高木登2001年の観劇日記別館
 
  劇団俳優座公演 「日々の敵」      No.258
 

秋元松代の50年前の作品だが、時代を超えた新鮮さがある。

ポップス軽音楽とダンスの太陽族の喧噪で、舞台は強烈な幕開け。当時の時代風俗が青春の思い出としてまぶしく映る。

 レイプされた映子(森尾舞)の父宮西卓也(児玉泰次)は、相手を裁判に持ち込んで勝訴したが、社会的には敗者となってしまう。卓也は教師の職も辞すことになり、住んでいた町にも住めなくなって、二人は東京の弟秀春(中寛三)の家に居候の身となる。弟の妻矢枝(岩瀬晃)の連れ子集一(松島正芳)は秀春の会社の秘書役をしており、集一の弟大吾(関口晴雄)は秀春と矢枝の間に生まれた嫡男で、大学生。大吾は始終女遊びで問題を起こし、父親に内緒で母親や兄に金を無心する。

そんな折りに、映子のかつての親友説子(さとうさゆり)が映子のいる秀春の家にやってくる。彼女がやってきた目的は最後までその本音が隠されているが、映子には直感で分かっていたような気がする。ここで大吾の女性問題が浮上し、正義感の強い映子の父が相手の女性の家に慰謝料の10万円を持って訪ねていくが、相手の女性である絹子(生原麻友美)が、留守中に金を受け取った母からその金をひったくって、大吾の家に突き返しに来る。そして大吾を結婚詐欺として訴え、社会的に制裁を加えてもらうのだと叫ぶ。だが、大学で法律を専門に学んだ集一は、絹子の訴えはむしろ絹子の側に問題があると指摘する。絹子の母が数日前に大吾の家にやってきて、代わりに応対した大吾の母から5万円の金を受け取っている。そしてそれは小切手帳にその証拠が残っており、金を受け取ったことで絹子とその母は売春行為の犯罪とみなされるというのだ。

法律というものを前にしていかに正義が滑稽で、無力で、ひ弱な存在であるかを、映子の問題と合わせてここに再現される。自分を騙した男に社会的制裁という復讐もかなわないことを知った絹子は絶望して大吾の家を去る。

 説子の映子を訪問した目的は、自分の夫に自分の過去の過ちを話さないで欲しいという願いであった。映子はそんなことをしても何にもならないことであり、自分が知りたいのは裁判の時、なぜ説子は自分を助けて証言してくれなかったか、という疑問への答えである。そして、それまで全く知らなかった男が、なぜ説子の名前を騙って自分を呼びだすことができたかという根元的な疑問である。

 それは予想されたとおり、説子が仕組んだ罠だった。すべてを悟った映子は絶望で一瞬気を失ったようにして椅子に崩れ落ちる。それを見た説子は半狂乱のヒステリックな状態になって、逃げるようにして大吾の家を出ていく。

 説子の頼みで映子を探しに出ていた大吾は、崖の上にいたのを見たのは映子ではなく絹子だった。その絹子が自分の目の前で、崖から身を投げ列車に跳ねられる。目前でそれを見た大吾はヒステリックな興奮状態になるが、秀春は他に誰も見ている者がいなかったということで、あれは単なる事故だった、ということで目をつぶらせようとする。そんな卑劣な態度に卓也は日会憤りを感じるが、法律の前では無力でしかない。

 卓也は、絹子の自殺と、結婚も出来ないでいる今の映子の境遇を思うと自分がしたことは正しかったのだろうか自問自責する。映子は父をかばい、二人は秀春の家を出ていくことを決意する。

 なんとも重厚で、強烈な印象を持った作品である。秋元松代の作品力と、俳優座の演技力が作り出した世界に深い感動が胸を締め付けるように刻み込まれた公演だった。特に映子の父親宮西卓也の愚直なまでの正義感を演じる児玉泰次の演技が圧巻で好演であった。

作/秋元松代、演出/安川修一、美術/島次郎、 
出演/児玉泰次、中寛三、松島正芳、関口晴雄、岩瀬晃、さとうさゆり、森尾舞、生原麻友美、他。 
11月2日(金)夜 劇団俳優座・稽古場にて観劇


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