2025年髙木登観劇日記
 
   シェイクスピア・シアター創立50周年記念公演 
           『ロミオとジュリエット』             
No. 2025-022

 2022年5月に高山健太が新たな代表となったシェイクスピア・シアターが、1年足らずの間に数名の劇団員退団などゴタゴタを抱えながらもここまで順調に公演を重ねてきて、今回、シェイクスピア・シアター50周年記念を無事に迎えることが出来たことをまず祝福したい。
 新生シェイクスピア・シアターの最初の公演は、22年10月、国立西洋美術館・講堂における「版画で観る、舞台で聞く、『ハムレット』」で、23年5月に、『夏の夜の夢』と『間違いの喜劇』の一挙上演、同年9月に「国際シンポジウム文化交流としてのシェイクスピアの翻訳・協賛公演として『夏の夜の夢』を上演し、24年5月には、『ペリクリーズ』、同年11月にはコロナ禍で上演できなかった45周年記念としての『十二夜』を上演、そして25年の今年2月に、創立50周年記念前夜祭として22年に公演した『ハムレット』を1時間ものとして上演し、今回の『ロミオとジュリエット』の公演に至っている。
 高山健太がリーフレットの挨拶文の中で、<『ロミオとジュリエット』は難しい作品だよ、という出口典雄の生前の言葉をあげ、実際、高山がシェイクスピア・シアターに在籍した15年間のうち、『ロミ・ジュリ』は40周年記念の1回だけだった>と記しているが、僕はこの公演を観ていないので今回比較しようがないのが残念である。
 その「難しい作品」である『ロミ・ジュリ』を、50周年という節目に挑戦する果敢さに高山健太の意気込みを感じ、毎回、シェイクスピア・シアターの1期生である先輩の「公演に寄せて」の挨拶文の寄稿を受けて紹介しているのも、伝統あるシェイクスピア・シアターの諸先輩への敬意を感じさせる。
 前置きが長くなってしまったが、今回のチラシのキャスティング表を見てまず感じたのは、シェイクスピア・シアターの3人の団員と他一人を除いて全員(8名)が女性であることと、ティボルトとキャピュレット、モンタギューとその夫人の名前がなく、ロミオとジュリエットがダブルキャストになっていることだった。
 キャスティングについては当日配布されたリーフレットの配役表に、チラシにはなかった登場人物であるキャピュレットやティボルト、それに修道士ジョンや薬屋などの名前があった。
 しかし、モンタギューとその夫人の名前がなく、そのことが終幕の場面について演出を予兆させるものがあった。
 モンタギュー家の者がいないということは、最後の両家の和解の場がないことが予想されるのだが、これは死んだロミオとジュリエットの二人が立ちあがって、天空からの光に照らされて、お互いの手を高く差しあげて重ね合わせるということで代替される。
 手を合わせるのは二人が舞踏会で初めて出会った時の最初の所作であり、最後の場面でその手を高く差しあげて重ね合わせるのは両家の和解を象徴的に具象化しているととらえられる。
 出演者に男性が少ないことから、3人の劇団員が二役、三役と演じて活躍する。
 高山健太がロレンス神父とティボルト、西山公介がベンヴォーリオと薬屋、そして三田和慶がマキューシオ、キャピュレット、キャピュレット家の召使グレゴリ、修道士ジョンと4役の大活躍をする。
 新生シェイクスピア・シアターの中心メンバーが退団した後、三田は『ペリクリーズ』で主演を演じて以来その成長ぶりが著しく感じられ、今回は4役を大奮闘で演じていたのも頼もしく感じた。
 三田の登場人物の役が多く、その早変わりのためもあってか、仮面舞踏会の場面では、ジュリエットとパリスの登場場面や、ロミオとジュリエットの出会う場面などをはじめ、その場での台詞のある人物だけの登場で、その場の情景に集中した演出の工夫がなされていた。
 主演のロミオとジュリエットはA、Bのダブルキャストで、自分が観たのはAチームの方で、ロミオには巻尾美優、ジュリエットには桜木雅が演じた。
 巻尾は『ペリクリーズ』をはじめとして、『十二夜』、『ハムレット』にも出演しており、女性が演じるロミオの魅力の親しみを感じさせ、今後もこの劇団での活躍を期待させるものがあった。Bグループでは、ロミオは同じく『ペリクリーズ』に出演した照屋りこが演じることになっており、この回ではキャピュレット家の召使サムソンの役で登場していた。Bグループのジュリエットは山口夕稀南が演じる。
 ジュリエットの乳母はハービーみき杏が演じ、彼女も『ペリクリーズ』に出演していたが、今回の舞台では仮面舞踏会でのダンスの美技を披露して楽しませてくれた。
キャピュレット夫人の八重幡典子も『ペリクリーズ』に出演しており、キャピュレット家の召使(ピーター)やロミオの従僕バルサザーを演じた蒼谷明依は『十二夜』でフェービアン役で出演しており、ジュリエットとパリスの結婚式の前夜の慌ただしさを、召使役の彼女が箒を股に挟んで舞台上をめぐったりと大奮闘、細かい道化役の所作の面白さと、発声の声量の豊かさの元気溌剌さに感じ入った。
 ヴェローナの大公には高田桜子、パリス役はオーディション組ただ一人の男性、吉田琉稀が演じ、総勢11名の出演である。
 上演時間は、休憩なしで2時間20分。
 この秋には、50周年記念第二弾が予定されているのも楽しみである。
 次なる60周年に向けて、高山健太、三田和慶、西山公介三人の結束と、オーディションを通してシェイクスピア・シアター公演に常連的に参加するようになった出演者と共にさらなる飛躍を期したい。


訳/小田島雄志、原案/出口典雄、演出/高山健太
5月10日(土)14時開演、吉祥寺シアター、チケット:4500円、全席自由


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