昨年、『リア王』の公演でエドマンドを演じた君島久子を見て、次回の『ハムレット』は彼女で決まりだなと思っていた。それほど、その時のエドマンドはハムレットを彷彿させるものであった。今回はその予想通り、彼女が容姿端麗なハムレットを演じたそのことが、この上演の一番強い印象であった。
今回それに加えて特に注目したのは、ポローニアスの召使レナルドーの登場する場面があったことである。
『ハムレット』はノーカットで上演しようとすれば4時間はゆうにかかるので、通常はこの場面はカットされることがほとんどであり、この場面を見ることが出来るのは珍しい。
レナルドーとポローニアスが交わす会話によって、ポローニアスの老人特有の性格が露呈され、特に、話の途中で自分が何を言おうとしているか失念してしまうことは身に覚えもあることで、ポローニアスの人物像をより鮮明にしてくれるだけに興味深い場面でもある。
話が前後してしまうが、この劇の始まりはいつものように、ハムレットを思わせるようなダンサーの吉田明莉によるモダンダンスから始まる。
場面の要所におけるこのダンスの挿入が『ハムレット』の舞台をシンボリックにする。
吉田明莉の衣裳は濃紺で、彼女とペアで踊る弥奈美(みなみ)の衣裳は純白で、場面によってはオフィーリアをイメージさせ、劇中劇の後でのダンスの場面ではハムレットがオフィーリアの膝を枕に寝そべる演技がそのダンスの所作の中で繰り返されるところなどはその印象を強くさせた。
今回ダンサーの中に、小松アニーが踊るインドネシアのジャワ島のダンスが、タイやバリ島などの小乗仏教的な所作で劇中劇の前の黙劇の代りに踊ったのも注目された一つであった。
2024年の飛田修司主演の『ハムレット』でも劇中のダンスが劇の中核をなしていたと観劇日記に記しているが、劇中のイメージを豊かにしているという点で今回もより強く感じた。
場面ごとにおける印象、注目した点は挿入されたダンス以外には以下の通りである。
まぜ、「謁見の場」におけるハムレットの姿。登場人物は、中央にクロ―ディアスとガートルード、舞台の上手にはポローニアスとレアティーズ、オフィーリア、そして下手の前方に全身黒ずくめの衣裳のハムレットが直立不動で立っている。その奥には、ノルウェーへの使節となるヴォルティマンドとコーネリアスが控えている。ハムレット以外にコーネリアスとレアティーズを女優が演じている。
ダンサー3名を除く出演者の総数20名の内半数が女性ということもあって、男性役を女優が演じているケースが多いのも特徴で、レナルドーや墓堀人の一人なども女優で、旅役者一座は10名程の賑やかな大所帯である。
旅役者が演じる朗誦劇「ピラスの豪傑」は役者一人でなく、全員が横一列に並んで輪唱で語るのも圧巻である。
ハムレットとレアティーズの剣の試合は、演じる二人がともに容姿端麗で釣り合いが取れていてカッコよく感じた。
台詞を聴かせるという点に於いては、ハムレットを演じる君島久子の独白を詠じる場面などは、第一独白から聴き入らせてくれ、耳を楽しませてくれ、この台詞力を楽しむという点では、クロ―ディアスを演じる松桂太郎の台詞力もその一つで、シェイクスピアは台詞を聴かせる劇であることを楽しませてくれた。
途中休憩5分を入れて2時間40分に凝縮されているとはいえ、レナルドーの出演する場面を含め、フォーティンブラスの出演する場面もカットされることなく、原作『ハムレット』全体を網羅した演出であった。
主な出演者は、ハムレットの君島久子ほか、クロ―ディアスの松桂太郎は亡霊も演じ、ポローニアスは前回クロ―ディアスを演じた番藤松五郎、ホレイショーには荒井良太郎、レアティーズは景也流水、前回ハムレットを演じた飛田修司がローゼンクランツとオズリックを演じ、レアティーズを演じた金純樹がギルデンスターン、ガートルードには横田勝美、オフィーリアには根岸花、旅役者の座長と墓堀に芳尾孝子など。前回との出演者の違いや演出の違いの比較を観る興味もあった。
訳/小田島雄志、台本構成・演出/カズ、演出補助/田中香子、振付/吉田明莉
2月26日(水)19時開演、座・高円寺2、チケット:5000円、座席:全席自由
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