僕たちの不思議で運命的な初めての出会いにかけて、
その後に続いたあらゆる欲望にかけて、
僕たちの長い間満たされぬ希望にかけて、
僕の男らしい説得力ある言葉が君に起こした
同情心にかけて、また、スパイや恋敵が僕を脅して
傷つけた記憶にかけて、
僕は穏やかにお願いする。だが、君の父上の怒りにかけて、
君の不在と別離の苦しみのすべてにかけて、
折り入ってお願いする。僕と君とで固く結んだ
互いの節操を守るすべての誓いを、
僕はここに破棄して、あらためてこう誓う、
君にそのように危険なやり方で愛すことはさせないと。
ああ、美しい恋人よ、愛の激情を抑えてほしい、
変装して僕の小姓になるのではなく、僕の忠実な恋人であり続けてほしい。
僕は出かける。君の思いやりのある許しを得て、君をあとに残していくが、
君だけが、僕が戻ってくる渇望を心に抱くただ一人の
価値がある人。僕が戻る前に君にもしものことがあれば、
きっと僕の魂は異郷の地から君のもとへ舞い戻ってくる。
(他の点では全能だが)君の美しさも荒れ狂う海を
鎮めることはできず、君の愛も海に愛を教えることができない、
また、北風の神ボレアスの怒りも抑えることができない。
君は読んだことがあるだろう、ボレアス(注:1)が愛を誓った
美しい妖精オレティア(注:2)を、荒々しく粉々に砕いた話を。
吉凶かまわず、自ら進んで危険に身を任すなど
気違い沙汰だ。別れ別れの恋人は
お互いの心にいるといううぬぼれを糧にして生きるのだ。
何事も偽ってはならない、少年の装いをやめ、
君の身体も、心も、その装いを変えてはならない。姿を変えても
誰もが君だと分かる。君の顔を見れば誰もが
恥じらいで顔を赤らめた美しい女性と見抜くだろう。
猿が人真似をして着飾っても、猿は猿でしかなく、
月は欠けても明るく輝く月に変わりはない。
フランスの男たちは、カメレオンのように次々と変心し、
性病の百貨店、流行の専門店、
恋の火付け役、それに遊びの達人、
世界を舞台にして活躍する役者となって、
君をすぐにも見分け、君と関係を持つだろう。ああ、それに
男も女も無差別に手を出すイタリア人は、僕らが
かの温暖な地を通過するとき、君の男装した小姓の姿に満足し、
激しい欲情と激情とで君を襲うだろう、
まるでロトの客人を悩ましたように(注:3)。だが、この国の誰も、また、
海綿のように酒を吸い込む水腫病みのオランダ人も、君を不快にさせることはない、
君がここに留まりさえすれば。だからここに居たまえ、君にとっては
イングランドこそ唯一ふさわしい居場所、
そこでなら、偉大な国王が君を御前にお呼び出しされるまで
心待ちに歩き回ることができる。
僕が行ってしまったあと、僕の幸運を夢見てほしい、
僕たちが長いこと秘めていた愛を君の顔に出さないように、
それに、僕を褒めたり、貶したりもせず、愛の力を人前で
祝福したり、呪ったりもしないように、また、真夜中に
寝床で叫び声をあげて、乳母を驚かせないように。
「ああ、乳母や、私の恋人が殺されてしまった。あの人が
ひとりでアルプスを越えていくのが見えたの。あの人が
襲われ、戦い、捕らわれ、刺されて血を流し、倒れて死ぬのが見えたの」
僕にはもっとましな運命を占ってほしい。畏れ多いジュピターが
君の愛を得ただけで僕には十分だと思うなら話は別だが。
【訳注】
1633年の出版では許可が下りず、最初に出版されたのは1635年の版であるが当局の許可なしであった。
注:1 ボレアスはギリシア神話に出てくる北風の神。
注:2 北風の神ボレアスは、妖精のオレティアとの結婚を彼女の父親から断られたので、彼女をイリソス川(アテネ南部を流れる小さな川)から連れ去った。別の神話では、ボレアスとオレティアは一緒に幸せに暮らし、数人の子どもを産んだようになっているが、プラトンは、ボレアスが彼女を崖から突き落として殺した物語に変えている。
注:3 ロトは彼の家に二人の天使をもてなしたが、ソドムの人々が二人を引き渡すようにと彼の家を取り囲み、引き渡さなければ彼を身代わりにすると脅した。(『創世記』19章4節)
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