今日は一年の真夜中、一日の真夜中、
聖ルーシーの真夜中、太陽が七時間も顔を出さない日、
太陽は消耗し、太陽の火薬粉袋(注:1)は、
線香花火のような光をチラチラ点すのみ。
世界の樹液はすべて沈んでしまった。
水腫病みの大地は、命のもとである香油をすべて飲み干し、
魂が寝台の脚を伝って抜けていくように(注:2)、寿命が縮み、
死んで埋葬された。だが、こういったことはみな、
みなの墓碑である僕に較べれば、笑っているようにしか見えない。
時が移り、春となれば、恋をする君たちよ、
僕から学ぶがいい。
僕はすべての死の中の死、
愛はその死を使って新たな錬金術を作りだした。
愛はその技を用いて、
無そのものから、それに、重い絶望感と、虚しさから、
第五元素を抽出した。
愛は、僕を破滅させたが、
実体のない、不在、暗黒、死から、甦った。
すべての他のものは、すべての他のものから、良きもののすべて、
すなわち、生命、魂、形相、精神を引き出すことで、存在を得る。
僕は、愛の蒸留器で蒸留されて、すべてのものの墓である
無となった。僕たち二人は、よく涙を
流したものだ。それが洪水となって、
世界のすべてである僕たち二人を溺れさせた。二人は、
二つの混沌となって、他の何ものをも
顧みなかった。別れ別れになった
二人の肉体は、魂の抜けた屍となった。
だが、僕は彼女の死によって(その言葉は彼女を汚すもの)、
最初の無となり、第五元素(注:3)となった。
僕が人間であれば、人間であることを
意識しているはずだ。たとえ僕が獣であっても、
目的や手段の一つは選ぶはず、
草木や、石ですら、好き嫌いの感情は持っており、
すべてが、存在するすべてに何がしかの特性を授けている。
僕が世の常の無であるならば、
影と同じように、光と実体があるはずだ。
だが、僕は、無の無。僕の太陽は再び昇ることはない。
恋する者たちよ、君たちのために、小さな太陽が、
今このとき、磨羯宮(注:4)にさしかかり、
新たに手に入れた情欲を君たちに授ける。
君たちの夏を存分に楽しみたまえ。
彼女はこの長い夜の祭を祝って過ごすので、
彼女の処に向かう準備をしよう。僕は、
今宵を、彼女の御籠り、彼女の前夜祭と呼ぼう。
今宵は、一年の、そして一日の、真夜中だから。
【訳注】
原題:’A Nocturnal upon S. Lucy’s Day, being the shortest day’
聖ルーシーの日は、12月13日。一年で昼が最も短い日で冬至、太陽が磨羯宮に入る。
ルーシーは光を意味し、暗闇を照らす光を明示する。また、ルーシーは、ダンのパトロンであったベッドフォード伯爵夫人の名前でもあり、この詩は彼女が1612‐13年にかけて重病であった時、或いは1622年、彼女の死に際して書かれたとグリアソンは提唱している。ダンの娘ルーシーは、ベッドフォード伯爵夫人に因んで名づけられ、彼女は1627年に亡くなった。
注:1 太陽の火薬粉袋とは、星のこと。
注:2 死んだ瞬間、魂は、寝台の脚を伝って死者から抜けていくと信じられていた。
注:3 第五元素は、人体を構成する四元素(地、水、空気、火)を超えた究極の元素。
注:4 磨羯宮(山羊座)は、情欲を表象する。
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