5 花 ジョン・ダンの部屋

 

哀れ花よ、おまえは知らぬ、

私が誰をこの数日間見ていたかを。

おまえが生まれるのを見、一時間ごとに

成長し、ここまで高く伸び、

今ではこの枝の上で咲き誇っているのを見る。

おまえは知らぬ、

すぐに凍れる寒さがやってきて、

明日にはおまえは倒れるか、すっかり消えてしまうのだ。

 

哀れこころよ、おまえは知らぬ、

巣籠りせんものとあくせくし、

ここを寝座(ねぐら)と飛びまわり、

禁断の木や人を寄せつけぬ木の、

頑なな枝もたわめとばかり久しく攻めているが、

おまえは知らぬ、

明日になれば、かの太陽が目を覚ます前に、おまえは、

日の出とともに、私と、旅立たねばならぬことを。

 

自らを苛(さいな)むのを悦ぶ

おまえは、こう答えるだろう。

きみが行かなければならないからといって、ぼくには関係のないこと、

ぼくの勤めはここにあり、ここに留まる。

きみは友達のところに行くがいい。友達が愛情と資力とで、

様々な快楽を

きみの目、耳、口、全身に与えてくれるだろう。

だから、きみの肉体が出かけるのに、心は必要ないだろう、と。

 

それならそれで、ここに留まるがいい。だが、いいか、

おまえが留まって、力の限りをつくしたところで、

裸になった心が思いをかけても姿は見えず、

女にとっては、幽霊のようなものに過ぎないのだ。

彼女が私の心をどうして知り得よう、心を持たぬ彼女に、

おまえのことなど知る由もない。 

慣れ親しめば彼女にほかの個所を知らしめることはできるだろう、

だが、心して聞け、彼女が心を知ることなど決してない。         

 

それでは、ロンドンで会うことにしよう、

これから二十日後には、きっと見ることになるだろう、

ほかの男たちと一緒になって、今より元気に太っている私を。

それもこれも、おまえと彼女と別れたおかげだ。

願わくば、できれば、おまえもそうなってほしい。

おまえをささげる

次なる女は、必ずや、

心のみならず、肉体も喜んで迎えてくれるだろう。

 

 

【訳注】

原題:’The Blossom

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩