ここできみと一緒にいる間は、
きみの前で泣かせておいて欲しい。
きみの顔が僕の涙を鋳造し、その涙がきみの顔を刻印する。
この鋳造所では、僕の涙はいささか価値がある。
というのも、僕の涙は
きみの絵姿を孕むから。
涙は多くの悲しみの結実であり、さらに多くのものの表象、
一粒の涙がこぼれれば、涙に宿るきみも落ちる。
海を隔てて別れれば、きみと僕とは、お互い存在しない。
まるい球に、
手元の地図を頼りに職人は、
ヨーロッパ、アフリカ、アジアを描き込み、
ただの丸い球を、あっという間に地球儀に作り上げる。
同じように、涙の一粒、一粒が、
きみの絵姿を宿し、
きみを映し出すことで、地球儀となり、全世界となる。
きみの涙と僕の涙が一緒になって洪水となり、この世は
沈み、僕の天国はきみの流す涙で溶解する。
ああ、月に勝るきみよ、
天とも仰ぐきみの中で、涙の海を引き寄せて僕を溺れさせないで欲しい。
きみの腕に抱かれた僕を、涙で殺さないでくれ。
早まったことをしないよう、海に教え諭してくれ。
風に悪知恵をつけ、
それを手本にして、
思いもよらぬ危害を加えさせないで欲しい。
きみと僕とは、互いに相手の息で溜息をつくのだから、
最も多く溜息をつく者が、最も残酷な者となって、相手の死を招くのだ。
【訳注】
原題:'A Valediction: of Weeping'
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