愛しい人よ、僕が旅に出るのは、
きみに倦いたからではない、
また、広い世界にもっと素敵な恋人を
探し求めるためでもない。
ただ僕は、
どうせいつか死ぬ身なら、
戯れに、こうして仮想の死(注:1)を繰り返すことで、
我が身を死に慣らしておこうと思ったまでだ。
昨夜、太陽はここから出ていって、
今日はもうここに戻っている。
太陽には欲望もなければ、感覚もない、
道のりも、僕の倍以上だ。
だから心配することはない、
ただこう信じればよい、僕が太陽より速く
旅することができるのは、太陽より
多くの翼を持っていて、拍車の数も多いからだと。
ああ、人間の力とは何と弱いものか、
たとえ幸運に恵まれても、
一時も延ばすことはできないし、
失った時間を呼び戻すこともできない。
反対に、不運に見舞われれば、
その不運に手を貸して、
それを引き延ばす術を教え、
僕らを苦しめる手助けをする。
きみの溜息は、空気の風ではなく、
僕の魂を吹き消すものだ。
きみが涙を流せば、情が仇となり、
僕の命の血が枯れる。(注:2)
きみは僕を愛している
と人はいうが、そんな筈はない。
きみの中にある僕の命をすり減らせば、
きみこそ、僕の命。
未来を見通せるきみの心に、
僕の不運を予言させないでくれ。
運命の女神がきみに味方して、
きみの不安が的中しないように。
こう考えて欲しい、
僕たちは背を向けあって寝ているだけだと。
互いに命を保ちあっていれば、
決して別れたことにはならない。
【訳注】
原題:’Song’
ウォルトンによれば、この詩は「別れ―嘆くのはおよし」とともに、ダンが1611年、大陸に旅するに際して妻のアンのために書いたものだという。
注:1 仮想の死は、不在を表わす。
注:2 溜息と涙は、命を縮めるものだと考えられていた。
ページトップへ
|