作・演出/中島淳彦、美術/石井強司
出演/角野卓造、佐藤B作、すまけい、大西多摩江、阿知波悟美、川田希、江原里実、まいど豊
新宿・紀伊国屋サザンシアター |
【観劇メモ】
チラシですまけいと角野卓造、大西多摩江の出演組み合わせを見て中身も考えずにチケットを買った。あとで気づいたら作者は『エキスポ』の中島淳彦だった。笑いの中にシリアスな内容。角野卓造と佐藤B作の軽やかな笑いと、すまけいの存在感は文句なし。すまけいが、敬礼の姿で最後の台詞としていう「恥ずかしながらグッドバイ」は、二度この台詞が発するが、その二度目のひときわ大きな声がしみじみと感動的に胸に迫ってくる。
物語は、昭和50年、フイリピンのバラワン諸島の小さな島のオープン前のリゾートホテルに、外交官の課長補佐鳥塚偉夫(角野卓造)と現地採用で元青年海外協力隊員の職員吉野(まいど豊)がやってくる。そのホテルには鳥塚の元部下で恋人でもあった江藤弓子(川田希)がマネージャーとして勤務している。鳥塚は彼女を追ってやってきたのだった。役所の出張ということで来ているので、その名目として元日本兵がいるという情報確認のためという口実を急ごしらえにしている。昭和46年にはグアム島で横井庄一さん、47年にはフイリピンのルパング島で小野田寛郎さんが発見されている。
その鳥塚を追って彼の学生時代からのライバルである厚生省の役人、石原(佐藤B作)がやってくる。彼と鳥塚とは江藤をめぐってのライバル関係にあった。江藤が外務省を退職した理由は鳥塚との関係が元で、鳥塚はそのスキャンダルのために降格され出世の道も閉ざされたのだった。鳥塚と石原は江藤に未練があるのだが江藤の気持は冷め切っている。江東は鳥塚の出張目的を逆手にとって、日本兵を見かけたというフイリピン人で日本語を話せるせるガイドのアキータ・テラデーイア(阿波知悟美)を紹介するが、アキータは日本人の父とフイリピン人の母親から生まれたアイノコであった。父親が現地の迫害を逃れるために日本人を証明するすべての書類を処分したために、アキータは日本人であることが認められないでいるのだった。
そして本当に元日本兵がいたのだった。元日本兵の猪原義孝(すまけい)は鳥塚たちの前に自ら現れて、陛下からお預かりした軍服と銃を返す。石原は猪原を日本につれて帰れば千載一遇のチャンスとなると俄然色めきたつ。猪原は「日本にはけらない」と、もう一つの頼みごとがあるという言葉を残したまま立ち去ってしまう。彼のあとをつけていったアキータは猪原がフイリピン人と結婚していて、妻の両親以外に子供が6人もいるのを知る。
一方、猪原のことを調査して判明したのは、彼が脱走兵だったということである。
そんな騒ぎの中で、鳥塚の妻文江(大西多摩江)がその島にやってくる。鳥塚と文江の関係は冷え切っており、彼女は一大決心してやってきた。鳥塚がこの島にくることを彼女に知らせたのは江藤だった。文江の自殺騒動でひと波乱。酔っ払った文江に迫られて石原、あわやベッドイン。文江の顔の皺に、鳥塚に対して「お前は人生の彫刻家だな」と投げかけ、「見ろ、この涙の通路となった運河を」と語りかける。
元日本兵猪原のもう一つの願いは、芋泥棒を働いて撃ち殺された少年兵の遺骨を日本に持ち帰ってほしいということであった。そして妻のことを悲しませてはいけないと言われた鳥塚は、妻から渡された離婚届を海に流す。
そうして去っていく彼らに向かって、敬礼の姿勢で猪原は「恥ずかしながらグドオバイ」と二度叫ぶ。
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