43 唄 ジョン・ダンの部屋

 

愛しい人よ、僕が旅に出るのは、

きみに倦いたからではない、

また、広い世界にもっと素敵な恋人を

探し求めるためでもない。

ただ僕は、

どうせいつか死ぬ身なら、

戯れに、こうして仮想の死注:1を繰り返すことで、 

我が身を死に慣らしておこうと思ったまでだ。

昨夜、太陽はここから出ていって、

今日はもうここに戻っている。

太陽には欲望もなければ、感覚もない、

道のりも、僕の倍以上だ。

だから心配することはない、

ただこう信じればよい、僕が太陽より速く

旅することができるのは、太陽より

多くの翼を持っていて、拍車の数も多いからだと。

 

ああ、人間の力とは何と弱いものか、

たとえ幸運に恵まれても、

一時も延ばすことはできないし、

失った時間を呼び戻すこともできない。

反対に、不運に見舞われれば、

その不運に手を貸して、

それを引き延ばす術を教え、

僕らを苦しめる手助けをする。

 

きみの溜息は、空気の風ではなく、

僕の魂を吹き消すものだ。

きみが涙を流せば、情が仇となり、

僕の命の血が枯れる。注:2

きみは僕を愛している

と人はいうが、そんな筈はない。

きみの中にある僕の命をすり減らせば、

きみこそ、僕の命。

 

未来を見通せるきみの心に、

僕の不運を予言させないでくれ。

運命の女神がきみに味方して、

きみの不安が的中しないように。

こう考えて欲しい、

僕たちは背を向けあって寝ているだけだと。

互いに命を保ちあっていれば、  

決して別れたことにはならない。

 

 

【訳注】

原題:’Song’

ウォルトンによれば、この詩は「別れ―嘆くのはおよし」とともに、ダンが1611年、大陸に旅するに際して妻のアンのために書いたものだという。

 

注:1 仮想の死は、不在を表わす。

注:2 溜息と涙は、命を縮めるものだと考えられていた。

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩