【観劇メモ】
第1部「往還」と第2部「移りゆくフラメンコ」の2部構成。
第1部は、ルベン・カスターニョが扮する旅人が、夢の世界の旅へと連れ立ってくれる。
「往還」とは、旧大陸のスペインから新大陸のキューバ、アルゼンチンなど中南米に伝わって、再びスペインに還ってきた曲、カンテ・デ・イダ・イ・ブエルタ(cante de ida y vuelta)を意味する。歌曲の越境である。
キューバの民衆、物売りたちが、明るく、華やかな楽園の世界を感じさせた。
フラメンコは、北原志穂をはじめとした小島章司フラメンコ舞踊団と、エバ・サンテイアゴが踊る。
第2部になると趣ががらりと変わる。
ダビ・ロメーロと小島章司の二人の越境者がたどる暗黒の世界。
「忘却」から始まり、ダビ・ロメーロのフラメンコに始まって、小島章司が和して踊る。
ダビは、最初男性の衣裳であるが、踊っている最中に鏡の横の衣裳掛けにかけている女性用ドレス、バタ・デ・コーラに気づく。
その衣裳は、だれかの形見のように感じさせる。
ダビはそれをまとって踊り始める。
そこへ、同じくバタ・デ・コーラをまとった小島章司が登場。
ダビの黒色のバタ・デ・コーラと対照的に、小島章司は純白。
二人のバタ・デ・コーラを着て踊る姿は一対の鳥のよう。
やがて二人はそれを脱ぎ捨て、男性の姿に戻って再び踊り始める。
夢幻の世界に引き入れられたように・・
ネルーダの詩代表作『二十の愛の詩と一つの絶望の歌』の15番目の詩、
「黙っているときの君が好きだ ここにいないみたいだから
君は遠くで僕の声を聞いている なのに僕の声は君に触れない
・・・・・」
の朗読に誘われて、ダビが踊る・・・・
だが、僕は夢幻の世界を彷徨っては現実の世界に戻って目覚めるのだが、見ることの緊張と集中力が数分とは続かず、再び夢幻の世界に落ち込む。
ああ、僕にはネルーダの詩の舞台での朗読の声がまったく記憶にないのだ。
(それは夢の中に消えてしまった)。
小島章司の、すべての無駄を排除した求道者の姿が現代詩を体現する。
フラメンコを求め、祖国日本を離れた小島章司その人が、越境者でもあった。
暗黒の世界は、小島章司の内部の叫びでもある。
内面から外面への越境。
そして再び内面へと深化していく―往還。
小島章司は、現代詩の体現者であることを再認識させられる。
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