4 ブルストレッド嬢の死を悼む挽歌  ダンの部屋トップへ戻る

 

言葉はあまりに貧しく、弱々しいので、

慰めにはならない。深い悲しみは言葉には表せない。

溜息で語り、泣いて言葉にすることができるなら、

涙が言葉となって、悲しみも薄れ、小さくなるだろう。

悲しみの心は、小さく見えれば見えるほど、大きいものだ。

(罪の重い者ほど、法廷でダンマリを決め込むように)

それは、事態が飲み込めないからでも、感じないからでもなく、

激情のため、絶望的になっているからだ。

悲しみは、我々すべての存在が負うものであり、注:1

五番目の、最も強大な王国を支配する圧政者である。注:2        

彼女はあらゆる人の心を掴んでいたので、

彼女を殺し、おまえの帝国を拡大しようと計ったのか。

おまえは、彼女を知らない者まで嘆き悲しむと分かっていたか、

大洪水で罪のない者までが犠牲となったように。

おまえはあの宮殿をものにしただけでは飽き足らず、

破滅したものまで根こそぎにしなければ気がすまないのか。

おまえがそこに留まって、彼女の眼で見渡していたら、

今おまえから逃げている者たちが全員、おまえを崇めていただろう。

彼女の瞳は、取り込む光より多くの光を発散していたのだから。

彼女の瞳がいつとは告げずとも、自ずと夜は明けた。

おまえにとって、彼女はあまりにも透明で、透き通っていた。

おまえの住まいに相応しいのは、粘土か、石ころか、黒玉だ。

ああ、彼女はあまりに純粋であったが、あまりにも壊れやすかった。

壊れないガラス作りの器具を目にした者などいるだろうか。

彼女の死によって、我々がおまえに征服されると思うなら、

おまえの当ては外れた。彼女の死とともに、我々すべてが死ぬのだから。

生きているとすれば、それはおまえに逆らうためだ。

彼女はここでも幸福であったが、今は天国でもっと幸福である。

我々が蒸発し、やせ衰え、死んだとしても、

彼女が先に死んでいるので、不幸だと思わない。

彼女は、この世とあの世を交換した。彼女が去った今、

歓楽も繁栄も苦痛でしかない。

彼女は、この世のすべての徳のうち、

倫理学の説く基本の徳注:3をすべて備えていた。

彼女の魂は楽園だった。天使は

それを守る神の恩寵であり、罪を締め出していた。

彼女は死を招き入れただけのことだった。我々は、

木の実を注:4刈り取ったことで、みな衰弱して死ぬのだ。

神が彼女をこの世から連れ去ったのは、我々が

神や、神の掟よりも、あの木のように、彼女を愛すのを恐れたからだ。

我々が涙を流せば、神は慈悲を注がれ、

我々の心を、彼女が今いる天国へと引き上げてくれる。

彼女の美徳が彼女をこの世に留まらせていたら、

聖者を一人得ていたところだが、かわりに聖なる日に恵まれた。

彼女の心は、あの不思議な柴注:5である。聖なる火の

宗教は、それを焼き尽くすことはなく、却って、

信仰心を煽り、神の一日を慎み深く過ごしては、

我々が饗宴に向ける心を、彼女は祈りに捧げた。

そして、敬虔な心を通してこの世で予言したことは、

彼女の天国での安息を永遠のものとすることであった。

天使たちが彼女を持ち上げ、神の隣に住まわせた。

(彼女は天から落ちた多くの天使たち注:6の序列に属していたから)

彼女の肉体が我々とともに残ったのは、彼女の死んだ姿を見なければ、

彼女は死ぬはずがないと言う人がいるからだった。

彼女の美徳や、彼女の美しさに、はるかに劣るものから、

異教徒たちは、神や女神を造り上げた。

貪欲な大地は、今彼女に土となるように口説いている。

その土は、レムノスの土注:7となるだろう。

水晶のように澄んだ彼女の亡骸を包む柩の木は、

永遠の命を得て常緑樹となり、ダイアモンドで満たされるだろう。

そして、彼女の死を喜び、悲しむ我々彼女の友人たちは、みなで

悲しみを分かち合う。一人ではストア派の心臓でも耐えられないだろう。注:8

 

 

【訳注】

この詩の題は、1633年の版では『挽歌』、1635‐54年の版では、『挽歌XI 死』と題されている。グリアソンは『挽歌 死』と題し、パトライズは『挽歌』を採用しているが、ここではA.J. スミスの編纂に従っている。

 

注:1 「悲しみは」以下、「お前のはらみの苦しみを大きなものにする。お前は苦しんで子を産む」(『創世記』3章16節)を踏まえている。

注:2 「五番目の王国」は、バビロン、ペルシア、ギリシア、ローマの四大帝国の世俗の王朝に続く「キリストが支配する王国」という解釈と、「死、悲しみが支配する王国」という解釈がある。

注:3  「基本の徳」とは、正義、分別、節制、忍耐の四つをいう。

注:4 木の実とは、エデンの園の智恵の木の実のこと。

注:5 「不思議な柴」は、『出エジプト記』3章2節に「そのとき、柴の間に燃え上がっている炎の中に主の御使いが現れた。彼(モーゼ)が見ると、見よ、柴は火に燃えているのに、柴は燃え尽きない」とある。

注:6 「天から落ちた多くの天使たち」とは、神の玉座に仕え、六つの翼を持つ天使の最高位であるセラピム(熾天使)。

注:7 レムノスの土とは、エーゲ海にあるレムノス島の大地のことで、その土は解毒剤になると信じられていた。

注:8 ストア派の心は、感情に左右されないとされていた。

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 挽歌と葬送歌