8 聖列加入 ジョン・ダンの部屋

 

頼むから口を噤んでくれ、そして僕に恋をさせてくれ、

僕の中風や、痛風を責めるなり、

僕の五本の白髪や、破産を嘲笑うなりしてくれ、

財産で君の身分を買い、学芸で君の心を磨き、

出世街道を進み、地位を得、

お偉方や、お坊様に頭を下げ、

王様の御尊顔、もしくは刻印されたその顔を注:1

拝顔するがいい。何でも君の好きにするがいい。

そのかわり、僕には恋をさせてくれ。

 

やれやれ、僕が恋をしたからとて誰が傷つくと言うのか。

僕の恋の溜息が、商人の船を沈めたとでも言うのかね。

僕の涙で、誰かの土地を水浸しにしたとでも言うのかね。

僕の寒気で早春が逃げ去ったとでも?

僕の血管に溢れる熱気で

疫病患者がまたひとり増えたとでも? 

兵士は戦争にこと欠かず、弁護士は

もめごとを好む訴訟人にこと欠かない。

たとえ彼女と僕が恋をしたところで。

 

何とでも呼ぶがいい、恋で結ばれたふたりを。

彼女が一匹の蛾であれば、僕も一匹の蛾、

ふたりは蝋燭でもあり、我が身を焦がして死ぬ。

僕たちの中には、鷲もいれば鳩もいる。

不死鳥の謎は、僕たちによって解明される。

僕たちは、二人で一人という謎そのものだから。

二つの性が合体して一つの中性と化し、

僕たちは死に、甦る。そして、

この恋によって神秘な存在となる。

 

恋で生きることはできなくても、恋で死ぬことはできる。

墓石や柩にふさわしくなくても、

僕たちの恋物語は、詩にふさわしいものとなるだろう。

年代記の一篇となれぬまでも、

愛の詩の中に美しい部屋を築くだろう。

見事な装飾に飾られた骨壺は、

偉大な人物の半エーカーの墳墓にも劣らない。

この愛の賛歌によって、人々はみな、その愛ゆえに、

僕たちを聖列に加えることを認めるだろう。

 

そうして、僕たちにこう祈るだろう。聖愛によって

お互いが隠れ家となられた方たちよ、

あなた方にとって平和であった愛は、今では狂気の沙汰となりました。

あなた方は、全世界の魂を凝縮し、

あなた方の瞳の中に、

(鏡とも、密偵ともなって、

すべてのものを縮図にして見せ、)

田舎も、都会も、宮廷も納められたのです。どうか、天の高みから、

あなた方の愛の手本をお示しください。

 

 

【訳注】

原題:’Canonization’

 

注:1 「刻印されたその顔」とは、王様の顔を刻印した貨幣のこと。

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩