2025年髙木登観劇日記
 

   阿羅華瑠人公演 朗読劇 『アントニーとクレオパトラ』 
          ― 愛と死の果てに ―              
No. 2025-012

 3月13日から23日まで中野スタジオあくとれで、仮想定規が提供する同日同劇場で45分公演を上演するという「フリンジフェスティバル」の参加作品の一つとして、グループ「阿羅華瑠人」のメンバーで新地球座代表の倉橋秀美が、菊池真之と琵琶演奏者の尼理愛子と組んで「アラカルトスペシャル」として参加。
 二人だけでの朗読劇として坪内逍遥訳での『アントニーとクレオパトラ』の台本構成を依頼されたとき、すぐにサブタイトルとして浮かんだのが「愛と死の果てに」であった。
 『アントニーとクレオパトラ』は場面転換が非常に多いだけでなく登場人物も多く、内容も多岐にわたっており、そのまま上演すれば3時間半はゆうにかかる劇を45分で、しかも二人だけで演じるとなるとテーマを鮮明にして絞る必要があると考えてのことであった。
 劇場空間は、平土間で全体の色調が漆黒で何もない空間である。
 舞台下手に琵琶演奏者、その右側(観客席から見て)にクレオパトラ、1メートル強の間をあけてアントニーが座る椅子、それだけの装置である。
 クレオパトラの倉橋秀美が下手奥から、アントニーの菊地真之が上手奥から登場し、おもむろに椅子に腰かけ、静謐な雰囲気のなか、尼理愛子の琵琶演奏から朗読劇が始まる。
 妖艶さを漂わせるクレオパトラを演じる倉橋秀美のメイクにまず目が注がれた。
 クレオパトラとアントニーの愛と権力が最も盛大なときから、権力の失墜と愛の破局と回復、そしてその愛が果てる両者の死。その間の出来事は二人の愛の間では過ぎ去っていく風景に過ぎない。二人の間の愛のゆらぎとゆらめきがこの朗読劇の焦点となっている。二人は死によって永遠に堅く結ばれる、熟年版『ロミオとジュリエット』である。
 この二人の愛と死の物語を、尼理愛子の琵琶演奏によってこの朗読劇がより立体的なものとなって、時に所作を伴っての二人の朗読劇をしみじみと、味わい深く聴き入らせてもらった。
 このフェスティバルでは、観客者の投票(五つ星での評価)によって、優秀作が選ばれることになっているが、その評価は、観客動員数によるところ大となるだろう。お遊びとして、その結果も待ち遠しい。


坪内逍遥訳・台本構成/高木 登、演奏/尼理愛子
3月14日(金)15時開演、中野スタジオあくとれ、チケット:3000円、全席自由


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