それは泣かせるなかにも笑いがあるのが一番で、このドラマはそれを十二分に備えていたように思う。
東京湾の埋め立てという人工的な自然の崩壊をバックにして、三代に渡る釣り船屋の家族の過去を遡る出来事を通じて、家族関係の崩壊、喪失、そして再生、あるいは再出発が描き出される。
娘は母親を許すことなく亡くなってしまった。その娘は、学校を出るとすぐに家出してその後母親との連絡も一切途絶えていた。その娘が交通事故で亡くなってしばらくして、孫娘が突然尋ねてくる。
孫娘も自分の母親との関係がうまくいっていなかったのだが、その事故を契機にして、母親のルーツを探るべく祖母を訪ねてきたのだった。
その孫娘を通して、母と亡くなった娘は和解の道が開かれたような気がする。
それはもはや取り返しがつかないのだけれど。
よくよく気がついてみると、登場人物の家族関係は独身者を除き、全員が離婚や別居、また夫婦関係が危機的状態にあるのだった。
不幸な出来事が続いているようであるが、最後は明るい兆しを感じさせてくれるということで救いを感じる。
プログラムはいつものように800円、それに台本が400円と格安(?)だったので、あわせて買った。
上演時間は休憩なしで2時間5分。
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