エレジー 10  夢 ジョン・ダンの部屋トップへ戻る

 

僕が愛すのは、実物の彼女より心に描いた彼女だ、

 僕の忠実な心の中に宿るその美しい姿は、

彼女のメダルとなって、彼女に僕を愛させるのだ。

 それは、自分の肖像を刻印して価値を与えてはその貨幣を

王様が愛するようなもの。さあ、ここから僕の心を連れ出してくれ。

 僕の心は、あまりに大きく立派になり過ぎた。

名誉は弱い心には重すぎる、それに強い刺激物は

 感覚を鈍らせ、見れば見るほど見えなくなる。

 

君が行ってしまえば、理性も君とともに去る、

 そうなれば、空想が女王となり、魂となり、すべてとなる。

空想は君よりほどよい悦びを与えてくれる、

 手ごろで、それにもっと調和のとれた悦びを。

 

君と一緒にいる夢を見れば、僕は君とともにあるのだ、

 だって、僕たちの悦びはみな空想に過ぎないのだから。

苦痛から空想で逃れるのは、苦痛こそ現実のものだから、

 感覚を閉じる眠りは、すべてを閉め出してしまう。

 

このように望みを達した後、僕は目覚める、

 目覚めたことの悔い以外、ほかに何も悔いはない。

そうして、名声や、涙や、苦痛のために費やした時よりも多く、

 愛のために、感謝の気持を込めたソネットの数々を作るだろう。

 

だが、愛する心よ、愛する姿よ、ここにいてくれ、

 悲しいことには、真(まこと)の悦びは、せいぜい夢に過ぎないのだ。

君はここにいてもたちまち消えてしまう、

 なぜなら、人生の蝋燭は、端(はな)から燃えさしに過ぎないのだから。

 

彼女への愛でいっぱいで心が狂ったようになろうとも

何の感覚もない白痴になるよりはましなのだ。

 

 
 
   
ジョン・ダン全詩集訳 エレジー