舞台では、開演前からパックが平土間の舞台を所在なく歩き回っている。
1階から地下の観客席に通じる階段の踊り場に、ロミオとロザラインが登場。二人はロミオとロザラインだが、会話は『ヴェニスの商人』のロレンゾーとジェシカの「きっとこんな夜だった」で始まる台詞が交わされる。ここでは、ロミオの叶わぬロザラインへの恋は実っているように見え、二人はロレンゾーとジェシカとなっている。
しかし、ある雨の日にロミオはジュリエットと出会い、二人は恋に陥る。
二人が出会った翌朝、パリスの邸。ジュリエットは出勤する前の夫、パリスの世話をかいがいしく世話をしている。パリスは出かける前に、戸締りを厳重にするようにジュリエットに言いつけて出かける。ジュリエットは「さようなら。うまくことがはこべばこれでお別れ」という言葉を残してロミオと駆け落ちする。この場ではジュリエットはジェシカでパリスは父親としてではなく夫としてのシャイロックに変じている。
一方、ロミオの親友ベンヴォーリオは、ひそかにロザラインに恋している。ロザラインはロミオの心変わりをパリスに告げ口してジュリエットの後を追わせ、ロザラインはロミオを追って、ベンヴォーリオはロザラインを追ってロミオとジュリエットが駆け落ちした森の中へと入っていく。
森の中には、三人の魔女がいて、その三人の魔女は、マクベス夫人とオフィーリアとデズデモーナ。ここからは『夏の夜の夢』が展開する。ロミオはライサンダーとなり、ジュリエットはハーミア、ロザラインはヘレナ、ベンヴォーリオとパリスはデミートリアスとなる。しかし、ベンヴォーリオのデミートリアスは『夏の夜の夢』のデミートリアスとは立場を逆にし、ロザラインを慕って追いかける立場となり、その台詞と役回りは逆転し、ベンヴォーリオはロザラインのスパニエルになりたいと言う。
魔女の惚れ薬でもつれた恋の糸。大騒動で疲れた5人は寝入ってしまい、一足早く目覚めたジュリエットはロレンス神父にもらった薬を飲んで死んだようになり、後から目覚めたパリスはジュリエットの脈が止まって冷たくなっているのを見て絶望して短剣であとを追おうとするのをロレンス神父が制止する。
ジュリエットが静かに目覚める場面は、『冬物語』の石像としてのハーマイオニとレオンティーズの再会の場と重ねられる。
目覚めた5人の恋の結末は、ジュリエットとパリスは元の鞘に収まるものの、ロミオはジュリエットからもロザラインからも見捨てられる。片想いのベンヴォーリオがロザラインをゲットできるかとかすかな望みを期待するが、ロザラインが選んだのはロレンス神父。
ロザラインがロレンス神父を選んだのは象徴的である。『ロミオとジュリエット』のロザラインが世俗の恋を棄てた女性として語られることを体現しているととらえることができる。
最後は、3人の魔女たち、すなわち、マクベス夫人がマクベスへの愛の思いを、オフィーリアがハムレットへの愛の思いを、デズデモーナがオセローへの愛の思いをそれぞれが口にする。この物語、劇は、恋の喜劇であり、愛の物語であることを示すかのようである。
タイトルが示すように、この劇は『夏の夜の夢』を主軸として、シェイクスピアの作品が各所に顔を出し、ときどき『ロミオとジュリエット』がスクランブルし、劇中に登場する作品は、『ヴェニスの商人』の他に、『じゃじゃ馬馴らし』、『マクベス』、『ハムレット』、『お気に召すまま』、『オセロー』、『冬物語』、『リチャード三世』。
劇の展開を追いながら劇中の台詞がどの作品のものかを探し当てるという楽しみを味あうことができる。
出演は、ロミオに河村岳司、ロザラインに近藤陽子、ベンヴォーリオに伊藤大貴、juriedに佐々木絵里奈、パリスに松尾竜兵、ロレンス神父に星和利、魔女1(マクベス夫人)に坂田周子、魔女2(オフィーリア)に長尾歩、魔女3(デズデモーナ)に金子久美子、パックに客演の白石翔太。
カーテンコールで、劇中で『リチャード三世』の冒頭の独白の一部を語ったロミオを演じた河村岳司がリチャード三世の姿で現れたのも一興であった。
上演時間は、休憩なしで1時間30分。
翻訳/小田島雄志、脚本構成・演出/沢海陽子
2月8日(土)14時開演、新井薬師・ウエストエンドスタジオ、チケット:4600円、全席自由
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