31 愛の取引 ジョン・ダンの部屋

 

愛の神よ、どんな悪魔でも、

魂を差し出せば代償をくれるのに、おまえは違う。

宮廷では、おまえの仲間が毎日、

作詩術や、狩猟術、それに賭け事を教えている、

魂を売り払った連中の魂の代償に。

人より多く差し出したこの僕だけが何ももらえず、

身を低くしただけ、いっそう惨め。

 

今となっては特別許可をもらうため、

空涙や、嘘の溜息、偽りの誓いなどするつもりはなく、

自然法に基づく適用除外の権利を

願い出るつもりもない。

それらの特権は、おまえの生得のものであり、

おまえの家来のもの。偽証が許されるのは、

愛の神の従者だけ。

 

おまえの弱点を僕にくれ、

おまえとおまえの家来同様、目と心、二つとも、見えなくしてくれ。

愛の神よ、僕は知りたくない、これが

愛だとか、愛とは子供じみたものなどとは。

世間の者には知られたくない、

彼女が僕の苦しみを知っていることを。そうなれば、

傷つきやすい僕の心は恥の上塗り、悲しみが増えるだけ。

 

何ももらえなくても、おまえのせいではない、

おまえの最初の申し出を断ったのはこの僕だから。

大砲撃を受けるまで、頑強に抵抗した小都市は、

無条件降伏するのが戦争の掟。

恋の戦争では、僕の立場がまさにこれ、

情状酌量など求めようがない。

この女の顔を見せられるまで愛の神に逆らっていたのだから。

 

この顔をもってすれば、いかなる国の偶像崇拝をも

廃して、宗旨替えさせることができるだろう。

この顔が赴けば、たちどころに、

僧侶は僧院から抜け出し、死者は墓場から飛び出し、

北極南極の氷は融け、砂漠には

都市が栄え、大地では

石切り場が変じて、金鉱脈が増えるだろう。

 

僕の抵抗に、愛の神は腹を立てているが、

殺そうとはしない。後世の反逆者への

見せしめとなるなら、或いは、僕を切り刻み、

八つ裂きにすることで、次世代の教訓となるのなら、

愛の神よ、僕を殺して、解剖してくれ。このような

拷問は、おまえの意図するものではないだろう、

拷問にかけた死体など、解剖には向かない。

 

 

【訳注】

原題:’Love’s Exchange’

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩