29 愛の神様 ジョン・ダンの部屋

 

はるか昔に恋をした亡霊と話をしたい、

愛の神様が生まれる前に死んだ人と。

そのとき、誰よりも愛したというその人が、

嘲る女を愛すほどに身を落としたとは考えられない。

だが、この愛の神様が宿命と定めたからには、

第二の天性、習いとするほかはなく、

僕を愛さぬ女を愛すしかない。

 

愛を神様に祭り上げた人たちも、そんなつもりではなかったし、

愛の神様も、新米の時にはそんなことはしなかった。

だが、二つの心が等しく焔に触れたとき、

愛の神様、勝手気ままに男と女を

結びつけた。結びつけること、

それだけが彼の仕事だった。愛してくれる

女を愛すのでなければ、愛とは言えない。

 

でも、近頃の神様はどなたも手を拡げ、

ジュピターも顔負け、特権を増大していなさる。

色狂い、色欲、恋文、称賛、こういった

すべてのものが、愛の神様の領域。

ああ、この暴虐に目が覚めて、

この小僧を神の座から引きずり降ろしていたなら、

愛してくれぬ女を愛すことなどなかったものを。

 

反逆者よ、無神論者よ、どうして不平を言うのか、

まるで愛が最悪なことをしでかしたとでもいうように。

愛の神様は、愛することを止めることができるし、

女に僕を愛させるという、災厄をふりかけることもできる。

彼女には前から恋人がいるのに、同じ目に遭いたくない。

不実は憎しみより悪いこと。僕が愛している女が、

僕を愛せば、そういうことになる。

 

 

【訳注】

原題:’Love’s Deity

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩