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公演案内のチラシを見たとき、はじめに気付いたのがキャストにホレイショーがいないことだった。もっとも、いないのはホレイショーだけでなく、ローゼンクランツとギルデンスターンもいない。
亡霊のキャステイングもない。6人の俳優による8人の登場人物の『ハムレット』である。
ハムレット、クローデイアスとガートルード、ポローニアスと、レアテイーズ、オフイーリアの家族。
ポローニアス役がフォーテインブラスを兼役、従者をオフイーリア役が兼役し、あわせて8人の登場人物である。この6人は、最後はみんな死んでしまうわけである。残るのは、フォーテインブラスと従者のみ。
ハムレットとポローニアスの二つの家族の悲劇、という構造が6人という少ない俳優のキャステイングで鮮明化される。
『ハムレット』といえば、<ハムレット王子の悲劇>のようにまず思ってしまうが、このような構造の演出にかかると、ハムレットの悲劇はその全体の構造の中に含有されているのが見えてくる。
これはハムレット一人の悲劇なのか。むしろ無惨なのはポローニアスの家族の死ではないか。ポローニアスがハムレットに殺されなければ、オフイーリアの発狂もなく、死もない。
レアテイーズも無益にハムレットと争う必要もなく、復讐の刃が自分の身に返って命を落とすこともなかった。
ハムレットの復讐のための生贄となってしまった不幸な家族である。'To be,or not to be.'の台詞は、「やってしまうべきかどうか、どちらが男らしいか」というように訳された。
この訳にもその一端が伺えるが、6人という小人数と、全体で1時間50分という凝縮された上演時間の演出を可能にするため、台詞の多少の翻案や附加がある。
当然省略はそれ以上に多いが、全体としてはしっかりした構築で、シンプルで分かりやすい演出である。
劇の始まりの印象は、シェイクスピアとだいぶ違うのではないかという気がしたが、全体の流れでは大筋において原作に忠実といえる。
キャステイングのない亡霊も、ハムレットの台詞を通して登場するし、ホレイショーや、ローゼンクランツとギルデンスターンも、他者の台詞を媒体にして登場する。また役者達による劇中劇も行われる。
ハムレット、オフイーリア、クローデイアス、ガートルード、ポローニアスは観客席に向かって劇中劇を観る。役者達の演技の進行は、オフイーリアがハムレットに、その演技の意味内容を質問する形で窺い知ることができる。
ハムレットを演じる貝塚秀人は、熱演であった。感情の起伏の激しいハムレットを、驚愕で恐れおののく姿、佯狂でポローニアスやクローデイアスを煙に巻く演技などは、好演である。
ポローニアス役の小山陽一も奮闘。
全体として、ストレートプレイにふさわしく、全員が台詞を大事にしっかりと語っていたのが好ましい。
構成・台本・演出/沢田次郎
4月20日、中野区・櫻会スタジオ
<追 記>
開場時間より早く着きすぎて、会場案内の劇団員と話す機会があって、この劇団について若干知ることができた。櫻会は結成して丸5年になり、これまでの上演作品は、イプセンの『人形の家』や『幽霊』、テネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』、それに会の代表である沢田次郎のオリジナル作品などである。今回の『ハムレット』は初めてのシェイクスピア作品の上演だという。劇団員は現在9名で、30歳以下の若い団員からなり、地域に親しんでもらえる劇団を目指しているという。
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