36 聖ルーシーの日の夜想曲、一年で昼が最も短い日 ジョン・ダンの部屋

 

今日は一年の真夜中、一日の真夜中、

聖ルーシーの真夜中、太陽が七時間も顔を出さない日、

太陽は消耗し、太陽の火薬粉袋注:1は、

線香花火のような光をチラチラ点すのみ。

世界の樹液はすべて沈んでしまった。

水腫病みの大地は、命のもとである香油をすべて飲み干し、

魂が寝台の脚を伝って抜けていくように注:2、寿命が縮み、

死んで埋葬された。だが、こういったことはみな、

みなの墓碑である僕に較べれば、笑っているようにしか見えない。

 

時が移り、春となれば、恋をする君たちよ、

僕から学ぶがいい。

僕はすべての死の中の死、

愛はその死を使って新たな錬金術を作りだした。

愛はその技を用いて、

無そのものから、それに、重い絶望感と、虚しさから、

第五元素を抽出した。

愛は、僕を破滅させたが、

実体のない、不在、暗黒、死から、甦った。

 

すべての他のものは、すべての他のものから、良きもののすべて、

すなわち、生命、魂、形相、精神を引き出すことで、存在を得る。

僕は、愛の蒸留器で蒸留されて、すべてのものの墓である

無となった。僕たち二人は、よく涙を

流したものだ。それが洪水となって、

世界のすべてである僕たち二人を溺れさせた。二人は、

二つの混沌となって、他の何ものをも

顧みなかった。別れ別れになった

二人の肉体は、魂の抜けた屍となった。

 

だが、僕は彼女の死によって(その言葉は彼女を汚すもの)、

最初の無となり、第五元素注:3となった。

僕が人間であれば、人間であることを

意識しているはずだ。たとえ僕が獣であっても、

目的や手段の一つは選ぶはず、

草木や、石ですら、好き嫌いの感情は持っており、

すべてが、存在するすべてに何がしかの特性授けている。

僕が世の常の無であるならば、

影と同じように、光と実体があるはずだ。

 

だが、僕は、無の無。僕の太陽は再び昇ることはない。

恋する者たちよ、君たちのために、小さな太陽が、

今このとき、磨羯宮注:4にさしかかり、

新たに手に入れた情欲を君たちに授ける。

君たちの夏を存分に楽しみたまえ。

彼女はこの長い夜の祭を祝って過ごすので、

彼女の処に向かう準備をしよう。僕は、

今宵を、彼女の御籠り、彼女の前夜祭と呼ぼう。

今宵は、一年の、そして一日の、真夜中だから。

 

 

【訳注】

原題:’A Nocturnal upon S. Lucy’s Day, being the shortest day’

聖ルーシーの日は、12月13日。一年で昼が最も短い日で冬至、太陽が磨羯宮に入る。

ルーシーは光を意味し、暗闇を照らす光を明示する。また、ルーシーは、ダンのパトロンであったベッドフォード伯爵夫人の名前でもあり、この詩は彼女が1612‐13年にかけて重病であった時、或いは1622年、彼女の死に際して書かれたとグリアソンは提唱している。ダンの娘ルーシーは、ベッドフォード伯爵夫人に因んで名づけられ、彼女は1627年に亡くなった。

 

注:1 太陽の火薬粉袋とは、星のこと。

注:2 死んだ瞬間、魂は、寝台の脚を伝って死者から抜けていくと信じられていた。

注:3 第五元素は、人体を構成する四元素(地、水、空気、火)を超えた究極の元素。

注:4 磨羯宮(山羊座)は、情欲を表象する

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩