2016年に10年でシェイクスピアの全作品上演を目指して立ち上げた「シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会」(SAYNK)が2000年のコロナ禍でその目標達成も困難となり、このたびその活動内容を発展的に展開して行うとして、「Eテレ的公演活動、教育的配慮を施し教養を深めることを目的とした活動とする」ことにして、今回はその新たな出発となる最初の記念的公演であった。
その記念すべき公演に集まったメンバーは、今後の発展を象徴するような素敵な仲間たちであった。
SAYNK代表の瀬沼達也をはじめとし、そのよきアシスタント的存在で、照明・音響をも担当するYSG(横浜シェイクスピア・グループ)代表の飯田綾乃、横浜山手読書会の能見学、そして今回久し振りにカムバック参加の門田七花、初参加であるが学生時代から英語劇を演じてきた泉谷果穂と和智太誠の二人が新メンバーとして参加、そして友情出演として元静岡英和学院教授の清水英之と、学生時代から英語でのシェイクスピア劇を演じてきて大学院でシェイクスピアのソネットを専門にして今は講談師となった神田ようかん、それにエーライツ所属の小松大和の9名で、日英語朗読劇『じゃじゃ馬馴らし』を演じた。
横浜山手読書会の佐藤小麦の司会で、その代表の奥浜那月の挨拶に続いて、SAYNK代表の瀬沼達也によるレクチャー。
そのレクチャーの中で、チラシの表紙に描いている絵が枠で囲まれている意味として、 『じゃじゃ馬馴らし』の劇が、鋳掛屋スライが領主に祭り上げられて旅役者たちの芝居を観るという劇中劇の構造となっていることを示唆しての「枠」であることが説明された。
そのことで思い出したのは、シェイクスピアの作品の中での劇中劇についてであった。
同じ喜劇の『夏の夜の夢』では、アテネの職人たちが公爵の前で劇中劇を演じる場面があり、悲劇『ハムレット』のなかで『ゴンザーゴ殺し』の劇中劇があり、の二つはまさに劇中での劇中劇である。
それにくらべてこの『じゃじゃ馬馴らし』は、劇中劇が本番となっている壮大な劇中劇である。
そのことについては批評家たちが諸説論じているが、演劇の世界ではこのスライが劇中劇を観終わった後、追い出された居酒屋の前で再び目覚めて、それまでのことが「夢」であったという追加を加えた演出もある。
『ヴェニスの商人』やこの『じゃじゃ馬馴らし』は、政治的意味合いやフェミニズムなどの批判などから時に上演はばかれる作品であるが、演劇の鑑賞としてはシェイクスピアの時代に戻って楽しめばよいと思っている。
シェイクスピアの時代、がみがみ女を鎮めるためにシーソー板に椅子に縛り付けてその椅子を川の中につけるお仕置きがあったという。そのことを考えると、がみがみ女に対する被害は日常的な事で、それに周囲の者が苦しめられていたことが想像される。
また、シェイクスピア本人のことを見ると、彼が8歳年上の妻と3人の子供たちを残してロンドンに出て行ったのはもしかして年上女房のがみがみから逃れるためではなかったかと思うと面白い。それに『十二夜』ではオーシーノ公爵がヴァイオラに年上の女との結婚はよくないと話す場面は、シェイクスピアの体験を語っているようでもあり、瀬沼達也の解説を聞きながら、そんな思いにも耽った。
25分間のレクチャーに続いて、本番の朗読劇の始まり。それは単なる朗読劇でなく、立ち稽古ともいえる立体的な朗読劇であった。
鋳掛屋スライが登場する序幕やそのほかの省略される場面については、ナレーターとして神田ようかんが概況を説明する。
主役のペトルーチオを演じる瀬沼達也とキャタリーナを演じる門田七花とホーテンショーを演じる能見学以外は、全員が一人複数の役を演じ、役の演じ分けは帽子の有無や帽子の違いの変化で表した。
二役の人物が同時に登場する場面では帽子を脱いだりかぶったりして忙しく対応する。なかでも圧巻な場面は、清水英之が演じるバプティスタとヴィンセンショーが互いに言葉を交わす場面では、清水は帽子を気ぜわしく帽子を被ったり脱いだりの大奮闘で、その所作を見るだけでも面白く、楽しかった。
その他の登場人物については、グルーミオ、グレーミオ、マントヴァの商人を小松大和、ルーセンショーと帽子屋を和智太誠、ビアンカとビオンデロを泉谷果穂、未亡人、仕立屋、役人を飯田綾乃が演じた。
新たな出発にふさわしいフレッシュな舞台で、心地よく演技と台詞を楽しませてもらった。
今回事情により会場が変更となったが、この劇の舞台にふさわしいイタリア庭園内で、通常の会場(劇場)とは異なって、部屋の一隅が全面ガラス張りとなっていて開放的な雰囲気で観劇を楽しむことが出来た。
今回の舞台は、英語での台詞が40%、日本語での台詞が60%での構成で、その配分だけでなく登場人物の台詞の内容によっての日英語切り替えのタイミングもよく、聞きやすいものであった。
出演者の顔ぶれと合わせ、次回からの公演が大いに期待される舞台であった。
上演時間は、レクチャーを含めて休憩なしで、2時間。
台本構成・演出/瀬沼達也、音響・照明/飯田綾乃
シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)主催/横浜山手読書会共催
3月22日(土)14時開演、横浜山手西洋館・ブラフ18番館ホール、入場料無料
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