エレジー 17  (変 化) ジョン・ダンの部屋トップへ戻る

 

天空は運動を楽しむ。そうであれば僕が

多くの人に愛される変化を慎む必要がどこにあろう、それに

多くの人と若さと愛を分かち合ってはならないことがあろうか?

楽しみは、変化があってこそあるものだ。

光の玉座に坐す太陽は

他に照らすものがあればそれに火炎を降り注ぎ、

一つの宮に留まることに満足せず、

一年を終えれば新しい年を始める。

すべてのものが進んで変化を求めて楽しむ。

変化こそ僕らの食欲を満たす母である。

川が一段と清らかに澄み、いっそう眼を楽しませるのは

その美しい流れが、はるか遠くへと広がっていくからだ。

新天地を求めようとしない池は澱んで、

腐敗し、そこでは生き物が住めない。

そんな池のような女を美しいと言ってはならないし、

そんな女に僕の愛をひとり占めさせるわけにはいかない。

自然は彼女の中で優しい恋人の役を

勝手気ままに演じ、彼女の妙技を駆使して

自分を魅力的に見せる。

彼女に背を向けるようなものは人道にもとる者だ。

僕は彼女をこの上なく愛しており、必要とあれば

彼女のために死ぬ覚悟がある。だからといって、僕は

彼女だけに尽くさねばならないのか、選択の余地もなく。

その掟は厳しく、僕の声など聞こうとしない。

つい最近出会った女はこの上なく美しく、

彼女の黄金色の髪が僕を捕えて放さない。

彼女の妖精のように美しい顔立ちは

死を共にしてもよいと思うほど素敵だった。

とび色の髪をした女も捨てがたい。

彼女の舌は滑らかで、会話で僕を虜にする。

他の女たちは、家柄が良いというだけで、

僕の愛の中で大きな地位を占めている。

彼女らは美しくはないが、その社会的な地位のため、

彼女らの愛を勝ち得ることが僕にとっては大事だ。

僕は目的を達せられないかもしれないが、

それを試みることは名誉なことで、称賛に値することだ。

古(いにしえ)の時代の族長たちはなんと幸せであったことか、

愛人を何人持とうが罪にはならなかったのだ。

手当たり次第に子どもを産ませることは

彼らにとっては慈善行為であると考えられた。

近親者であろうと性交の相手から除外されなかった。

ペルシア人は今でもその慣習を続けている。注:1

そのころは、女は口説けばものにできた、

それに女は忠実に事をなし、しかもうまくやった。

ところが、この貞操という称号が用いられるようになってからというもの、

我々は軽々しく信じては騙されるようになった。

黄金の時代に自然が定めた掟はいまや廃された、

その掟は我々の祖先が大事に護っていたものだった。

我々の自由は覆され、我々の特権も失われた。

我々は世間の風評の僕(しもべ)となり、

風評は姿を持たない怪物で、

我々は必死にその出所を求める。

はじめは形のなかったものが、成長して形を整え、

国民すべてに対して慣習や法律を定めるようになる。

愛の神注:2は不治の傷を受け、

そのうえ勇敢な武器まで奪われた。

大胆不敵な眼を失ったことより大きな損失は、

飛び回るためのあの崇高な翼を失ったことだった。

強靭な弓、不滅の矢をも失った、

その弓矢で、彼は逆らう者たちを傷つけたものだった。

自分の強さを信じ、独立心をもった少数の者たちだけが

いまでは昔の自由を留めているに過ぎない、

彼らは少数派ではあるが愛の神の味方となって、

彼らの胸の中に彼のために玉座を設ける。

いまの時代では非難されるにもかかわらず、彼らは

愛の神を君主として全身全霊尽くすのだと言ってはばからない。

彼らの中では僕は取るに足りない者だが、

それでも完璧さにおいては最高のものとも引けを取らない、

僕は愛の手に服従することを名誉とし、

どんな些細な命令にも逆らうことはしなかった。

いかなる形でその使命が来ようとも

僕は心を開いて、その炎を受け入れた。

だが、時が経てば、やがては

この愛の神への奉仕を拒むときが来るだろう。

我々の忠誠は一時的なものであって、

年をとるとともに自由を取り戻すのだ。

年を経て判断力がついてくると、

そう簡単に心変わりすることもなくなり、

目移りするようなこともなくなってくる。

だが、真の価値をそなえた美を正しく見極めて、

その両方を備えた一人の女性を見出せば、

彼女を永遠に愛し、彼女一人を愛することになるだろう。

 

【訳注】

初出は1650年。ヘレン・ガードナーはダンの作品かどうか疑問視している。
この詩のタイトルはグリヤソンが付けたものである。

注:1 「彼女は美しい、だから口説かねばならない。彼女は女だ、だから口説き落とすことができる」(シェイクスピア、『ヘンリー六世・第一部』5幕3場)を思い出させる。

注:2 愛の神は、キューピッド。

 

 

 
 
   
ジョン・ダン全詩集訳 エレジー