作/川崎照代、演出/藤原新平、装置/石井強司
出演/倉野章子、清水朋彦、上田桃子、桑原良太、早坂直家、つかもと景子、八木昌子
紀伊国屋ホール |
【ストーリーと感想】
「異形家族」という言葉はこのドラマで始めて知ったが、叔母が母親代わりとして主婦の座を占めているというそのありようは異形ではあるかもしれないが、現在の家族のありようをみていると家族の形をなしていてもいびつな家庭のほうがはるかに多いように思われる。
子供たちが成人して自分の役割を終えたと思うその叔母理子みちこ(倉野章子)が、自立を思い立つことでドラマの展開が始まり、キャリアを捨ててまで兄の家庭になぜそこまで尽くしてきたかということも劇中明らかになっていくが、そこで感じさせられたのは女性の自立というより、「家族の自立」というものだった。
子は親の背を見て育つというが、それも今では死語に近い。しかしこの異形家族の中で、姪の智子(上田桃子)も甥子潤一(桑原良太)もその叔母を実の母親以上に慕って育っているのが感じられる。その核をなすものはやはり食事である。手作りの食事、家の味を通して子供は育つものだと思う。これまでの手料理がスーパーの惣菜や仕出しものになったとき、理子の家庭料理になれていた彼らの口に合わないのだった。
15年前、理子の兄篤志(清水朋彦)は43歳で妻を亡くし、その兄嫁の死後理子は、管理職目前のキャリアを捨てて兄の子供たちの面倒を見ることになる。その一見不自然な行動も実は兄嫁に対する贖罪であることが分かる。身体の不自由になった父親を兄嫁に押し付けてしまい、その兄嫁が介護の疲れで父の死後あとを追うようにしてすぐに亡くなったことへの贖罪意識。兄嫁の理子への最後の言葉が「子供たちをお願いします」だった。
その子供たちも、姪の智子は社会人となり、甥も二浪の後無事に大学に入学。兄篤志は定年まであと2年。そこで理子は自立を思い立つわけだが、現役時代バリバリに仕事をこなしていたのも過去の話で、今では何がしたいのかも見えない。また五十を過ぎた年齢では職もあるわけがない。そこへ突然降って湧いたかのように、かつての父の教え子山岡(早坂直家)が恩師の亡父に線香をあげるために立ち寄り、自分の事業の仕事を手伝ってほしいと頼む。篤志は理由も言わず反対し、それに対して理子も感情的に反発するが、やがては互いが心に秘めた秘密を打ち明けあうことになって、理子がなぜ仕事を捨てて兄の子供たちの面倒をみるようになったのか、そしてなぜ兄が高校の同級生であり、父の教え子である山岡に警戒心と敵意を持っているかの理由が明らかにされる。
そして潤一が案内してきた突然の客によって、智子が子持ちの男性と付き合っているばかりでなく、その男性と結婚しようと考えていたことが明らかになる。初めはそのことに反対だった理子も、智子がしっかりと理子の姿を見ていて決意しているのを知って後押しをするようになる。
現在失われつつあるものがここには確かなものとして残っていて、ドラマを見終わった後、非常にさわやかに感じた。
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