38 桜 草 ジョン・ダンの部屋

 

桜草の咲くこの丘に、

天が蒸留した

一振りの雨が降ってくれば、その一滴一滴が

桜草に落ちてきて、甘露となる。

その姿、その無限の数は、

地上の銀河となり、

まるで大空の小さな星のよう。

僕は真(まこと)の愛を探して歩く。

それは、女という並みの女ではなく、

それ以上か、それ以下の女である。注:1  

 

だが、僕にはどちらの花を選べばよいのか

分からない。六弁の花か、それとも、四弁の花か。

僕の真の愛が、並み以下の女であれば、

つまらぬ女、並み以上の女であれば、

彼女は性を超越した存在であり、

僕の心は、愛すことより、

彼女を究めることに傾く。

いずれにしても変種である。女に

欺瞞はつきもの、それゆえ天性ではなく、

手管でごまかされる方が、まだしも我慢ができる。

 

それゆえ、桜草よ、おまえの

真の数である五弁の花弁で栄えよ。

この花によって象徴される女よ、

この神秘の数注:2に満足せよ。

十は究極の数注:3。十の半分の数が

女のものであるなら、

我々男の半分をとるがいい。

それでも役に立たないというのなら、すべての数は

奇数か、偶数。その奇数と偶数が合わさってできる最初の数が

五であるから、女は男をみな奪えばよい。

 

 

【訳注】

原題:’The Primrose’

1635年の版では、副題として「モンゴメリー館にて」とある。モンゴメリー館はハーバート家の邸宅で、詩人のサー・エドワード・ハーバートの家であった。ダンは1613年にここに滞在し、4月7日にサー・ロバート・ハーレィに手紙を出している。モンゴメリー館でこの詩を書いたとすれば、1613年に書かれたことになる。

注:1 桜草は、通常、5弁の花びらであるが、4弁または5弁の桜草は、民間伝承で「真の愛」を表象すると言われていた。「それ以上か、それ以下の女」というのは、桜草の弁の数を比喩したもので、「真の愛」を示し、「並みの女」は通常の5弁の桜草を表わす。

注:2 「神秘の数」5という数字には魔力があると信じられていたので、伝統的に「魔法の数」とも言われている。5は奇数と偶数の和(2+3)の最初の数(1は数字のうちに数えられていない)であり、奇数と偶数は女と男を表象する。

注:3 10は普遍数で、すべてを内包する完全数であり、究極の数。「正義(公平)と婚姻」を表象する数でもある。

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩