1  L. C. の死を悼む挽歌 ダンの部屋トップへ戻る

 

悲しみは、これまでこの家に近づくことはなかったのに、

ああ、今はこの家の主となり、我々のすべてのものがその犠牲となった。

この不思議な出来事は前代未聞の驚きをもたらし、我々には

ただ泣くしか術のない不思議な出来事である。

彼の生前の偉業は声を大にして語るに値し、

称賛を受けるべきものであるが、我々の冷めた舌では役に立たない。

これまで彼が我々の眼から涙を遠ざけていたのは、

この深い悲しみに合わせて、涙を貯め込むためだった。

ああ、芳しい野薔薇が大木にそって伸びていくとすれば、

その木が天国に移植されるようになっても、

あるいは、切り倒され、神の御供えとして焼かれることになれば、

木にそって伸びた薔薇は枯れるしかない。

我々も彼の死でそうなった。どのような家族も

天国の発見のために、これほど魂を艤装したことはない。

多くの投機家たちがこの魂のために競って

投資し、彼と分け前の喜びに与ろうとした。

我々はすべての友人たちが愛する彼を失ったが、彼は今

死によって命を得た。それはどんな敵であっても認める。

彼に敵がいたとしての話だが。彼の為すところはみな、

賢明な学者たちが知り得る限りのすべての徳となった。

彼に再び会えるという希望が、我々に安らぎを与える。

我々が初めて死ぬ時、それは死ではない。

彼の子供たちは彼の肖像画であるが、ああ、彼らはいま

死んだ彼の肖像画であり、彼のように、感覚がなく、冷たい。

ここには大理石の墓石は必要がない。彼が死んでからは、

彼と、彼のまわりの肉親たちも、石となってしまったから。

 

 

【訳注】

タイトルのL. C. が誰であるかに諸説あるが、1596年に亡くなった宮内長官(Lord Chamberlain)の初代ハンズドン男爵ヘンリー・ケアリーの説が最も有力であり、今一つは、後年ダンの友人となったライオネル・クランフィールドの父親の死(1595年)を悼んで書き贈ったとする説がある。

 

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ジョン・ダン全詩集訳 挽歌と葬送歌