エレジー 4 香 水  ジョン・ダンの部屋トップへ戻る

 

一度、たったの一度、君と一緒にいるところを見られて、

君のすべての不貞と思われる行為が僕のせいにされた。

法廷で泥棒が、その年にあった盗難を受けた

すべての人から尋問を受けるように、

僕も同じように(この裏切り者のために思いもかけず)、

水腫病みの君の父上に審問されるのだ。

彼がぎらつく眼で詮索する様子は、

怪物コカトリス(注:1)をも睨み殺さんばかりである。

彼は、僕が君と一緒にいるところを見つけたら、君の美の中の美、それに、

僕らの恋の糧である彼の遺産の希望を絶ってやるといく度も誓ったけれど、

僕たちは魂のように、こっそりと、秘密に逢ってきた。

病に伏せる長患いの君の母上は、

いつもベッドで寝ているが、なかなか死にはしない。

それを好都合に昼間は寝て過ごし、

一晩中君の出入りを見張っている。

そして君の手をとってはおためごかしに、

君の手にある指輪や腕輪を探り、

口づけしては君の顔色を窺う。

また腹が膨れてはいないかと確かめるため、君を抱擁してみる。

変わった食べ物の名前をあげて、君が欲しがりはしないかと試してみたり、

青ざめたり、赤らめたり、溜息をついたり、汗をかいたりしないかと確かめる。

そして、自分が若い頃に犯した色事の罪を、

わざとらしく君に告白するだろう。

しかし、愛はこういった策略を退け、

僕の愛のために君が母上を欺くように仕向けた。

君の小さな弟たちは、妖精のように、

あの楽しい夜な夜な、しばしば僕らの部屋に飛び込んできた。

そして翌日には君の父上に買収され、膝の上に抱かれて接吻され、

自分たちが目にしたことを言わされることになる。

八フィートの背丈の、いかめしい顔をした鉄張りのようなあの召使、

ののしるときだけ神様の名を出す奴、

そいつが第一関門を閉めに行く時には、

ロドス島の巨像(注:2)のように大股で歩く。

地獄にほかの罰がなかったとしても、

あいつがいるだけで地獄の恐怖を感じさせる。

あいつは見張りのために君の父上に雇われたのに、

僕たちが触れ合うのや、接吻するのを目撃できなかった。

だが、何としたことか、うっかりして僕は、

敵に我が身を裏切るものを同行してしまった。

派手な香水が、僕が入っていくやいなや、

父上の鼻先で叫び、僕たちは見つけられてしまった。

そのとき、君の父上はベッドで、火薬の臭いを

嗅いだ暴虐な王様のように、蒼ざめた顔をして震えた。

それが悪臭だったら、父上も、

自分の足の臭いか、自分の吐く息の臭いと思っただろう。

僕たちは島国に閉じ込められていて、

そこには家畜と、種々な犬が飼われているだけで、

高貴な一角獣は、珍しい怪物だといわれている。

父上もまったく何も持っていないので、良いものを怪しんだ。

僕は、絹の服にその衣擦れの音をたてないように諭し、

踏みつけられる靴にも黙っているように命じたのに、

我が身に付けた、甘くも苦いおまえだけが、

僕を裏切ってしまった。 

誰に疑われることもなく、誰にも見られず、

父上のもとへと走っていったが、僕のところにも留まっている。

大地から生まれ出る不純な排出物、それが

健康と病を識別する感覚を狂わせる。

おまえのせいで、愚かな好色家たちが、

癩病やみの娼婦の息を吸い込んでは死を招く。

おまえのせいで、男の威厳に大きな汚名が

下されて、女々しいと言われることになる。

おまえは君主の広間でもてはやされるが、

そこでは、実質より見てくれが尊ばれるのだ。

おまえたちが祭壇で焚かれれば、神々は喜ばれるが、

その香りを好むのではなく、おまえたちが焼き焦がされるからだ。

おまえたちは、その一つ一つをとってみれば、みないやな臭い、

一つ一つを嫌っても、一体となれば愛すのか?

おまえが良いものであっても、良いものはすぐに消える。

おまえが類い稀なればこそ、その良さは失せるのだ。

僕の香水すべてを、喜んで君の父上の亡骸に

ふりかけよう。だが、はたして彼は死ぬだろうか?

 

【訳注】

注:1 コカトリス=バジリスク。鶏の鶏冠と体、蛇の尾を持つ伝説中の動物で、ひとにらみで人を殺したという。

注:2 ロドス島の巨像=古代の世界七不思議の一つで、ロドス港の入口に建っていたというヘリオスの青銅巨像。

 

 

 
 
   
ジョン・ダン全詩集訳 エレジー