ジョン・ダンの説教集
 

イヴリン・M. シンプソン編『詩篇』と『福音書』に関するジョン・ダン説教集

 

John Donne's Sermons on the Psalms and Gospels
Edited by Evelyn M. Simpson
University of California Press, Second Paperback Printing 2003

 

はじめに

ジョン・ダンの説教は今日160篇ほど残されているが、ダンが世俗の職を諦めて聖職に就いたのは、46歳のとき、1615年1月23日にセント・ポール寺院の執事兼司祭と王室の仔細に任命されてからである。
同年3月には王の命令によってケンブリッジ大学神学部の名誉博士を授与され、4月30日には現存するダンの最初の説教が、グリニッチでアン王妃の御前でなされた。
この説教集は、1963年、カリフォルニア大学の評議員によって出版され、1991年にイヴリン・シンプソンによってリニューアルされた2003年の第2版ペイパーバックをテキストにしたもので、シンプソンの序説(Introduction)と、詩篇と福音書を主体にしたダンの説教10篇からなる。
ダンの説教は『詩篇』と『福音書』など聖書からの引用が多くなされており、この説教集では本文の概要と、引用された聖書の内容を「新共同訳」を用いて詳しく取り上げた。

 

序 説

 ダンの説教は、米国の著述家でダンの詩集の編集者でもあるチャールズ・エリオット・ノートン(1827-1908)が述べているように独特である。
 コールリッジはダンの説教に関心を抱いて、1640年のフォリオ版80篇の説教集の欄外に注釈を書き加えている。
 ダンの説教がユニークなのは、彼の豊富な経験と深い知識、それに広く海外の見聞を持っていたことにもよるが、彼の説教には、イメージ、繰り返し、詩のリズムがあることにもよる。
 ダンは聖職者に就くまで長い間、外交官や宮廷での職を求めていたが、アンとの秘密結婚でその道が断たれたことで結婚生活は規則的なものとなり、むさぼるように教会法や聖書の注釈、神父たちに関する書物を読んだ。
 ダンは科学者でも哲学者でもなかったが、同時代の誰よりも科学の新発見を高く評価して、コペルニクスの説の正しさを確立したケプラーやガリレオの発見に興奮を示した。
 また、ダンほどその人格、人柄を説教に反映させた者はいなかった。
 彼の個人的な宗教経験が説教に独特の力を与え、過去の過ちをごまかさず、過去の罪を悔やむ人間の魂の声があった。
 ダンの最も重要なテーマは「死」と「十字架の上で示されたキリストの愛」であった。
 ダンの説教は160篇が現存し、その内34篇が『詩篇』に関連している。
 ダンは旧約聖書の中で『詩篇』を最も愛したが、その理由の第一は、『詩篇』が詩であることと、彼が最も崇拝する聖アウグスティヌスが『詩篇』を好んだことによる。
 ダンの説教法は16、17世紀では古臭くなった、誇張なしの平明さ、道徳的、霊的な表現、類似表現を用いたものであった。
 ダンは『詩篇』のほかに福音書を用いた説教も多い。
 すべての福音書にシンボリズムがあるが、なかでも『ヨハネによる福音書』はシンボリズムそのものであり、最も愛用した。
 真のテーマが、「光」としてのキリストを述べるのに、同じ福音書の内容をいくつかの説教に使うこともあれば、複数のテキストで一つの説教をすることもあった。
この説教集で取り上げた10篇の概要は次のようなものである。

 <説教1>は、1619年の復活祭の日の説教で、ダンのお気に入りの「愛と死」をテーマにしている。

 <説教2>は、ダンが主席司祭に選ばれた1621年11月以降で、選帝侯に関連する内容から1622年のものと思われる。
 説教には一貫して「祈り」と「賞賛」について語られる。

 <説教3>は、1625年4月3日、チャールズ一世の御前での初めての説教で、説教後直ちに出版の許可がなされ、クォート版で出版された。

 <説教4>1626年1月25日、セント・ポール寺院での『詩篇』に関する説教。
 前年の1625年後半は疫病の流行で、王、王妃、宮廷人はハンプトンコート、ウィンザー、ウッドストックへと疫病から逃避。
 疫病は、罪に対する裁きだと他の説教師たちが説いたのに対し、ダンは消沈した人々を励ますための説教をし、「喜び」がダンの説教のキーワードとなっている。
 喜びに関連する語彙が39回繰り返され、天国を二つに割れば、一つは「喜び」、他の一つは「栄光」であることを説いた。

 <説教5>説教の年代は不詳であるが、比較的初期のダンの地方の教会区での説教とされており、文章も通常より短く簡単で、欄外に書いた主題もラテン語ではなく英語で書かれている。

 <説教6>1621年12月25日、セント・ポール寺院での首席司祭としての初めての説教で、この世の光としてキリストの本質的なテーマを扱って、ダンの説教の中でもかなり長いものである。キリストは命と光の源であるという光の象徴主義はクリスマスの説教にふさわしいものであった。

 <説教7>1623年レント(四旬節)の最初の金曜日、ホワイト・ホールでの説教。
 イエスの思いやりと美しい説話。

 <説教8>1624年12月25日、セント・ポールでの説教。
 神の無限で永遠の慈悲についてのダンのお気に入りのテーマ。

 <説教9>1626年4月30日、ホワイト・ホールの王室での説教。
 イエスの人間性を強調。

 <説教10>1626年12月12日、ロンドン市の参事会委員にしてナイトのサー・ウィリア・コケインの葬式での説教。
 死は確実にやってくるものであり、『ヨハネによる福音書』11章21-25節にある「わたしは復活であり、命である」を引用して、復活の希望について語り、福音書のキーワードは光と命であることを説く。

 

 

説教集 目次へ<<

ページトップへ