作/ベルトルト・ブレヒト、音楽/クルト・ヴァイル、翻訳/酒寄進一、演出・上演台本/白井晃、美術/松井るみ、歌詞/ROLLY
出演/吉田栄作(メッキ・メッサー)、大谷亮介(ピーチャム)、銀粉蝶(シーリア・ピーチャム)、篠原ともえ(ポリー)、ROLLY(ジェニー)、猫背椿(ルーシー)、佐藤正宏(タイガー・ブラウン)、他
世田谷パブリックシアター |
【観劇メモ】
ブレヒトの劇を見るとき、いつも喉に骨がひっかかったような違和感(不快感とは異なる)を覚えていたのだが、またそれが特色のようにも思えるのだが、それはブレヒトの異化作用と大いに関係していることだと思うのだけれど、今回の演出では原作の持つその異化作用は感じつつもその違和感がなく、非常にまっすぐに面白さを体感した。
そのことは、今回の演出に関係してくる酒寄進一の新訳に負うところが大きい。
今回の上演のために演出家の白井晃の依頼を受けて、ドイツ文学者の酒寄進一がそのために訳したもので、非常に現代風な訳となっている。ブレヒトの原作がもともとは、18世紀英国のジョン・ゲイの、『乞食のオペラ』を改作したものであり、この改作が1920年代のドイツの文化的(貴族趣味のオペラ音楽など)、社会的(ブルジョワ資本主義の搾取階級批判)、政治的なものへの反動、風刺であったという点で、そういう面では現代のわれわれには直接的に理解することが困難な点も多くあると思う。
酒寄進一の新訳では、非常に現代語的になっており、たとえば、「マジ」とか「わたくしテキニハ」など現代的卑俗語も頻繁に使用されていて、その言葉の用法が内包している現代の社会批判あるいは風刺、文化批判、政治批判というものが体感できる。もちろんアドリブ的な「年金問題」のような政治問題がチラチラとセリフの中に出てきたりすることも、そのことを感じさせてくれる要因の一つではあるが。
が、なんといっても吉田栄作のメッキ・メッサーがチョウカッコイイーのであって、それに娼婦ジェニーを演じるセクシーなROLLYの歌も魅惑的。乞食の元締めピーチャムの大谷亮介、その妻シーリア・ピーチャムの銀粉蝶、娘ポリーの篠原ともえなど、みな個性的な演技と歌で楽しませてくれた。
ブレヒトは「『三文オペラ』のための註」の中で、「歌をうたうことで、俳優はひとつの機能転換を行う」と説明しているが、この劇はセリフ劇(ストレート・プレイ)というより、音楽劇、オペラなのだということを白井晃の演出ではあらためて強く認識させてくれた。開演冒頭、パンチングメタルボードのスクリーンに、「貧乏人が見られる格安のオペラ、料金7500円」というスーパーインポウズの文字が流れる。そう、これはオペラなんだ、とはじめに脳髄に刷り込みされる。だから、音楽劇を聞くのだと最初からその態勢ができていたと思う。
この演出の特徴として感じたことは、ブレヒトの原作では劇の終わり、メッキーが死刑を執行される前に女王の恩赦で救われた上に、終生年金を与えられ、身分も世襲貴族の列に加えられるメデタシメデタシのハッピーエンド(?)となっているのだが、白井晃はメッキ・メッサーを電気椅子の処刑を執行して死なせてしまう。しばらくそのままの沈黙が続くので、原作が分かっている者にとっては多少の意外な気持を感じるのだが、やおら、ピーチャムが話を戻し、メッキが無事釈放される。
そして、ROLLYの「メッキ・メッサーのテーマソング」が歌われ、キャストが挨拶の礼を次々にしていき、フィナーレとなる。このフィナーレもよかった。
途中休憩15分を挟んで3時間の上演時間。
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