52 別れ―涙に寄せて

 

        ここできみと一緒にいる間は、
 きみの前で泣かせておいて欲しい。
 きみの顔が僕の涙を鋳造し、その涙がきみの顔を刻印する。
 この鋳造所では、僕の涙はいささか価値がある。
というのも、僕の涙は
        きみの絵姿を孕むから。
 涙は多くの悲しみの結実であり、さらに多くのものの表象、
 一粒の涙がこぼれれば、涙に宿るきみも落ちる。
 海を隔てて別れれば、きみと僕とは、お互い存在しない。

        まるい球に、
 手元の地図を頼りに職人は、
 ヨーロッパ、アフリカ、アジアを描き込み、
 ただの丸い球を、あっという間に地球儀に作り上げる。
同じように、涙の一粒、一粒が、
        きみの絵姿を宿し、
 きみを映し出すことで、地球儀となり、全世界となる。
 きみの涙と僕の涙が一緒になって洪水となり、この世は
沈み、僕の天国はきみの流す涙で溶解する。

        ああ、月に勝るきみよ、
 天とも仰ぐきみの中で、涙の海を引き寄せて僕を溺れさせないで欲しい。
 きみの腕に抱かれた僕を、涙で殺さないでくれ。
早まったことをしないよう、海に教え諭してくれ。
        風に悪知恵をつけ、
        それを手本にして、
思いもよらぬ危害を加えさせないで欲しい。
 きみと僕とは、互いに相手の息で溜息をつくのだから、
 最も多く溜息をつく者が、最も残酷な者となって、相手の死を招くのだ。

 

【訳注】


原題:'A Valediction: of Weeping'

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩