東日本大震災から今年は14年目を迎える。2015年から毎年大震災の日に東北の震災を思う『ハムレッツ』を公演し、23年からはその続編とも言うべき『H/ash』シリーズを上演し、今回はその3回目で、『ハムレッツ』公演と合わせて10本目となる節目ともなっている。
声の出演者、朱丹璇が歌う英語と日本語を混ぜた八代亜紀の「舟歌」のバックミュージックがかすかに聞こえるなか、丹下一が登場し舞台中央の椅子に腰かけ、手酌で酒を飲むパーフォーマンスで、『ハムレット』の墓堀人を演じ、女が水のところまで行って溺れたのか、水の方が彼女の方に向ってきて溺れたかを論議する、オフィーリアの埋葬の墓を掘る場面である。この場面ではすぐに津波のことを思い出して、水の方が女(オフィーリア)のところまでやって来て彼女を溺れさせたということがリアルに生々しく感じられる。
続けて語られる台詞は直接には言及されないが、その台詞からははっきりと福島原発事故を想起させる内容である。王さまが安全と思うなら「みやこ」の方にそれを建てればいいのにという台詞に、「万が一」の事を思ってだと応じると、それなら「想定内ということだちゅうことだ」と応える。
この津波に関連させたオフィーリアの水死と福島原発事故の話題を、墓堀人がまったく同じセリフとパーフォーマンスで二度繰り返して場面は展開していく。
謁見の場の後のハムレットの最初の独白、「この堅い肉体が溶けてしまえばいいのに」という台詞をはじめ、「To be, or not to be」の部分だけを英語で言った後、有名な「生きるべきか、死ぬべきか」の長い独白、そして「人間とは一体何だ」という独白など、今回はハムレットの独白が劇の進行中にモザイク模様のようにはめ込まれ、途中に吉田優子歌集『ヨコハマ横浜』の中の短歌が要所要所で、時に絶叫的に朗じられる。
そして、白い衣装の種川遼がオフィーリアとして現れ、封書に入った震災の被害者の手記を読み上げる。その彼女の周囲を、黒衣姿の上田貘が黒子のように動き回り、時にパントマイムのようにして舞踊を演じる。
『ハムレッツ』のシリーズではオフィーリアらしき女性が、履いていたハイヒールを舞台上に何度も投げ飛ばしていたのが強く印象に残っているが、この劇では黒子の上田貘がオフィーリアの脱いだローヒールを手に持って歩き回るだけであった。この所作はこの劇における何かを表象しているような意味を感じさせるのだが、その意味合いは自分には謎である。しかし、謎のまま深い印象を与えずにはおられない。
劇中、時に長い沈黙、そしてヒグマ春夫が映し出すシュールな抽象的な映像とで息詰まるような緊張感に迫られ、一方では爆発的に発せられる丹下一の発する吉田優子の短歌に圧倒させられる。
被災者の手記がその間にも種川遼によって読み上げられ、最後は再び、丹下一の墓堀人の場面に戻って最初と同じセリフが繰り返され、そして暗転し幕となる。
わずか1時間足らずの上演であるが、緊迫感に圧倒される舞台であった。
出演は、丹下一と上田貘、種川遼の3人。
アトリエ第Q藝術は改修工事に入るため、この場所での公演は今回が最後となることが終演の挨拶として丹下一から告げられ、来年は台湾での公演になるという。
テキスト/W. シェイクスピア『ハムレット』他(江戸馨訳)、吉田優子歌集『ヨコハマ横浜』他
構成・演出/丹下一、映像/ヒグマ春夫、音楽/柴野さつき
3月10日(月)19時開演、成城学園前・アトリエ第Q藝術1階ホール、
チケット:3500円、全席自由席
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