夏の夜の夢の 『から騒ぎ』                    No. 2024-022

 この劇の演出スタイルで感じた印象は、『夏の夜の夢』。休憩後の後半部は、夜警団とそれを率いる警吏ドグベリー登場の場から始まるが、それが『夏の夜の夢』のアテネの職人たちの登場と重なって見えてきた。
 原作での第五幕第三部に当たる場で、ドン・ペドロとクローディオがヒーローの墓地を訪れた時、ドン・ペドロの、「夜が明ける、諸君、松明を消すがいい。狼どもがねぐらに返り、見ろ、静かな朝が日の神フィーバスの車を迎えんものと、眠たげな東の空を染めている」という台詞が、『夏の夜の夢』の第五幕の最終場の妖精の王、オーベロンの台詞、「妖精たちよ、夜明けまで踊れ」と重なって聞こえた。
 というのも、この同じ演出者による『夏の夜の夢』で、今回ドン・ペドロを演じた倉石功がそのときオーベロンを演じていたのが思い浮かんできたからでもあった。そしてそのとき、アテネの職人のピーター・クインスを演じたのが今回ドグベリーを演じている田中香子ということもあって、イメージが二重に重なってきたのだった。
 そして全体の構成を改めて見直してみると、『夏の夜の夢』とそっくりに感じられた。
 『から騒ぎ』に登場する二組のカップル、ヒーローとクローディオ、ベアトリスとベネディックは、『夏の夜の夢』のハーミアとライサンダー、ヘレナとデミートリアスで、夜警団はアテネの職人たちと重なる。
 『夏の夜の夢』でも面白い場面は職人たちの登場場面であるが、この『から騒ぎ』の演出でもドグベリーと夜警団の登場の場面が面白い。
 この演出者による『から騒ぎ』は、2017年7月にも上演されていて、全体の構成は今回もほとんど変らないものの、出演者は主役を含めてすべて異なっている。
 今回ドグベリーを演じた田中香子は、これまでにこの演出者による舞台では、マクベス夫人やポーシャなど重要なヒロイン役を演じ、『リア王』ではコーデリアと道化役、『夏の夜の夢』でピーター・クインス役などを演じてきたほか、その他の舞台では、シアター×の「名作劇場」などで和風で清楚な居住まいのヒロイン役などを演じており、その幅広い演技力が魅力で、その彼女が急に道化的役のドグベリーを演じることになったということで、急遽観劇の予定に組み入れた次第であった。
 この舞台では、今回もダンサーたちによるダンスが主要な役割を果たしていて、それも見ものの一つでもあったが、ドグベリーと女性陣による夜警団(前回もこれらの役は女優たちが演じた)の場面も大いに楽しませてもらったほか、倉石功の重厚な存在感のあるドン・ペドロや、レオナート役の番藤松五郎も渋い演技で印象に残った。
 その他の出演者として、ベネディックに劇団AUNの飛田修司、ベアトリスに鹿目真紀、ヒーローに岡林芽久、クローディオに金純樹、ドン・ジョンに前田貞一郎、レオナートの兄アントーニオに堤健二郎など、総勢18名にダンサー5名。
 上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで、2時間30分。

 

訳/小田島雄志、台本構成・演出/Keeper
6月8日(土)13時開演、座・高円寺2,料金:5000円、
全席自由(前列2列目の中央の席で観る)


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