この蚤をご覧なさい、こいつを見れば、
きみが僕に拒んでいるものがどんなに些細なことか分かるはず。
こいつはまず僕の血を吸ってから、つぎにきみの血を吸う、
そこで、こいつの中で僕ら二人の血が混じり合う。
それが罪であるとか、恥であるとか、
処女喪失などとは言えないはず。
こいつは求婚する前にお楽しみ、
二人の血を一つにしてお腹を膨らませては、
悔しいことに、僕たちよりもやりたい放題。
あっ、待ちたまえ、一匹の蚤で三つの命を奪うのは。
蚤の中で一緒になった僕たちは、結婚したも同然。
この蚤はきみであり、僕でもある。こいつは
僕たちの初夜の新床であり、婚礼の神殿でもある。
たとえ両親に反対されようと、僕たちは結ばれて、
この黒玉の生きた壁の中に匿われている。
僕を殺すのがきみの慣わしであっても、
こいつに手を出さないでくれ。きみまで殺すことになる。
三つの命を殺すことで三つの罪を犯すのは、神の冒涜。
残酷なあわてもの、きみはもう
罪のないものを殺して、自分の爪を朱に染めたのか。
この蚤にどんな罪があるというのか、
きみから一滴の血を吸い取っただけではないか。
だが、きみは得意気に言う、
僕も、きみも、少しも弱っていないと。
なるほど、それでは恐れる必要はないわけだ。
きみが僕に身を任せたところで、失うものは、
この蚤の死がきみから命を奪った程度のことでしかないのだから。
【訳注】
原題:’The Flea’
1633年の最初の詩集では『唄とソネット』の34番目にあったが、1635年の版ではその冒頭に置かれた。この詩は当時、相当の人気があった。
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