言葉はあまりに貧しく、弱々しいので、
慰めにはならない。深い悲しみは言葉には表せない。
溜息で語り、泣いて言葉にすることができるなら、
涙が言葉となって、悲しみも薄れ、小さくなるだろう。
悲しみの心は、小さく見えれば見えるほど、大きいものだ。
(罪の重い者ほど、法廷でダンマリを決め込むように)
それは、事態が飲み込めないからでも、感じないからでもなく、
激情のため、絶望的になっているからだ。
悲しみは、我々すべての存在が負うものであり、(注:1)
五番目の、最も強大な王国を支配する圧政者である。(注:2)
彼女はあらゆる人の心を掴んでいたので、
彼女を殺し、おまえの帝国を拡大しようと計ったのか。
おまえは、彼女を知らない者まで嘆き悲しむと分かっていたか、
大洪水で罪のない者までが犠牲となったように。
おまえはあの宮殿をものにしただけでは飽き足らず、
破滅したものまで根こそぎにしなければ気がすまないのか。
おまえがそこに留まって、彼女の眼で見渡していたら、
今おまえから逃げている者たちが全員、おまえを崇めていただろう。
彼女の瞳は、取り込む光より多くの光を発散していたのだから。
彼女の瞳がいつとは告げずとも、自ずと夜は明けた。
おまえにとって、彼女はあまりにも透明で、透き通っていた。
おまえの住まいに相応しいのは、粘土か、石ころか、黒玉だ。
ああ、彼女はあまりに純粋であったが、あまりにも壊れやすかった。
壊れないガラス作りの器具を目にした者などいるだろうか。
彼女の死によって、我々がおまえに征服されると思うなら、
おまえの当ては外れた。彼女の死とともに、我々すべてが死ぬのだから。
生きているとすれば、それはおまえに逆らうためだ。
彼女はここでも幸福であったが、今は天国でもっと幸福である。
我々が蒸発し、やせ衰え、死んだとしても、
彼女が先に死んでいるので、不幸だと思わない。
彼女は、この世とあの世を交換した。彼女が去った今、
歓楽も繁栄も苦痛でしかない。
彼女は、この世のすべての徳のうち、
倫理学の説く基本の徳(注:3)をすべて備えていた。
彼女の魂は楽園だった。天使は
それを守る神の恩寵であり、罪を締め出していた。
彼女は死を招き入れただけのことだった。我々は、
木の実を(注:4)刈り取ったことで、みな衰弱して死ぬのだ。
神が彼女をこの世から連れ去ったのは、我々が
神や、神の掟よりも、あの木のように、彼女を愛すのを恐れたからだ。
我々が涙を流せば、神は慈悲を注がれ、
我々の心を、彼女が今いる天国へと引き上げてくれる。
彼女の美徳が彼女をこの世に留まらせていたら、
聖者を一人得ていたところだが、かわりに聖なる日に恵まれた。
彼女の心は、あの不思議な柴(注:5)である。聖なる火の
宗教は、それを焼き尽くすことはなく、却って、
信仰心を煽り、神の一日を慎み深く過ごしては、
我々が饗宴に向ける心を、彼女は祈りに捧げた。
そして、敬虔な心を通してこの世で予言したことは、
彼女の天国での安息を永遠のものとすることであった。
天使たちが彼女を持ち上げ、神の隣に住まわせた。
(彼女は天から落ちた多くの天使たち(注:6)の序列に属していたから)
彼女の肉体が我々とともに残ったのは、彼女の死んだ姿を見なければ、
彼女は死ぬはずがないと言う人がいるからだった。
彼女の美徳や、彼女の美しさに、はるかに劣るものから、
異教徒たちは、神や女神を造り上げた。
貪欲な大地は、今彼女に土となるように口説いている。
その土は、レムノスの土(注:7)となるだろう。
水晶のように澄んだ彼女の亡骸を包む柩の木は、
永遠の命を得て常緑樹となり、ダイアモンドで満たされるだろう。
そして、彼女の死を喜び、悲しむ我々彼女の友人たちは、みなで
悲しみを分かち合う。一人ではストア派の心臓でも耐えられないだろう。(注:8)
【訳注】
この詩の題は、1633年の版では『挽歌』、1635‐54年の版では、『挽歌XI 死』と題されている。グリアソンは『挽歌 死』と題し、パトライズは『挽歌』を採用しているが、ここではA.J. スミスの編纂に従っている。
注:1 「悲しみは」以下、「お前のはらみの苦しみを大きなものにする。お前は苦しんで子を産む」(『創世記』3章16節)を踏まえている。
注:2 「五番目の王国」は、バビロン、ペルシア、ギリシア、ローマの四大帝国の世俗の王朝に続く「キリストが支配する王国」という解釈と、「死、悲しみが支配する王国」という解釈がある。
注:3 「基本の徳」とは、正義、分別、節制、忍耐の四つをいう。
注:4 木の実とは、エデンの園の智恵の木の実のこと。
注:5 「不思議な柴」は、『出エジプト記』3章2節に「そのとき、柴の間に燃え上がっている炎の中に主の御使いが現れた。彼(モーゼ)が見ると、見よ、柴は火に燃えているのに、柴は燃え尽きない」とある。
注:6 「天から落ちた多くの天使たち」とは、神の玉座に仕え、六つの翼を持つ天使の最高位であるセラピム(熾天使)。
注:7 レムノスの土とは、エーゲ海にあるレムノス島の大地のことで、その土は解毒剤になると信じられていた。
注:8 ストア派の心は、感情に左右されないとされていた。
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