1(無題)
どうか私の手から、この祈りと賛美の冠をお受け取り下さい、
私の謙虚な信心深い沈思によって編まれたこれらの歌を。
あなたは立派な宝庫をお持ちであり、いや、宝庫そのものであり、
すべての物を変化させ、変わることのない「日の老いたる者」(注:1)です。
しかし、枯れやすい月桂樹のつまらない冠で、
私の詩神の白い真心に報いるようなことはせず、
あなたの茨の冠が得たものを私にお与えください、
永遠に花咲く、あの栄光の冠を。
終りが私たちの仕事を飾るが、あなたは私たちの終りを飾ります。
というのは、私たちの終りに終りのない安息が始まるからです。
この最初で最後の終り(注:2)を得たいと、熱狂的に、
強く、真面目に渇望して、私の魂は待ち望んでいます。
今こそは、心と声を高くあげてこう言うときです、
待ち望むすべての人に、救いが間近に迫っている。(注:3)
【訳注】
7つのソネットの全体の題名『冠』について、C.A. パトライズは、主祷1回と天使祝詞(Hail Mary)10回からなる7連句のロザリオを暗示し、ダンがマグダレン夫人に送った讃美歌はこの7つのソネットであろうと考える。
A.J スミスは『イザヤ書』28章に出てくる「冠」(第1節の始まりに、「災いだ、エフライムの酔いどれの誇る冠は」とある)と対比している。
この7つのソネットは、各ソネットの終りの行が次のソネットの始まりとなり、献辞の序詞に始まって、
「告知」、「降誕」、「神殿」、「受難」、「復活」、「昇天」
へと続き、「昇天」の最後の行が最初のソネットの冒頭の行で終るという円環構造をなしており、題名の「冠」(輪)はその表象であるといえよう。
注:1 「日の老いたる者」は、『ダニエル書』7章9節参照。
注:2 「最初で最後の終り」は、『ヨハネの黙示録』1章8節に、「全能者がこう言われる。わたしはアルファであり、オメガである」とある。
注:3 『イザヤ書』51章5節参照(「わたしの正義は近く、わたしの救いは現れ」)。
2 告知
待ち望むすべての人に、救いが間近に迫っている。
いつでも、どこにあってもすべてである者、
罪を犯すことはないが、すべての罪を担う者、
死ぬことはできないが、死を選ばざるを得ない者、(注:1)
ああ、信仰の厚い乙女よ、そのような人が
あなたの子宮を牢獄にして身を横たえている。そこで
彼が罪を得ることもなく、あなたも与えることはないが、彼は
そこから肉を得て、死の力を試そうとしている。
天球が時間を造り出す前から(注:2)、あなたは
彼の心の中に存在していた。彼はあなたの息子であり、兄弟でもある。
あなたは彼を孕み、彼があなたを孕んだ。今やあなたは、
創造主の創造主であり、あなたの父の母である。
あなたは闇の中に光を持つ。小さな部屋に閉じ込めたのは、
あなたの貴い子宮に閉じ込もる限りなく大いなる者。
【訳注】
注:1 「2-4行」は『魂の遍歴』74-6行の繰り返しとなっている。
注:2 アリストテレスや古代の宇宙論者は、時間は天球の動きの結果生じたものであると唱える。
3 降 誕
あなたの貴い子宮に閉じ込もる限りなく大いなる者、
彼は今、こよなく愛する彼の牢から出て、
この世に出てくるために、我が身を
思い通りに十分に弱くした。
だが、ああ、あなたにも、彼にも、宿るべき部屋はないのか。(注:1)
この馬小屋に彼を泊めてほしい。そうすれば、東方から、
星たちや、博士たちがやって来て、(注:2)
ヘロデの疑惑が招く大虐殺の意図を予知するだろう。
私の魂よ、おまえの信仰の目で見れば、彼が
すべての場所を満たしながらも、泊るところもなく寝ている姿が見えるはずだ。
おまえに寄せるあの方の憐れみは驚くばかりに大きかったが、
あの方こそおまえの憐みを必要としたのではなかったか。
彼に口づけし、彼とともにエジプトへ逃れるのだ、(注:3)
おまえの悲しみを分かち合う、彼の優しい母親と一緒に。
【訳注】
注:1 「宿るべき部屋ないのか」は、『ルカによる福音書』2章7節に「宿屋には彼らの泊まる場所がなかった」とある。
注:2 『マタイによる福音書』2章16節参照。
注:3 『マタイによる福音書』2章13-15節参照。
4 神 殿
おまえの悲しみを分かち合う、彼の優しい母親と一緒に、
ヨゼフよ、引き返して、あなたの子どもが座っているところを見よ、
智恵の火花を吹いては当惑させている姿を。
智恵を授けたのは博士たちではなく、彼の方だった。
つい最近まで話すこともできなかった「言葉」が(注:1)、見よ、
突然、奇跡を語り始めた。どうしたことなのか、
書かれたすべてのこと、そして書かれるべきすべてのことを、
浅はかに見える子どもが、このように深く知っているのは。
彼の神性は大人になって得られる魂ではなかった。
また、この円熟は時間とともに成熟するものでもなかった。
だが、長く仕事をする人にとっては、
夜明けとともに仕事を始めるのはよいことだ。
彼はこのようにして一生の夜明けに仕事を始めた、
人間の力を超越した奇跡を行うことによって。
【訳注】
注:1 「言葉」については『ヨハネによる福音書』1章1-14節を参照。
5 受 難
人間の力を超越した奇跡を行うことによって、
彼は、ある人たちには信仰を、ある人たちには妬みをもたらした。
それは、心の弱い者は敬い、野心のある者は憎むからである。
どちらの感情をも持つ多くの者たちが彼のもとへと走った。
だが、ああ!最悪の者の方が圧倒的に多く、彼らは、
一点の汚れもない人、
運命の創造者である彼に運命を申し渡し、
無限に大きな命を、掌の大きさほどに、
いや、小指よりも小さく縮めた。見よ、彼は咎められ、
自分で自分の十字架を背負い、苦痛を受け、一歩一歩と、
十字架が彼を運び、彼はさらなる苦しみを受けて死ぬことになる。
今や高く昇られたあなた、私をあなたのもとへと引き上げて下さい、
あなたが死に臨んで惜しみなく与えられた施し、
あなたの一滴の血で、私の渇いた魂を潤して下さい。
6 復 活
あなたの一滴の血で、私の渇いた魂を潤して下さい、
そうすれば(私の魂は、極端に石のように硬く、
また、あまりに肉欲的であるけれど)
その一滴によって、飢えや、頑(かたくな)、或いは汚れから解放され、
この死によって力を得た命が、
あなたの死によって殺された死を征服することになる。また、
最初の死(注:1)、或いは最後の死の恐怖が、私に苦痛をもたらすこともなくなる。
あなたの小さな書物の中に私の名前を加えていただければ、
肉体は長い眠りの中で腐敗することもなく、
かつてそれを構成した元素の一部である土に帰るだけとなる。
他の方法によって栄光を得ることはできない。
罪の眠りと、死の眠りが私から過ぎ去り、
その両方から目覚め、再び甦ることを祈って、
最後の、そして、永遠に続く日を迎えよう。
【訳注】
注:1 最初の死は肉体の死であり、最後の死は魂の破滅のことである。
7 昇 天
最後の、そして、永遠に続く日を迎えよう、
そして、神の子である、この太陽が(注:1)昇るのを見て喜ぼう、
あなた方は、あなた方の真の涙、大いなる悲しみで、
あなた方の垢を洗い清め、焼き尽くした。
見よ、あの気高き方を、ここから立ち去って、
暗い雲を明るく照らし、踏みしめて行く。
あの方は、昇って行くことで、自分一人が輝くのではなく、
ご自分が先頭に立って、最初に天の道に進んで行かれるのである。
私のために天国の扉を叩くのは、たくましい雄羊、(注:2)
あなたの血で印を付けて天国への道を示すのは、柔和な子羊。
あなたは明るく照らす松明、おかげで私は迷うことがない。
ああ、あなたご自身の血で、あなたの正当な怒りを消して下さい、
そしてもしも、あなたの聖なる魂が私の詩神を高めて下さるのなら、
どうか私の手から、この祈りと賛美の冠をお受け取り下さい。
【訳注】
注:1 「神の子である、この太陽」は、『マタイによる福音書』13章3節の「そのとき、正しい人々はその父の国で太陽のように輝く」に由来する。原詩は、太陽の’sun’と息子の’son’の語呂合わせがある。
注:2 「たくましい雄羊」には、原詩’ram’の意味として、「雄羊」と「破城槌」の両義がある。
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