嘆願の連祷 ジョン・ダンの部屋

 

1 父

 

天とあの方の父よ、あの方によって、あなたは

天を創り、天のために我々を、我々のために万物を造り、

永遠に支配されている。今や廃墟となっている

私のもとに来て、私を造り直して下さい。

私の心はうちひしがれて、土塊となり、

自分で自分を殺して、血に染まっている。

この赤い土注:1から、ああ、父よ、あらゆる悪に染まった罪を

洗い清めて下さい。そうすれば、新しく作りかえられて、

死ぬ前に、死から立ちあがることができるでしょう。

 

2 子

 

ああ、神の子よ、あなたは、神が創られたものではない

二つのもの、罪と死が忍び寄るのを見ておられるが、

一方を担うことで、どのような痛みを伴って

もう一方があなたの賜物を侵害するかを試された。

ああ、あなたが私の心に釘づけにされ、

もう一度十字架に架けられんことを。

私の心があなたから離れようとしても、離さないで下さい。

あなたの苦痛を加えることで、私の心を

あなたの血に溺れさせ、あなたが受ける苦しみのために殺して下さい。

 

3 聖 霊

 

ああ、聖霊よ、私はあなたの神殿

ではあるが、土の壁と、固められた粘土に過ぎない。

それに、神聖なものを汚し、

傲慢と欲望という青春の炎で、半ば崩れかけているので、

新たな嵐に襲われ、風雨に晒されねばならない。

私の心にあなたの炎を倍増し、

敬虔な悲しみの涙を強めて下さい。そして、

(この硝子のランプである肉体が損なわれようとも)

聖火、犠牲、僧侶、祭壇はそのままにしておいて下さい。

 

4 三位一体

 

ああ、祝福と栄光に輝く三位一体よ、あなたは、

哲学にとっては骨であり、信仰に対しては乳である。

それは、賢い蛇のように、さまざまな姿に変化し、

するりと抜けるかと思えば、複雑に絡み合うので、あなたは、

注:2と、愛と、智恵とに分けられているが、

分割することができない。

私にそのような自己分化の能力を授けて下さい。

これらのものすべてを私の全身に取り入れ、

数えられない三つのあなたを、愛し、知る力を与えて下さい。

 

5 処女マリア

 

美しい、祝福を受けた、母にして乙女、

その彼女の肉が、我々を救った。彼女は、女ケルビム注:3として

楽園の門を開き、一つの権利として、

身の潔白を主張し、罪を追い払った。

彼女の子宮は不思議な天国であった。

神は、そこで衣を着て育ったのだから。

我々は心から感謝の気持を彼女に注ぐ。彼女の行いが

我々の救いとなったように、彼女の祈りが我々の救いとなる。彼女の祈りが、

無駄になるはずがない。彼女はあなたに対してその権利があるのだから。

 

6 天 使

 

そして、この世は我々の幼年期にあるので、

我々はあなたの天使たちの保護のもとに置かれている。

天使たちは、天国の美しい宮殿に生まれ、

我々も、やがて、あなたによってそこに住むことが認められる。

大地は太陽によって孕み、     

さまざまな美しいものを産み出すが、

その光がどのような歩みをするのかは知らない。

だから、天使たちがどのように見るか分からなくても、

私の行いが、彼らに相応しいものとなるよう、努めさせて下さい。

 

7 族 長

 

そして、あなたの族長注:4たちの願いを

(彼らは、あなたの教会の偉大な祖先であり注:5

我々が火の中に見るより、雲注:6の中に多くのものを見た。

彼らは、我々が恵みと掟で救われる以上に、自然によって罪を赦された。

そして今、天にあって、我々が新しい救いの道を

正しく用いるようにと、常に祈っている)

叶えて、私の中で実らせて下さい。

私の心を多くの光で目眩ますことなく、また、

理性を加えることで、信仰が視力を失わぬようにして下さい。 

 

8 預言者

 

また、鷹の目をしたあなたの預言者たちは、

教会のオルガンであり、美しい音楽を奏でた。

その音楽は、二つの掟注:7

一つにまとめ、結び合わせたが、損なうことはなかった。

あなたの意志を読みとった天の詩人たちは、

それを規則正しい脚韻で表現し、

私のために一緒になって祈ってくれる。

そのおかげで、秘密を探ることや、或いは、詩的表現を過剰に

求めないことへの、私の言い訳とすることができる。

 

9 使 徒

そして、あなたの黄道帯をなす光輝く

十二人の使徒たち、彼らはこの世界を余すところなく巡った。

(彼らから光を受けない者は、

他人を暗くて深い穴に投げ込み、自らも落ちて行く)

あなたは、彼らの祈りを通して、彼らが書いた書物が、

神からのものであると私に教えてくれた。

彼らが絶えず祈り、その願いが聞き入れられ、解釈において、

私が昔ながらの広い道を進むことができることを願う。ああ、

あなたの言葉を我流に解釈するときには、私を辱めて下さい。

 

10 殉教者

 

そして、あなたはずっと以前から熱心に

死ぬことを望まれていた。死ぬことができる前から、

また、もはや死ぬことが叶わなくなってからも、

あなたは散在する神秘の体注:8となり、

アベル注:9となって、さらには、あなたの

殉教者となって死ぬことを望まれた。彼らの血が、

死や、死よりもひどい生に、分別をもって耐えられるよう、

我々のために、祈ってくれることを願う。ある人たちには、

殉教者にならないことが、殉教なのだから。

 

11 証聖者

 

それゆえに、あなたとともに、天国では、

純白の証聖者注:10たちの汚れを知らぬ一団が、勝利を得る。

婚約はしたが、結婚はしなかったので、彼らの血は純潔だった。

身を差し出したが、暴君から強奪されたのではなかった。

彼らは知っているので、我々が知ることができるようにと祈る。

すべてのキリスト教徒の心の中で、

絶えず嵐のような迫害が成長しては、

誘惑が、我々を生きたまま迫害して殺す。人は、

自分自身に対して、ディオクレティアヌス帝注:11になり得るのだ。

 

12 処 女

 

雪のように冷たく白い修道女たちは、

あなたの母、彼女たちの尼僧院長と同じように、

彼女たちの体をあなたに送り返した。

あなたが彼女たちに貸し与えた時の、清く、汚れのないままに。

彼女たちはあなたからその恵みを得たのではなかったが、

あなたの教会や、私は、

彼女たちのように、我々の生得の純潔を守らねばならない。

ですから、我々の中にある罪を離縁し、死を命じて、

貞淑な未亡人の状態にあることを純潔と見なして下さい。

 

13 教会博士

 

天上の神聖な学園に集う

教会博士たち注:12)が苦労の末、二冊の命の書物を

我々に開いて、教え諭してくれた。(あなたの

聖書を知りたいと望むことで、我々の名前が

もう一つの書物注:13に記されているのです)。天国の博士たちよ、

我々のために祈って下さい、彼らが間違ってしたことや、

誤って言ったことに、我々が従わないように。

彼らの熱意が我々の罪ともなり得る。主よ、我々に

中道を歩ませて下さい。彼らは星であり、太陽ではないのです。

 

14 

 

そして、この宇宙に偏在する聖歌隊が、

天国の勝利の教会と、この世の戦いの教会とが

一つとなって、すべてを包む愛の火で温められ、

あなたが高い犠牲を払って救った人が、一人も失われないようにと

絶えず祈っている間、あなたも耳を傾けているので、

(あなたの恵みを受けるため、

我々は三倍の働きをし、祈り、耐え、実行する)

主よ、この祈りを聞いて下さい。ああ、主よ、このように

溢れ出るこの祈りに頼ることから、我々を救い出して下さい。

 

15

 

心配することから、また、安心することから、

死んだ土塊のような悲しみから、また、爆竹のような歓楽から、

大きな宮廷にはすべての幸福がある、あるいは、

まったくないという考えから、また、この世は

我々の牢獄としてのみ造られたという考えから、

また、あなたは、あなたが愛している人たちに対して

独占欲が強いという考えから、また、あなたを

全力を尽くして求める者たちが、この世の快楽から切り離されている

という考えから、慈悲深い主よ、我々を解放して下さい。

 

16

 

善良であるためには、危険が伴うという考えから、

昨日の涙を今日もあなたに借りたままであることから、

あなたが流された血を当てにするあまりに、

期待し過ぎて、我々の魂を傷つけることから、

あなたに善行を示すことで買収し、

重い罪の言い訳にすることから、

宗教において、新しいものに軽々しく飛びつくことから、

我々はみな魂であると考え、このようにお互いが負う義務を

ないがしろにすることから、主よ、我々をお救い下さい。

 

17

 

我々を誘惑するように悪魔を誘惑するために、

不貞な行為を見て見ぬふりをしたり、いい加減な仲間と付き合ったりすることから、

罪悪の軽重を、徳ではなく悪徳を基準にして測ったり、

罪の卵である虚栄心を抑えるのを怠ったりすることから、

浅はかな謙虚さが

却って恥をさらし、

キリスト教に非難を浴びせることになったりすることから、

スパイとなったり、あるいはスパイに何でも漏らしたりすることから、

名声を求めたり、それを馬鹿にしたりすることから、我々を救って下さい。

 

18

 

我々をお救い下さい。あなたはそのために、

天上と地上の中間の場所である乙女の子宮に

降りて来られた。あなたは

恵みを拒む我々の処に来られるために、恵みに満ちた乙女に宿られた。

あなたは貧しい生まれを通して、まず初めに

貧しい人々に栄光を授けられた。

そしてその後すぐに、公現の日注:14)に王様からの贈り物を

受け取ることで、富める者にも栄光を与えられた。

我々を救って、冨と貧しさの両方から自由にして下さい。

 

19

 

あなたのあの耐え難い苦しみについては、

今でも信仰の厚い学者たちの悩みの種であり、

何があなたを苦しめ、

発作的に、あなたの平常心を失わせたのかを議論している。

あなたは自分が誰であるかを明かすと、

そばにいる人々は、そのとき

目が眩んだので、あなたは逃げようと思えばできたのに、そうはしなかった。注:15)

恵み深い主よ、我々をお救い下さい、そして教えて下さい。どんな時に、

不正な者の目を眩ますことができ、また、できないのかを。

 

20

 

あなたはすべてを差し出されたので、あなたの顔は

殴られ、あなたの衣服は破られ、あなたの名誉は蔑まれた。

怒りや裁きが知るありとあらゆる方法、

それによって、あなたは人の子として生まれたことを示された。

あなたが雄々しくも、慎ましく、

死に臨んで示されたことは、

彼らがあなたの魂を奪う前に死なれたことだった。

我々を死からお救い下さい。この世から死ねと命じられる前に、

この世に対して、あなたと同じように死ねるように。

 

21

 

感覚は、あなたに従う兵士であるにもかかわらず、

我々があなたに反抗して武器を取るとき、罪の側に味方する。

服従させるために送りだされた貧乏は、激しく戦い、

絶望を招き入れる突破口を開く。

神の似姿であり、印章である豊饒は、

偶像崇拝を仕向けるので、我々は

神ではなく、神が顕わす豊饒の方を愛するようになる。

我々が知識をひけらかし、信仰心のあるふりをしようとするとき、

主よ、我々をお救い下さい。

 

22

 

教会で、教えを説くべき者が

その弱さのゆえに、御言葉を軽んじるとき、

裁判官が、我々の判断では不当に思える

世俗の法律や宗教法を我々に適用するとき、

あなたの天使である疫病が猛威をふるうとき注:16)

あなたの戦士である戦争が支配するとき、

あなたの第二の洪水である異端が勝利するとき、

最後の審判の日の夜、死の刻限が迫るとき、

我々が誤った道に進まないよう、お救い下さい。

 

23

 

ああ、主よ、お聞きください。

あなたに対して、罪人が祈るとき、その声は、

天球や、天使の称賛よりも美しい音楽

神を讃えるハレルヤの称賛を、

お聞きください。主よ、あなたがお聞きくださるまで、

我々は何を語ればよいのか分からないのです。

あなたの耳が、我々の溜息、涙、憂いに、声と言葉を与えることになる。

ヨブが病気であるとき注:17)、あなたがサタンの言うことに耳を傾けられたように、

今こそお聞きください、我々の心の中で祈るあなたご自身の声を。

 

24

 

この断続的に襲う発作のような信仰心が

ゆるぎないものとなるように、

急激に襲う悪のひきつけや、

頑固な罪の卒中が治まって消えるように、

雷の脅威でではなく、

あなたの約束が奏でる音楽で、

我々を目覚めさせ、正しい務めを果たせるように、

あなたの書物注:18)で、あなたが為されることや、被造物が語ることを、

我々が聞くことができるように、主よ、我々の祈りを聞いて下さい。

 

25

 

我々の耳の病を癒すことができるように、

内耳の迷路器官を正しく調整できるように、

我々が耳を傾けることで、称賛を求めたり、

他人の悪口を招くようなことがないように、

うっかりして、不注意にも、

気がつかないうちに堕落し、

不遜な才人が王の偉大さを嘲るのを聞いて、

神の威厳も似たようなものだと思うのを避けるため、

我々の耳を閉じることができるように、主よ、あなたの耳を開けて下さい。

 

26

 

生きた法律である裁判官は、

我々に薬を与え、また我々を薬にすることで、

多くの場合、却って、我々の罪を悪化させる。

説教者たちは、罪が生まれ育つ前にそれを咎め、

サタンや悪意に満ちた者たちは、

我々が腹をすかすと、たらふく食べて見せつける。

彼らが我々を激しく責めるとき、彼らは

我々が彼らの言うことを聞いて悔い改めるのを見るが、主よ、拒みたまえ。

我々が耳を開けられるように、主よ、あなたの耳を閉じて下さい。

 

27

 

あなたの大使を務める学問を、

あなたへの忠誠心から引き離し、我々が誘惑することのないように、

美は、楽園の花であり、

癒しとして造られたもの、それが毒とならぬように、

徳高い善を為すべく生まれついた智恵が、

軽薄にも、自然の取るに足りない

ものに心を奪われ、自らも無価値なものにならぬように、

感情が我々を殺すことのないように、また感情が失せることがないように、

弱い木霊である我々の声を聞いて下さい。耳であり、声である主よ。

 

28

 

神の子よ、お聞きください。あなたは

我々の血を取られたので、それを返して下さい。

あなたの得となり、我々の得となるように。

そして、我々も、あなたも、ともに殺されないようにして下さい。

ああ、神の小羊よ、あなたは我々の罪を取られたが、

それはあなたに止まることはありません。

ああ、罪を再び我々に戻さないで下さい。

患者と医者がともに罪から自由となれるように、

罪は無であるので、どこにもないようにして下さい。

 

【訳注】

ヘンリー・グッディア宛ての日付のない手紙の中で、ダンは嘆願の連祷の瞑想を詩の形で書き記したことを述べているが、その中で「俗人として、個人的に」とあることから、この詩はダンが聖職に就く以前に書かれたもので、ダンが神経炎に襲われていた時期、1608年から1609年にかけての作品であろうと推定されている。

 

注:1 「赤い土」は、ヘブライ語で「赤い」を意味するadomからきていて、アダムを意味する。

注:2 「力」は父、「愛」は御子、「智恵」は聖霊を意味する。

注:3 ケルビムは、『創世記』3章24節に「アダムを追放し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと、きらめく剣の炎を置かれた」とある。

注:4 「族長」は、イスラエル人の祖としてのアブラハム、イサク、ヤコブ、及び彼らの祖先。

注:5 「教会の偉大な祖先」とは、族長が、教父の父である使徒たちの父であることを示す。

注:6 「雲」は旧約聖書を、「火」は新約聖書を象徴する。

注:7 「二つの掟」は旧約と新約聖書。

注:8 「神秘の体」は、キリストの神秘の体としての教会を表わす。

注:9 アベルは羊の番人で、最初の殉教者であることから、キリストの原型と見なされた。

注:10 「証聖者」とは、殉教はしなかったが、迫害に屈せず信仰を守った信者。

注:11 ディオクレティアヌス帝は、4世紀初めにキリスト教徒を迫害したローマ皇帝。

注:12 「教会博士」は、神学者のことをさし、「二冊の命の書物」は、旧約と新約聖書のこと。

注:13 「もう一つの書物」は、『ヨハネの黙示録』20章12節にある「幾つかの書物が開かれたが、もう一つの書物も開かれた。それは命の書である」という「命の書」。

注:14 公言の日は、キリスト教で、異邦人に対する救主の顕現を祝う日で、東方の三博士ガベツヘレムに誕生したキリストを訪れたことを記念する。1月6日、クリスマスから12日目。

注:15 『ヨハネによる福音書』18章4-6節参照。

注:16 『サムエル記下』24章15節、「主は、その朝から定められた日数の間、イスラエルに疫病をもたらされた」を参照。

注:17 「ヨブが病気のときに」は、『ヨブ記』2章4‐7節参照。

注:18 「あなたの書物」は、聖書のこと。

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩