2025年髙木登観劇日記
 
   さようなら俳優座劇場最終公演 『嵐 THE TEMPEST』       No. 2025-018

主役は 「俳優座劇場」

 期待度が強かっただけに自分の中では不消化な感じしか残らなかったが、これは「俳優座劇場」という劇場が主役となった公演だと思った時、何となく納得するものがあった。
 4月末で71年の幕を閉じる俳優座劇場。その最後に選ばれた公演がシェイクスピア最後の作品と言われる『嵐 THE TEMPEST』。俳優座劇場にとっては、長い71年間の中で初めて上演する作品という。
 そのシェイクスピア劇の最後の作品の訳を、今回初めてシェイクスピア劇を翻訳する小田島創志はシェイクスピア劇全作品を翻訳した小田島雄志の孫である。
 主だった出演者は俳優座劇場にゆかりのある新劇のベテラン俳優で、各劇団の中でもベテランや中堅俳優で、いやでも関心を持たざるを得ないし、期待も高まるというもの。
 開演前の舞台は、舞台奥いっぱいに帆船の帆布が半分に折りたたまれた状態で広がっている。そして、舞台の両脇には帆船のマストや策具が整然と立てかけられており、舞台前面の中央に、小さな木箱が据えられ、その表面に「俳優座劇場」という文字がくっきりと浮かんでいる。
 ゆっくりと客電が消えて行行き、舞台が完全には暗くならないまま、薄暗い状態の中で嵐の場面が始まる。
船長や水夫長が慌ただしく駆け回る中、ナポリ王のアロンゾ―や顧問官のゴンザーローらが水夫長らに声をかける。その間を縫うようにして嵐の混乱を引き起こす妖精たちが縦横無尽に駆け回っている。
 この劇を観終えて一番感じたのは、ヒーローのプロスペローをはじめとする登場人物たちよりも、エアリエルをはじめとした妖精たちが主役に感じられたということであった。
 人物造形で不満に感じたのはその衣装によるものであった。特に、ナポリ王一行の衣裳は中途半端な現代衣服で、各自バラバラな服装で、最初、その服装からどういった人物か分からなかったのは、フランシスコーとエードリアン。この二人は、演出によっては省略されることも多いだけに、余計に分からなかった。
 これらのナポリ一行の登場人物には、貴族らしいそれらしき衣装であって欲しかった。
小劇場で何もない空間での台詞を主体にした舞台でならともかく、舞台セットもある上演であるだけに、それらしき衣装で臨んでほしかった。
 主要な登場人物が老舗の新劇界のベテラン俳優の寄せ集めであるということもあってか、1+1が2や3であるという結集力より、個々の演技が孤立しているように感じられた。
 今回初めてシェイクスピア劇を翻訳した小田島創志の訳については、文字からではなく耳で聞いた印象でしかないが、ミランダやファーディナンドの若い登場人物の台詞がこれまで聴きなれた感じと異なって自分には粗野に聞こえたのだが、若い翻訳者としての現代的な感覚の言葉遣いとして、これからの世代の人にとっては受け入れやすいものかも知れない。
小田島創志は、今回初めてシェイクスピア劇の翻訳をしているが、当日手にしたたくさんのチラシの中に、6月公演の『リチャード三世』の翻訳者として彼の名前が出ており、早くも2作目の翻訳が上演されることになり、これからの世代のシェイクスピア劇翻訳の始まりとなるのかも知れない。
 主な出演者は、プロスペローに外山誠二、アントーニオに文学座の浅野雅寛、ミランダに劇団昴のあんどうさくら、エアリエルに文学座の平体まひろ、キャリバンに文化座の藤原章寛、ナポリ王アロンゾ―に演劇集団円の藤田宗久、セバスチャンに昴の金子由之、ゴンザーローに里村孝雄、ファーディナンドに俳優座の田中孝宗、トリンキュローに円の岩崎正寛、ステファノ―と船長役に同じく円の上杉陽一、ジュノーに青年座の井口恭子、シーリーズに青年座の安藤瞳、アイリスに俳優座の荒木真有美、水夫長に俳優座の八柳豪、他、総勢23名。
 この舞台は俳優座劇場が主役と書いたが、今回無料のパンフレットには出演者が俳優座劇場に対するかかわりや思い入れ、それに劇場というもの対しての各人の思いが書かれていて、それぞれに興味深いものがあった。
 上演時間は、途中15分間の休憩を入れて、2時間50分。


翻訳/小田島創志、演出/小笠原響、美術/石井みつる
4月14日(月)18時30分開場、俳優座劇場、チケット:4000円、座席:5列10番


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