ピーター・ブルックの The Tragedy of Hamlet /「ハムレットの悲劇」を観た
そしてその感動が、日を追うごとに僕の中で高まっている。ブルックの脚色は予想以上のものだった。最も驚かされたのは、3幕1場の冒頭にある "To be, or not to be ..." で始まるハムレットのあの有名な独白を4幕4場に「移植」したことである。彼のような巨匠(マエストロ)だからこそ可能だった「大胆さ」と言える。駆け出しの演出家が同じことをしたら、きっと守旧派のシェイクスピア学者たちの総攻撃にさらされたに違いない。
「後世に語り継がれる『ハムレット』のステージとして、ベルイマンとともに双璧をなすものでしょう」と劇場のアンケート用紙には短く書いたが、これは見終わった瞬間の実感だった。僕は、このステージを逃すと禍根を末代まで残すことになると思った。このようなすばらしい作品に出遭うと、あらためてシェイクスピア作品の奥深さと、その世界の中にいられる時間に幸せを感じる。
「シェイクスピアは一塊の石炭である」とはブルックの言葉。「石炭は燃え上がり、あるべき姿になる。その時こそ石炭は本来の力を生きなおす」のだという。「ハムレット」は「巨匠」の手によって、燃えあがり、あるべき姿になったのだ。
|