エレミヤの哀歌、主にトレミニウスによる ジョン・ダンの部屋

 

第 1 章


かつて殷賑を極めたこの町が、なにゆえに                       1

このように独り淋しく、やもめのように座っているのか。

諸国の中で最も栄え、諸州の女王でもあった

彼女が、このように奴隷となってしまうとは。

 

夜になるといつも泣き、彼女の涙は                            2

頬を伝って流れ、彼女を愛した人も

だれひとり、彼女を慰めてくれない。

友人たちは彼女を欺き、今では敵となってしまった。

大いなる屈辱と、苦しみを受け、                              3

ユダは捕囚となって引かれて行く。彼女の周りに住む

人々から、憩いの場を得ることなく、

迫害者の刃に追い詰められている。

 

シオンの城門は空となり、彼女の道には                         4

祭りに集う人もなく、嘆いている。

彼女の司祭は呻き、乙女たちには慰めもなく、

シオンは自分に対して苦々しく思っている。

 

彼女の敵は、彼女の支配者となって、平穏に暮らしている。              5

彼女の犯した罪が増したとき、

主は、彼女を悲しみで懲らしめた。敵が

彼女の子供たちを捕囚にしようと追い立てる。

 

シオンの乙女から、美しさはことごとく消え、                        6

牧草を求めたが、何も得られない牡鹿のように

なったしまった彼女の王子たちは、今ではどこまでも

追いかける敵を前にして、逃げる力もない。

 

悲しみの涙にくれるこの日々、エルサレムは                       7

(助ける者は誰もなく、彼女の男たちは敵に殺された)

彼女が大事にしていた昔の宝を思い出すが、

彼女が失ったものを見て、敵は彼女を嘲笑う。

 

エルサレムは罪を重ねたので、彼女は                          8

汚れた女が捨てられるのと同じように、捨てられた。

かつて彼女を敬った者たちが、彼女の汚れゆえに、

笑いものにし、彼女自身も呻き、顔を背けている。

 

彼女の衣の裾が汚れているのが見えたが、彼女は                   9

自分の行く末を気にしなかった。それゆえに、

彼女が奇跡的に倒れても、誰も慰めてはくれなかった。

ご覧下さい、主よ、私の苦しみを。敵はますます大胆になっていく。

 

彼女の喜びであったすべてのものに                           10

敵はその手を伸ばした。彼女は、

あなたがしてはならぬと命じたのに、異教徒たちが

彼女の聖域に侵入してくるのを見た。

 

彼女の民がみな、パンを求めては呻く。                         11

彼らは、ただ食べるために、

楽しみのために蓄えていた貴重な品をすべて与えてしまった。

ああ、主よ、私がどれほど安ものになったか、見て、推し量って下さい。

 

こんなことはみなあなた方には他人事だ、道行く人よ、                12

ああ、だがよく見て欲しい、これほどの悲しみが

ほかにあるだろうか。エホバが激怒の日に下された

この私の悲しみほどのものが。

 

自ら支配なされるあの火を、                                13

主は、天から私の骨に投げられた、

私の足下に網を広げ、私を引き倒し、

私一人を、終日衰えるに任せられた。

 

主の御手は私の罪から軛(くびき)を造り上げ、                     14

それを輪にして、私の首に架け、私の力を

挫かれた。こうして私は主によって、

敵の手に渡され、立ち上がることもできない。

 

主は、私の目の前で、私の力ある者たちを                       15

足下に踏みつけ、仲間を招いては

私の若者たちを打ち倒し、葡萄しぼり器を踏むように、

怒りにまかせて、ユダの娘を踏みにじられた。

このために私は泣いている。私の目、私の目は、                   16

涙を流す。私を慰めるために近くに

いるはずの者は、今は遠く離れている。 

敵がのさばり、子供らは見捨てられた。

 

シオンは手を差し出すが、だれ一人として                       17

慰める者もいない。主は、ヤコブの敵に命じて、

彼を包囲させられた。エルサレムは、

敵の中で汚れた女となった。

 

だが、主は正しく、常に間違うことはない。                      18

私が主の神聖な御心に背いたのだ。

ああ、聞くがよい、諸国の人々よ、私の悲しみを見るがよい。

私の乙女らと、私の若者たちが囚われの身となるのを。

 

そこで、私は愛した人たちに呼びかけたが、                     19

みな、私を裏切った。私の司祭たちと長老たちは、

都で息絶えて横たわる。彼らは魂を甦らせる

食べ物を求めたが、何も得ることができなかった。

 

私は苦境にあって苦しんでいるので、エホバよ、                   20

私の心は覆り、私の腸(はらわた)が泥にまみれているのをご覧ください。

私は、多いに背いたので、それに劣らぬ速さで、

外では剣が、内では死が待っている。

 

私の嘆く声を聞いても、誰も慰めてはくれない。                   21

私の敵は、私の嘆きを聞いては喜ぶ。

それはあなたがなされたことだと。だが、あなたの約束された日は

やって来る。その日が来れば、彼らは、私同様に苦しむことになる。

 

彼らの悪事をすべてあなたの前に晒させ、                      22

私が犯した罪ゆえに、あなたが私になされた通りに

彼らを罰して下さい。私はこれまで多くの溜息を

ついてきた。それで、私の心は悲しみに沈んでいる。

 

第 2 章

 

神は、シオンの娘の上に、なんと厚い怒りの雲で                   1

覆われたことか。天上から

大地に向かって、イスラエルの美を投げ捨て、

怒りの日に、神の足台のことをお忘れになった。

 

主は、ヤコブの住み家をことごとく、容赦なく                      2

呑みつくし、ユダの砦を

大地に引き倒して破壊し、

王国の君候と領土を辱めた。

 

烈火のごとく怒り、イスラエルの角を                          3

すっかり切り落として、敵の

妨げにならぬようにし、主は、その右手を引き込められ、

ヤコブに対しては、すべてを焼き尽くす炎となられた。

 

まるで敵に対するかのように弓を引き絞り、                      4

その右手は敵に身構えられ、

シオンの娘が望んだものを抹殺せんものとし、

彼女には、怒りの炎を注がれた。

 

まこと敵となってエホバは、                               5

イスラエルとその宮殿を食いつくし、

堅固な城砦を破壊し、ユダの乙女たちの

悲しみを深められた。

 

まるで庭の垣根を打ち倒すかのように、                        6

彼のための会衆の場所が打ち倒された。

シオンの祭りも安息日も忘れられた。

王様も、司祭も、彼の怒りで無視された。

 

主は御自分の祭壇を見捨て、ご自分の聖所も                    7

厭われ、城郭も城壁も

敵の手に渡された。城壁の内側では敵の喚声が

あたかも祭りの日のように聞こえた。

 

主は一筋の縄を投げられ、シオンの城壁を                       8

破壊し、大地に引き倒された。

主はその手を緩めることなく、

城壁と塁壁を引き倒され、それらは共に嘆き悲しむ

 

城門はことごとく大地に打ち沈み、                            9

かんぬきは破壊された。王や君候は

異教徒の中にあり、律法は失われ、

主は予言者の前に姿を現わされることもない。

 

シオンの長老たちは大地に座って                            10

沈黙を守る。頭には灰をかぶり、

腰には粗布をまとい、

乙女らは大地に頭(こうべ)を深々と垂れる。

 

私の腸(はらわた)は泥だらけとなり、私の目は                   11

涙でかすむ。私の肝臓は

溶けて大地に流れ出す。哀れ、

乳飲み子は街の通りで飢え死にする。

 

幼子が母親に向かって泣き叫ぶ、                            12

パンはどこ、飲み物はどこにあるの、と。幼子は気を失い、

街の通りで傷ついた人のように横たわり、

母親の胸に抱かれて、息絶える。

 

娘エルサレムよ、何をもって                                13

おまえの証人とし、おまえになぞらえよう。

シオンよ、おまえを慰めるため、おまえを何と呼ぼう。

おまえの傷は海のように深く、どうすることができよう。

 

おまえの預言者たちは、おまえに虚しい、愚かなことしか求めなかった。      14

おまえの罪を教え、諭すことをしなかった。

そうしておれば、捕囚の身にならずにすんだかも知れないのに。

偽りの責任と、偽りの原因を見ようとするだけであった。

 

道行く人は手を叩き、口笛を鳴らし、                            15

おまえに向かって頭を振って言う、これが

あの町なのか、あれほど多くの人が、

この世の喜び、最も完璧と呼んでいた都なのか、と。

 

おまえの敵は大きく口を開け、口笛を鳴らし、                      16

歯をきしませて言う、「この町を食いつくそう、

この日こそ、待ちに待った日、

とうとう見つけ出したぞ」と。

 

主は、意図されたことを実現し、                              17

その昔に定められた約束の言葉を果たされた。

主は、打ち倒し、容赦しなかった。敵を

おまえの上に置いて喜ばせ、昇進させた。

だが今や、主に背いた彼らの心が叫ぶ、                         18

それゆえ、ああ、シオンの城壁よ、

夜となく昼となく、川のように、涙を流せ、

休むことなく、おまえの瞳から、涙を流せ。

 

おまえの罪を悔いて、夜中に起きて泣け、                        19

見張り番が立ち始める時、おまえの心を水のように注ぎ出せ、

主の御前に両手を挙げて、子供たちが死なぬように祈れ、

子供たちは、飢えのため衰え、通りに横たわっている。

 

ああ、主よ、ご覧下さい。あなたは誰に対して                      20

このようなことをなされたかを考えてみてください。女たちは

幼子を食らうために産んだのでしょうか。あなたの

預言者や司祭は、聖所で殺されるためにいるのでしょうか。

 

通りの地面には、老いも若きも横たわり、                         21

私の乙女たちも、若者たちも、剣(つるぎ)にかかって死んでいる。

あなたの怒りの日に、あなたは彼らを殺された。

何事もあなたが彼らを殺すのを止めることができなかった。

 

まるで祭りにでも招くように、あなたは私が恐れる敵を                 22

私の周りに呼び寄せられた。あなたの怒りが現れた時、

誰一人、生き残ることも、逃げのびることもできなかった。

私が養い育てた者たちが皆、敵の手にかかって滅ぼされた。

 

第 3 章

 

私はこれまで苦しみを見てきた者である。                        1

神の怒りの鞭のもとに長い間置かれてきたからである。

神は、光の方ではなく、暗闇へと私を導き、                       2

御手が、私を終日、責め立てる。                            3

 

私の骨を打ち砕き、私の肉と皮膚をすり減らされた。                  4

私に敵対して城壁を築き、                                5

毒草と、苦役で私を包囲し、                                 6

死者たちのように私を永遠の闇の中に置かれた。

 

私が逃げられないように囲いをし、その上さらに                     7

鉄の足枷を嵌め、以前よりもっと厳重にされた。

私が大声で叫ぶと、私の祈りを締め出された。そして、                8,9

切り出した石で私の道を塞ぎ、私の道を逸らされた。

 

そして、ライオンのように身を潜め、                            10

或いはまた、熊のように待ち伏せし、私の前に立ちはだかれた。

私の行く手を遮り、私を引き裂き、私を見捨てて顧りみられなかった。        11

そして、私を的にして弓を射かけられた。                       12

 

箙(えびら)からその子供たち注:1を引き抜いて                     13

私の腎臓を射ぬかれた。私は自分の仲間から                     14

一日中、唄と嘲笑の種にされた。

私を苦悩の苦汁で満たした。主は                            15

 

私にニガヨモギの汁を飲ませた。石をもって                        16

私の歯を砕き、塵で私を覆われた。

このようにして、私の魂は平和から遠ざけられ、                     17

私の幸福を忘れたのだった。

 

(私は自分に言う)私の生きる力、私の希望は、                     18

それは主から来るものであるが、絶えてしまった。

だが、私の悲しみをよく考えてみる時、                          19

私のニガヨモギ、毒ニンジン、苦悩のことを

 

思い出すことで、私の魂は謙虚になる。                         20

そうすることで、私の心は希望があると考えるようになる。             21

我々が滅びつくされることがないのは、神の深い慈悲である。            22

主の憐れみが尽きることは決してない。

 

朝ごとに、主の慈悲は新たになる。                           23

主の御心はそれほど大きなものである。

主は、私の分け前である、と私の魂は言う。                      24

それゆえに、私は主のみに希望を抱く。

 

主を頼る人は報いられ、                                  25

主を熱心に求める人は顧みられる。

信じることはよいことであり、また、                             26

主の救いを最後まで待ち望むのもよいことである。

 

若い時に軛を背負うことはよいことである。                        27

そのような者は独りにして、沈黙を守らせるのがよい。                28

軛を背負っているからである。それに、彼の口は                    29

土の中に深く沈み、希望をもってじっと待っている。

 

頬を打つ者があれば、彼は自らその頬を                        30

差し出し、常に甘んじて責めを受ける。

なぜなら、主が永久に見捨てることはないからである。                31

主が悲しみをもって叩かれる時、主は                        32

 

同情されている。そのように、主の慈悲の心は無限である。

主が叩かれるのは、御心からではない。                       33

囚われ人が足下に踏みにじられることや、                        34

人の権利が裁き人の目の前で                            35

 

奪われることや、正しい主張が覆されることを、                    36

主はお許しにならない。

「あれかし」と言って起こるのは、何事も                        37

主がそう命じられたからではないか。

 

良いことも、悪いことも、主の口から出るものである。                 38

そうであれば、人は自分の過ちを嘆く必要があろうか。              39

我々が進むべき道を求めて、神のもとへ帰ろう。                    40

天にいます主に向かって、両手を挙げて心から讃えよう。             41

 

我々は反抗して、あなたに背いた。                           42

あなたはお許しにならず、憐れみもかけられなかった。               43

我々を追い立て、殺し、怒りで我々を覆われた。

あなたは雲にお隠れになり、我々の祈りは                      44

 

届かない。あなたは我々を                                  45

ゴミやカスのように、彼らに投げ捨てられた。

敵はみな、我々に向かって大口を開けている。                     46

恐怖と罠が、破壊と破滅とともに我々に迫っている。                47

 

私の目には、涙の河が溢れて流れる、                         48

私の民の娘の破滅を嘆いて。

私の目から、涙が絶えることなく流れる、                        49

主が天から見下ろし、目を留めて下さるまで。                   50

 

また、私の町の娘たちのために、私の目は                       51

私の心を打ち砕く。私の敵は、いわれもなく                     52

私を小鳥のように追い立てた。地下牢に                        53

私の命を閉じ込め、私をめがけて石を投げつけた。

 

水が私の頭の上を流れた時、私は破滅した                      54

と思った。主よ、私はあなたの御名を呼んだ、                    55

穴の中から。そしてあなたは私の声を聞かれた。                   56

ああ、私の溜息や叫び声に、どうか耳を塞がないで下さい。

 

私があなたの御名を呼んだ時、あなたは私に近づかれて、             57

「恐れることはない」と言われた。

主よ、あなたは私の主張を取り上げて、                        58

私の命を救われた。ああ、主よ、今こそお裁きを、                 59

 

私が受けた不当な仕打ちをお聞きの上で。彼らはこぞって復讐した。       60

あなたは聞かれた、彼らがどのように非難し、何を考え、              61

どんなことを口にして、私を責め立てたか、                      62

そして、私の敵が何を絶えずささやいたかを。

 

彼らは座っていようが立っていようが、私は彼らの嘲りの唄の的、         63

主よ、彼らの行いに見合った報いを与えて下さい、                 64

心からの悲しみである、あなたの呪いを。                        65

全力で追いかけ、天の下から彼らを全滅させて下さい。             66

 

第 4 章

 

どうして、黄金が輝きを失ったのか。どうして、                    1

最も美しかった純金がこのように変わってしまったのか。

聖所の宝石であった石が、

どの街角にも散乱している。

 

シオンの大切な息子たちは、純金として                        2

尊重されるべきであるのに、どうして

今は低く見積もられ、土の水差しのように、

下手な陶工の手になるものと見なされるのか。

 

アザラシですら、胸を出して                               3

自分の子に乳を飲ますというのに、私の民の娘たちは、

敵の残酷な仕打ちのために、

広い荒野の中の梟のようにして生きている。

乳飲み子は乳を飲もうとする時、                            4

舌が渇きのために上顎にくっついてしまう。

幼子はパンを求めて泣き叫ぶが、

与える者は一人としていない。

 

かつては美食を楽しんだ者が、                              5

今では街の通りに見捨てられ、飢えに苦しんでいる。

かつては緋色の衣をまとっていた者が、

今では嫌っていた糞にまみれて座っている。

 

私の民の娘たちは、大きな罪を犯した。                         6

その罪は、かつてソドムの町が犯した罪よりも大きい。

その町は一瞬のうちに滅ぼされたので、

再び彼らを苦しめる手は残されていなかった。

 

これまでのところ、ナジル人は注:2                          7

雪よりも白く、乳よりも白く、清らかであった。

彼らの清らかな体はルビーのように輝き、

磨き抜かれた姿は、サファイアそのものであった。

 

ところが今では、墨よりも黒く汚れ、                           8

顔を見ただけでは、街ですれ違っても誰だか分からない。

彼らの皮膚は骨にへばりつき、

干からびてしまって、まるで枯れ木のようである。

 

飢えで死ぬより、剣で死ぬ方がましである。                       9

貧乏で苦しむよりは、刺し殺された方がましだ。

自然の性(さが)として憐れみ深い女が、                        10

我が子を自分の手で調理し、食べ物として食べる。

 

そのために、エホバは怒りを全(まっと)うされ、                    11

怒りを注いで、

シオンに火を付けられた。その火には

町の礎(いしずえ)をなめつくす力があった。

 

この地上の王侯たち、いや、この地上に住む                     12

いかなる人々も信じようとしなかった。

いかなる敵も

エルサレムの城門に侵入してくることがあろうとは。

 

司祭や、預言者たちが犯した罪ゆえに、                      13

街の通りで血を流し、正義を守る人を殺した。

彼らが盲目にした者たちが、                             14

通りをさ迷い、道行くさなか、

 

血で汚された。その血が、彼らがまとう衣服に

付かないことはあり得ず、彼らが通り過ぎる時、

人々は大声をあげて叫ぶ、「行ってしまえ、汚れた者よ、              15

さっさと行ってしまえ。我々に触るな」と。それで、

 

彼らは逃げ出して、さ迷い、異邦人の中で暮らした。

しかし、彼らの友人たちは、そこで長く暮らすことはならぬと言った。

なぜなら、彼らが離散するのは、エホバが顔を                      16

背けられ、二度と顧みることがないからである。恵みを

 

老人たちに敵が与えることもなく、

司祭とて、剣から逃れることは叶わない。

それにもかかわらず、我々は、この悲惨な状況の中で、              17

虚しく助けを求め、泣き疲れる。

 

そして、我々を救うこともできない国のことを

望んでみては、夢見る。

彼らは我々の行くところを追いかけるので、街を歩くのも              18

恐ろしくてできない。今や、我々の終りが近づいている。

 

我々の日は果て、今日が最後の日である。

空飛ぶ鷲も我々を追いかける彼らほどには速くない。               19

彼らは山の頂上から我々目がけて

飛びかかり、荒野で我々を待ち伏せする。

 

聖油を注がれた王であり、我々の鼻の息吹であった彼、              20

その彼のことを我々は、「彼の陰のもとに居れば、我々は

異教徒の中でも安心して住むことができる」と言っていたが、

その彼が、敵が掘った穴の中に落ちてしまった。

 

喜ぶがいい、エドム注:3の娘よ、楽しむがいい、                   21

ウツ注:4に住む者よ、おまえのところにも

この杯は回って来る、そうしておまえは酔いしれ、

満ち足りて、裸の姿をみせることになるのだ。

 

ああ、シオンよ、その時にはおまえの罪は消え去る。                 22

主は、おまえを追放したままにはしない。

ああ、エドムの娘よ、おまえの罪を主はご覧になり、

その罪のために、おまえを捕えられて罰する。

 

第 5 章

 

主よ、我々の身に降りかかったことを記憶して下さい。                1

我々がどのような責め苦にあっているか、よくご覧下さい。

我々が所有していたものは、見知らぬ者の手に                    2

渡り、我々の家は異邦人のものとなった。

 

我々の母親は未亡人となり、我々は                          3

みな、父親のいない孤児となってしまった。

我々のものであった水に、金を払って飲み、                      4

我々の薪であったものに、彼らは値を付ける。

 

我々の迫害者たちは、我々の首の上に座り、                     5

我々を働かせて、休ませてくれない。

我々はパンを求めて、エジプト人に手を差し伸ばし、                 6

アッシリア人に対しても同じようなことをする。

 

我々の父親がこれらの罪を犯したが、今はもういない。                7

だが、我々はかつて父親が犯した罪を背負っている。

我々をこのように支配しているのはかつての下僕に過ぎないが、          8

彼らの手から我々を救い出す者は誰もいない。

 

命の危険を冒して、我々のパンを得た。                         9

荒野には、剣が待ち伏せていたからである。

我々はこの飢餓の嵐のただなかに住んでいる。                    10

我々の皮膚の色は竈のように黒ずんでいる。

 

ユダの町では、乙女らが力ずくで辱められ、                       11

シオンの人妻たちも同じように汚された。

王侯たちは彼らの手で吊るされ、                             12

長老たちは、慈悲も尊敬の念も払われなかった。

 

若者たちは挽き臼のところへ連れて行かれ、                      13

子供らは薪を背負わされてよろめく。

城門の前では、長老たちの話声が絶え、若者たちの歌声も聞かれない。      14

我々の喜びは消え去り、楽しい踊りも、悲しみに変わった。            15

 

今や我々の頭上から冠が落ちてしまった。悲嘆よ、                  16

我々を襲うがよい、我々はそのような罪を犯したのだから。

そのために、我々の心は萎えてしまった。そのために、                17

我々の目の上には、霞がかかっている。

 

シオンの山は荒れ果てて横たわり、                           18

狐は自由にそこを歩き回っている。

だが、主よ、あなたは永遠であり、あなたの王座は                  19

世代から世代へと受け継がれていく。

 

なぜあなたは我々のことをいつまでも忘れておられるのか。             20

なぜこのように長く、我々を惨めなままにしておられるのか。

主よ、あなたのもとに呼び戻して下さい、我々が                    21

帰って、昔のような日を送ることができるように。

 

ああ、主よ、なぜあなたはこのよう我々を嘲り、                    22

我々に対して激しく憤らねばならないのか。

 

【訳注】

この詩は、1579−9年に出版されたトレミニウスとフニウスのラテン語訳旧約聖書と「ウルガタ」(405年に完訳されたラテン語訳聖書で、ローマカトリック教会で用いる)から『エレミヤの哀歌』を意訳したものである。トレミニウス(1510−80)は、イタリアのユダヤ人で、カルヴァン派の人で、フニウスとともにヨーロッパのプロテスタントに彼らの標準ラテン語旧約聖書を与えた。

この詩の翻訳に当たっては、日本聖書協会の新共同訳と、King James Versionを比較参照した。

なお、右端の数字は『哀歌』の節の番号である。

 

注:1 「その子供たち」とは「矢」のこと。

注:2 ナジル人は、古代イスラエルの中で特別の誓言を守り、エホバ信仰の純化を目指した苦行者。

注:3 エドムは古代に死海とアカバ湾の間にあった国で、エサウに与えられた地。エサウ(別名エドム)はいっぱいの粥のために弟ヤコブに相続権を売った。

注:4 ウツは、パレスチナの南東の地で、ヨブの領地であった。ウツはfertile landの意がある。

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 宗教詩