2025年髙木登観劇日記
 
   フライングシアター自由劇場 第5回公演
             『そよ風と魔女たちとマクベスと』       
No. 2025-019

 串田和美にとって『マクベス』を演出・上演するのは今回が6度目だという。
最初は、53年前の1972年4月、六本木の地下劇場「アンダーグラウンドシアター自由劇場」でかなり潤色した『マクベス』で29歳の時、その後、75年、79年、83年に公演し、2020年10月にはコロナ禍の中で今回と同じタイトルの『そよ風と魔女たちとマクベスと』を上演。
 自分が串田和美の『マクベス』を観るのは今回が初めてである。
 『そよ風と魔女たちとマクベスと』は、マクベス以外出演者全員が「そよ風」と「魔女」を演じる。
 「そよ風」と「魔女たち」が優しさと怖さがアンチテーゼのように相反目して感じられ、そのタイトルだけでも思わず興味をそそられた。しかし、観ている最中も、観終わった後も、イメージが収斂と拡散して自分の中で感想が一向にまとまらず、宙に浮いた感じである。
 舞台は、白い布をカーテンのように垂らした木枠のパネルが5つ、それが場面転換や役者の動きにつれて役者たちによって目まぐるしく移動させられ、それが時に登場人物の心理状態を表象しているように感じられた。
 舞台は、串田の上演には欠かせない音楽の生演奏、串田のフルートと二人の太鼓の演奏から始まる。
場面は暗転して、木枠パネルを背にして畳一枚分の壇上に、突っ張った感じでヤンキー風(こんな言葉は古臭くてもう死語なのかも)のマクベスが5幕3場に当たる個所の台詞を独白し、間を挟んで「シートン」と大きな声で何度も叫ぶ。この場面は、劇の中ほどと、終盤の場面で都合三度演じられるのだが、そのたびに台詞の一部が変容している。
 二度目の場面では、一人芝居の中でシートンとの会話が対話化され、最後の三度目の場面では串田和美が演じる、年老いてよぼよぼの姿をしたシートンが登場する。
 マクベスの一人芝居の後、登場人物が全員魔女となって登場する。
 魔女たちの"Fair is foul"の台詞は、「良いは悪い、悪いは良い、うまいはまずい、まずいはうまい、きれいは汚い、汚いはきれい、意味には意味ない、無意味には意味がある」と変容されて語られる。
 マクベスとバンクオーが登場し、魔女たちの予言の後、「ロストアンガス」と自称する二人の使者が登場し、魔女の予言通りマクベスを「コーダーの領主」と呼んで祝福する。
 原作通りに進むかと思えば、死んだバンクオーとダンカンが掛け合い漫才のように語り合う場面が挿入されたり、原作通りに収斂するかと思えば、原作とはかけ離れた会話や場面に拡散される。そこが面白くもある。
 マクベス夫人が自分には名前がないことをつぶやく。名前がないことで、マクベス夫人はマクベスがいてはじめて存在することになるのだが、マクベスも夫人がいてマクベスたりえているという関係で、一卵性双生児の関係にあるとも言える。
 マクベス夫人も魔女を演じるが、マクベス夫人の役を演じるときは深紅の衣裳で魔女とは変化を付けている。そのマクベス夫人には、おどろおどろしさの恐さはなく、おきゃんな感じのかわいらしさを感じさせる。
 マクベスの一人芝居の外にも、マクダフ夫人が登場する場面では、彼女も一人芝居でロスとの会話や子供との会話を演じる。
 マクベスとマクダフとの戦いの場面が続く戦闘場面が一旦切り替わって、のどかな風景の場となって、老人となったマクベスが登場し、別の世界観が語られるのだが、そこへマクベス夫人が現れ、「あなたは死んでいるのよ」と告げられ、再び、マクベスとマクダフの戦闘の場面が続く。
 その戦闘場面をバックに、"Long, long ago"の曲が流れ、マクベス夫人役の大空ひろみと串田和美がそれぞれ上手と下手に分かれて「ロング、ロングアゴー」の物語を朗読し、終わりは原作の『マクベス』とは大いに異にする。
 原作とは異なるいろいろな挿入場面が面白いのだが、その内容がうまくまとめられないのがもどかしい。
 マクベスを演じるのは串田十二夜、それ以外の出演者は魔女とそよ風を演じるほかに、マクベス夫人は元宝塚歌劇団のトップスター大空ひろみ、ダンカンとシートンを串田和美、バンクオーにノゾエ征爾、マクダフに福本雄樹、マルカムとマクダフ夫人を大木実奈、フリーアンスとドナルベインを原田理央、アンガスと刺客をさとうこうじ、ロストレノックス、刺客を反町鬼郎が演じ、総勢9名である。
 久し振りに串田ワールドのシェイクスピア劇を楽しみ、串田ワールドの『マクベス』を存分に堪能させてもらった。
 上演時間は、休憩なしで2時間5分。


翻訳/松岡和子、脚色・演出・美術/櫛田和美
4月26日(土)13時開演、すみだパークシアター倉、
チケット:6000円、パンフレット:1000円
座席:E列18番


>> 目次へ