017 26日(土) 燐光群公演 『民衆の敵』 |
作/ヘンリック・イプセン、脚色・演出/坂手洋二、美術/島次郎
出演/大浦みずき、猪熊恒和、中山マリ、江口敦子、川中健次郎、大西孝洋、鴨川てんし、他、
水野ゆふ、他
俳優座劇場 |
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【ストーリーと感想】
イプセンの脚色というより、潤色といった方が適切な気がする。イプセンの原作を読んでいないでいうのは不適格であるのは承知であるが、坂手洋二のオリジナリテイを多分に感じさせる舞台であった。
そこに見せつけられるのは、我々自身の姿であった。民衆という絶対多数による真実という虚構を暴きだす。いや、真実を見せつけられても、それがこと自分たちの利害に直接及ぼすことになると、節度ある穏健さといういかにも説得力を持った提言の前に、真実が歪められ妥協させられる。そして人はその言い訳として、自分には勇気がないのでみんなに追従せざるを得なかったという。坂手洋二は、教師のフミエを解雇した校長をして、「日の丸」も「君が代」も「愛国心」も反対ではあるが、それを人に言ってはいけないと言わしめさせる。思ったことを正直に口に出すことは「民衆の敵」になることである。
この国の方向があやしい向きに進んでいることも、我々自身の中に責任がある。しかしながら、たとえ一人になってもそれに立ち向かう勇気があるかといえば、ない。というより、どうにもならないという虚しい気持の方が強い。
坂手洋二の骨太の気概を感じさせる舞台で、強い感動を感じて見終えた。
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018 28日(日) シリーズ「われわれは、どこへいくのか」B 『やわらかい服を着て』 |
作・演出/永井愛、美術/大田創、
出演/吉田栄作、小島聖、月形瞳、大沢健、でんでん、他
新国立劇場・小劇場
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【ストーリーと感想】
2003年2月15日、世界中でイラク攻撃反対のデモの参加者総数は1000万人を超えたという。にもかかわらず、イラク戦争は始まり、大量殺戮兵器は見つからず、戦争は今もなお続いている。被害者はイラクの一般市民である。怒りを感じる卑劣な行為は、アメリカ軍の劣化ウラン弾や、クラスター爆弾の使用である。そしてその背後にはそれらの兵器を作って利益を得ているものがいる、そのような恥知らずな行為に対しての怒りはどこへぶつけたらいいのか?!
永井愛のドラマは、そのタイトルのように優しい表現ではあるが、僕たちにそのようなふつふつとした怒りの声を引き出す。
イラク攻撃に反対して、一流商社に勤務している夏原一平(吉田栄作)がNGOのピースウインカーを立ち上げる。世界中の多くの反対にもかかわらず戦争が始まると、彼が勤める商社では早くも戦後復興のビジネスチャンスを狙っている。主義主張に潔癖な彼は結局会社を辞めてしまう。
潰れた鉄工所の工場の一部を彼らの集会所として貸している鉄工所の社長(でんでん)は、最初はNGOの活動に理解を示しているように見える。しかしファルージャ近くで日本のジャーナリストやNGOメンバーを含む3人が誘拐され、ピースウインカーがその解放のため誘拐犯たちの要求に従って自衛隊の撤退を主張する集会を開くと、彼らだけでなく家主である鉄工所の社長の自宅にまで嫌がらせの電話がひっきりなしにかかってくる。たまりかねた社長はNGOの活動を自粛するように頼みに来る。社長の意見も世論と同調したもので、誘拐された者たちの自己責任を主張してやまない。この鉄工所の社長が世の中の平均的姿を写し出している。
NGOの活動も長く続けていれば、そこにマンネリ化や、意見の相違、仲間内での人間関係、中でもややこしいのが恋愛感情のもつれからくる組織のひび割れである。
一平と婚約者千秋(月形瞳)との破局、一平とサポーター役の新子(小島聖)と彼女を慕う大槻(粟野史浩)との確執で組織にわだかまりが生じ、ついにはNGOの解散の危機を迎える。
鉄工所の社長が、ピースウインカーが作って販売するチョコレートに、自分の孫の絵が入っているということで20個も買ってくれることになり、そこで張り詰めていた空気が一瞬なごみ、みなの心がそこで一つにまた結ばれる。
鉄工所の社長を演じるでんでんが、絶妙。
<感激度> ★★★★★ ドラマとしての面白さ、緊張感、笑いとちょっぴりペイソスで、大いに感激。
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