サムエル・ピープスの観劇記 第7章

 

 一旦終息するかと見えた疫病の流行が引き続きくすぶっており、そのせいもあってかこの年の観劇回数も前年と同じくわずか6回だけである。
 この年は多事多難の年でもあり、2月には国王がフランスに宣戦、6月には前年2月に貿易の権益をめぐって始まったオランダとの海戦に敗れ、戦費も増大し1664年9月からこの年の9月までに320万ポンド費やし、支払ったのは220万ポンドほどで、残り90万ポンド以上が負債となっている。
 9月2日の主の日、ロンドンに大火。火事は4日4晩続き、シティを焼き尽くしセント・ポール寺院の屋根も焼け落ち、セント・ポール・チャーチヤードの本屋の本の焼失による損害は15万ポンドにのぼった。
 ピープスは順調な出世でこの年の収支は、昨年の支出509ポンドに対し1154ポンドと増大し、収入は昨年の3560ポンドに対し2986ポンドと減少したものの、貯蓄は年末には6200ポンドを超えた。
 3月19日には舞台拡張のため改築中の王立劇場の裏方を見学している。楽屋裏や装置など見て一見の価値ありとしているが、ろうそくの明かりで観るときと違ってすぐ目の前に布製の脚や襞襟、木馬などを見るとなんとみすぼらしく見えることかとしているが、装置や背景に使う絵画は立派だと感心している。
 観劇の回数が減った分、日記には戯曲の読書の記録が増えている。
 7月18日、’The Rivall Ladys’(『恋敵の夫人たち』)を読む。
 8月5日、’the second part of The Siege of Rhodes’(『ロドス島の攻略・第二部』)を読みなおし、大いに楽しむ。
 8月15日、’The Adventure of five hours’(『5時間の冒険』)を読む。
 8月20日、水路、デットフォードに行く途中’Othello, Moore of Venice’(『オセロー』)を読むが、これまで立派な戯曲と思っていたが『5時間の冒険』を読んだ後ではつまらなく思えた。
 11月2日、’The Bondman’(『奴隷』)を読了し、’The Duchess of Malfy’(『モルフィ公爵夫人』)を読み始める。
 11月21日、夕食後、妻と弟にチョーサーの作品を読んで聞かせる。
 クリスマスの日の生活をのぞいてみると、12月25日の日記には「ゆっくりと起床し、妻は女中たちがクリスマスのミンスパイ(ひき肉に、干しブドウ、リンゴなどを刻んで砂糖、香料、スエットなどを加えたパイ)を作るのに朝の4時まで付き合っていたのでゆっくり寝させてやる。一人で教会に行き、ミル牧師の説教を聞き、自宅に戻って、妻と弟とベイカー氏と一緒にローストビーフのリブとミンスパイを食べ、それにワインをたっぷりと飲む。食後に妻とベイカー氏に自分の歌を教える」

 

(1) 12月7日、’The Mayds Tragedy’

 王立劇場で『乙女の悲劇』を観るが、着いた時には2幕がすでに終わっていた。いい劇で、うまく演じられていた。特に妹のマーシャル(レベッカ・マーシャルのこと。姉はアン・マーシャル)は立派な女優になった。疫病大流行後、初めての観劇だが、上演が始まって14日が経っている。ピープスは誰かに見られていないかとびくびくする。

[注] The Mayds Tragedy =『乙女の悲劇』はボーモントとフレッチャーの共作。

 

(2) 12月27日、’The Scornful Lady’

 午後、サー・バッテンの食事に招かれ妻と一緒に出掛けるが、大人数の割には量もなく、食事の内容もたいしたことはなかったので途中で退席し、コーチ(四頭立て馬車)で妻と王立劇場に行き、そこでクリード(サンドイッチ伯爵の使用人)と会い、同行する。劇場では『横柄な夫人』を観る。ドル・コモン(女優のキャサリン・コーリー)がアビゲイル(侍女)を大変うまく演じていた。それにニップ(国王一座の女優エリザベス)も大変良かった。年取った役者が演じるその他の場面はそれほどよくなかった。

[注] The Scornful Lady= 『横柄な夫人』はボーモントとフレッチャーによる喜劇。

 

(3) 12月28日、’Mackbeth’、’Henry the 5ht’

 公爵の劇場で『マクベス』を観る。大変素晴らしく演じられており、変化にとんだ最も素晴らしい劇だった。
終演後、妻を迎えに寄こしたが、クロークを忘れて劇場に戻っている間に妻とはぐれてしまい、ホワイトホールに行き、そこで(タンジール総督の)ベラシス卿(男爵)と落ち合って劇場に連れて行ってもらう。そこで国王はじめ全員役者たちを1時間以上も待って、公爵一座による『ヘンリー五世』を観る。この夜のためにだけの素晴らしい衣装を新調していた。自分の席は高いところで舞台から遠く離れていたのでほとんどの台詞が聞き取れなかった。おまけに後ろから背中や首に風が吹き付けて大いに悩まされた。劇は夜中の12時まで続いた。


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