高木登 観劇日記-2002年の観劇日記から
 
2002年 1月2月3月4月|5月|6月7月8月9月10月
11月の観劇記録
 

102 2日(土) 地人会 第88回公演 『歌え、悲しみの深き淵より』

作/ロバート・アンダーソン、訳・演出/木村光一、装置/石井強司、照明/沢田祐二
出演/中村彰男、近石真介、長内美那子、銀粉蝶、田中正彦、川辺久造、松熊信義、他

 

 

103 5日(火) テアトル・エコー 第117回公演 『サンシャイン・ボーイズ』

作/ニール・サイモン、訳・演出/酒井洋子、美術/孫福剛久
出演/納谷悟朗、熊倉一雄、安原義人、丸山裕子、松原政義、吉川亜紀子、石本竜介

 
俳優座劇場
 

104 9日(土・昼) 大蔵流狂言 『附子ぶす』『二人袴ふたりば』

出演/山本泰太郎、山本則俊、山本則孝; 山本東次郎、山本則直、山本則重、山本則秀
 
杉並区高井戸区民センター
 

105 9日(土・夜) メジャーリーグ制作 『ハムレット」

作/W・シェイクスピア、訳/松岡和子、上演台本/岡本おさみ、演出/栗田芳宏、
美術・衣装/朝倉摂、音楽/宮川彬良、振付/舘形比呂一
出演/安寿ミラ、旺なつき、吉田鋼太郎、栗田芳宏、間宮啓行、植本潤、河内大和、天宮良

 
池袋・サンシャイン劇場

106 10日(日) 木山事務所公演 『人間万事漱石の自転車』

作/堤春恵、演出/末木利文、美術/石井みつる
出演/平田広明(夏目漱石)、林次樹(正岡子規)、磯貝誠(高浜虚子)
東京芸術劇場・小ホール

107 16日(土) 幹の会+リリック・プロデユース公演 『リア王

作/W・シェイクスピア、訳/小田島雄志、演出/平幹二朗、美術/島次郎、
出演/L=平幹二朗、G=新橋耐子、R=一色彩子、C=小林さやか、平岳大=エドマンド、坂本長利=グロスター伯爵、勝部演之=ケント伯爵、西本裕行=道化

紀伊国屋サザンシアター

<感激度>☆☆☆☆

108 17日(日) 無名塾公演『セールスマンの死』― 仲代達矢役者生活50周年記念公演 ―

作/アーサー・ミラー、訳/倉橋健、演出/林清人
出演/仲代達矢=ウイリー・ローマン、小宮久美子=リンダ、ビフ=佐藤一晃、
ハッピー=進藤健太郎、野崎海太郎=チャーリー、赤羽秀之=バーナード

世田谷パブリックシアター

<感激度>☆☆☆☆☆

<感激メモ>2000年に無名塾25周年記念として初演され、今回ビフやハッピーなどの配役の一部入れ替えがあっての再演。昨今の経済情勢のせいも重なって、仲代達矢が演じるセールスマン、ウイリー・ローマンの自己妄想の狂気が切なく悲しく胸を打つ。最後は泣けてどうしようもなかった。

109 22日(金) ASC 第25回公演 『オセロ』

作/W・シェイクスピア、訳/小田島雄志、演出/彩乃木崇之
出演/O=菊地一浩、I=彩乃木崇之、D=那智ゆかり、E=音室亜冊弓、
(4人で全役を演じる)

銀座みゆき館劇場

110 23日(土) 劇団青年座・第164回公演 『ハロルドとモード』

作/コリン・ヒギンズ、翻案/ジャン=クロード・カリエール、翻訳・演出/伊藤大、
装置/柴田秀子、照明/中川隆一
出演/鈴木浩介、東恵美子、増子倭文江、手塚秀彰、円谷文彦、他

下北沢・本多劇場

<感激度>☆☆☆☆☆

 

111 24日(日) 『ヤジルシー誘われて』

作・演出/太田省吾、美術/島次郎

出演/大杉漣、品川徹、小田豊、吉田朝、金井良信、金久美子、稲川実代子、
鈴木理恵子、安藤朋子、谷川清美

新国立劇場・小劇場場

10月の観劇記録
 

088 03(木) シェイクスピア・シアター公演 『お伽草紙・「カチカチ山」「舌切り雀」』

 

作/太宰治、脚色・演出/出口典雄出演/杉本政志、松本洋平、山崎泰成、永島光教、原智美、鮫島広子、大門晶、
住川佳寿子、他

東京芸術劇場・小ホール2

089 07(月) 東京アンサンブル公演 『常陸坊海尊』

作/秋元松代、演出/広渡常敏、音楽/林光、装置/高田一郎出演/滋賀澤子、折林悠、深山忠昭、田辺三岐夫、浅井純彦、他

ブレヒトの芝居小屋

090 11日(金) 文学座公演 『人が恋しい西の窓』

作/山田太一、演出/坂口芳貞、装置/石井強司出演/坂口芳貞、飯沼慧、三木敏彦、今村俊一、栗野史浩、八木昌子、山田里奈、倉澤愛

新宿・紀伊国屋ホール

<感激度>☆☆☆☆

091 12日(土) 俳優座 No.264 公演 『きょうの雨 あしたの風』

原作/藤沢周平、脚本/吉永仁郎、演出/安川修一、美術/広瀬誠一郎
出演/阿部百合子、川口敦子、青山眉子、岩瀬晃、香野百合子、可知靖之、荘司肇、
志村要、島英臣、他

俳優座劇場

 

092 13日(日) ミュージカル 『太平洋序曲』

作曲・作詞/ステーブン・ソンドハイム、台本/ジョン・ワイドマン、翻訳・訳詞/橋本邦彦、
演出・振付/宮本亜門、美術/松井るみ、衣装/ワダ・エミ
出演/国本武春、越智則英、樋浦勉、佐山陽規、大島宇三郎、園岡新太郎、他

新国立劇場・小劇場

093 18日(金) ウイリアム館公演 『ヴェニスの証人』

作/W・シェイクスピア、訳/小田島雄志、演出/関川慎二
出演/A=安井邦彦、B=島田陽、S=小長谷勝彦、P=江間直子、N=大井華恵、他

東京オペラシテイ・近江楽堂

094 19日(土) 燐光群公演 『最後の一人までが全体である』

作・演出/坂手洋二、美術/加藤ちか
出演/木場勝己、藤井びん、大西孝洋、神野三鈴、中山マリ、富士本喜久子、他

下北沢 ザ・スズナリ

<感激度>☆☆☆☆

 

095 20日(日) 加藤健一事務所公演 Vol.52 『バッファローの月』

作/ケン・ラドウイッグ、訳/小田島恒志、演出/久世龍之介、美術/石井強司
出演/加藤健一、井之上隆志、さとうこうじ、加藤忍、尾崎右宗、戸田由香、松本きょうじ、左時枝

下北沢 本多劇場

<感激度>☆☆☆☆

 

096 21日(月) 演劇集団 円 公演 『ブラインド・タッチ』


作/坂手洋二、演出/国峰眞、美術/島次郎
出演/岸田今日子、塩見三省

ステージ円

 

097 22日(火) 劇団朋友 第27回公演 『キエ』

作/八木柊一郎、演出/西川信広、美術/石井強司
出演/長山藍子、浜田寅彦、菅原チネ子、小島敏彦、武正忠明、進藤忠、まきのかずこ、他

新宿・紀伊国屋ホール

 

098 25日(金) 劇団鳥獣戯画 第66回公演 『三人でシェイクスピア』

作/Jess Bogeson, Adam Long, Daniel Singer、訳/小田島雄志・長谷川仰子、
演出/知念正文
出演/石丸有里子、ちねんまさふみ、赤星昇一郎

下北沢 ザ・スズナリ

 

099 26日(土) 『月の向こう側』

作・演出/ロベール・ルパージュ、音楽/ローリー・アンダーソン
出演/イヴ・ジャック

世田谷パブリックシアター

<感激度>☆☆☆☆

 

100 27日(日) 劇団鳥獣戯画 第66回公演 『カリフォルニア・ドリーミン』

作・演出・振付/知念正文、音楽/雨宮賢明
出演/あぜち守、石丸有里子、ちねんまさふみ、若尾哲平、他

下北沢 ザ・スズナリ

<感激度>☆☆☆☆☆

 

101 28日(月) こまつ座 第67回公演 『雨』

作/井之上ひさし、演出/木村光一、音楽/宇野誠一郎、美術/綾部郁郎
出演/辻萬長、沖恂一郎、松野健一、三田和代、他

新宿・紀伊国屋ホール

 

9月の観劇記録
 
080 14日(土) 地人会第87回公演 『お月さまのジャン』

作/マルセル・アシャール、訳/長岡輝子、演出/木村光一、装置/高田一郎
出演/林隆三、鈴木ほのか、嵐広也、新克利、森田育代、福沢亜希子

新宿・紀伊国屋ホール

<感激度>☆☆☆

 

081 15日(日) ベルリーナ・アンサンブル来日公演 『リチャード2世 

作/W・シェイクスピア、翻案/トーマス・ブランシュ、演出・芸術監督/クラウス・パイマン、
舞台美術/アヒム・フライヤー
出演/ヒャエル・メルテンス(リチャード2世)、ファイト・シューベルト(ボリンブルック)、
マーテイン・ザイフェルト(ガント公/カーライル司教)、ハンナ・ユルゲンス(王妃イザベル)、他

渋谷・文化村シアターコクーン (ドイツ語による上演、途中休憩20分入れて3時間)

<感激度>☆☆☆

 

082 16日(月) 国際チエーホフ演劇祭inモスクワ『ハムレット』 

作/W・シェイクスピア、構成・演出/ペーター・シュタイン
出演/エヴゲーニー・ミローノフ(ハムレット)、アレクサンドル・フェクリストフ(クローデイアス)、イリーナ・クプチェンコ(ガートルード)、オレグ・ヴァヴィーロフ(亡霊)、ワレンチン・スミルニッキー (ポローニアス)、ドミートリー・シチェルビーナ(レアテイーズ)、アレクセイ・ズーエフ(ホレイショー)、エレーナ・ザハーロフ(オフイーリア)、他

新国立劇場中劇場 (ロシア語による上演、途中休憩20分入れて3時間20分)

<感激度>☆☆☆☆

 

083 17日(月) 『路地裏の楽園』

構成・作・演出/宮川雅彦、美術/堀尾幸男、渡辺美乃利
出演/すまけい、有薗芳記、田子裕史、蒲田哲、宮川まさひこ

新宿シアター・トップス

<感激度>☆☆

 

084 22日(日) 劇団民藝公演 『ありてなければ』

作/大西信行、演出/高橋清祐、装置/深川絵美
出演/奈良岡朋子、伊藤聡、花村さやか、他

新宿・紀伊国屋サザンシアター

<感激度>☆☆☆☆

「世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ」(読み人知らず)の古歌から取られた題名。
女手一つで育てた息子が一言の相談もなく結婚するといって、突然婚約者を連れてきて、その彼女の最初の挨拶が、別居の話からの切り出し...早くも「鼻毛を読まれた」息子。

 

085 23日(月) オペラ・シアターこんにゃく座公演 オペラ『十二夜』

原作/W・シェイクスピア、台本・作曲/林光 + 萩京子、演出/加藤直、美術/島次郎

出演/鈴木あかね、梅村博美、武田恵子、大石哲史、川鍋節雄、大月秀幸、佐藤敏之、
井村タカオ、他

俳優座劇場 

<感激度>☆☆

 

086 28日(土) シェイクスピア・シアター公演 『じゃじゃ馬ならし』

原作/W・シェイクスピア、訳/小田島雄志、演出/出口典雄
出演/杉本政志、星和利、山崎泰成、松本洋平、永島光教、原智美、大門晶、他

東京芸術劇場・小ホール2

<感激度>☆☆☆

 

087 29日(日) 『ミレナ』

脚本/斎藤憐、演出/佐藤信、美術/佐藤信+星健典
出演/南果歩、渡辺えり子、渡辺美佐子、二瓶鮫一、真那胡敬二、大鷹明良、他

世田谷パブリックシアター

<感激度>☆☆☆

ミレナとは、フランツ・カフカの伝説の恋人ミレナ・イェセンスカー(南果歩)で、彼女はカフカの小説をはじめてチェコ語に翻訳した女性ジャーナリストでもある。彼女はヒトラー政権に抵抗して、ベルリンの強制収容所ラーヴェンスブリュックに送られ、そこで生涯の親友となる共産党員のマルガレーテ・ノイマン(渡辺えり子)と出会う。この物語はマルガレーテのミレナへの追想として描出される。

マルガレーテが過去を追想するようにして登場し、そこで舞台は一転し、下着姿の女性達が白い蝶のように舞う。マルガレーテも着ていた衣服を脱いで下着姿となって一緒に踊り、舞う。そしてそこはラーヴェンスブリュックの収容所となる。

ミレナとマルガレーテを含む8人の女囚役と、ナチの女性将校と、監視人役でヒトラー信奉者の監視人役の田舎農婦ゲルダ(渡辺美佐子)の10人の女優陣を縦軸にして、カフカ(真那胡敬二)、マルガレーテの夫で共産主義者のハインツ・ノイマン(ニ瓶鮫一)、そして収容所の医師ゾンダーク(大鷹明良)を横軸にからませて、女たちが語る「生の歴史」物語。

スターリニズムやファッシズムの批判という表向きの形式を取りながら、過去の日本の戦争責任問題や、現代の日本のありように対する痛烈な批判・告発となっている。囚人を名前ではなく番号で呼ぶことは、国民総背番号制をイメージさせ、有事法案は、なし崩し的に戦争への関与へと突き進んだ過去の過ちの繰り返しを思わせる。

戦争の責任は、本当は軍人にあったのではなく、一般国民・庶民にあったということを告発的に表象したのが、田舎農婦のゲルダである。ほんの少しのズレが、大きな過ちへとつながる。そんなはずではなかった、と思ったときにはもう止められないところまできている。庶民はそのとき、被害者ではなく加害者であり、その加担者でもある。

ミレナが自分に向かって引用するカフカの言葉、「おまえが階段を昇ることをやめないかぎり、階段も終わらない。おまえが昇る足もとから、階段は上の方へと伸びていく」は、そんな庶民への警告にも聞こえる。

カフカの『城』の主人公、測量技師が決して城へはたどり着かないように、われわれも決して「そこ」にはたどり着かない。この芝居の寓意性をカフカに負っているのを感じる。

この舞台は一筋縄ではいかない、非常に硬質な舞台である。

 

8月の観劇記録
 
073 4日(日) こまつ座第66回公演 『太鼓たたいて笛ふいて』 

出演/大竹しのぶ、梅沢昌代、木場勝己、神野三鈴、松本きょうじ、阿南健治、朴勝哲

紀伊国屋サザンシアター

<感激度>☆☆☆

『放浪記』を出した後の昭和10年(1935)秋から、昭和26年(1951)夏までの、林芙美子(大竹しのぶ)が亡くなるまでの17年間が舞台。「太鼓たたいて笛ふいて」というのは、国民の戦意昂揚をはかるために内閣情報部が作った「ペン部隊」の一員として、林芙美子が大陸に派遣され従軍記者として軍部のお先棒を担いだことを象徴しているのだが、踊らされていたのは芙美子自身であったという気がする舞台である。それは木場勝己が演じるポリドールレコード文芸部の三木孝が言う「戦争はもうかる」という言葉に、みなが踊らされていることでもあった。芙美子の母キクを演じる梅沢昌代の演技が圧巻であるが、舞台を重層的に面白くしているのは、島崎藤村の姪島崎こま子(神野三鈴)の登場と、庶民の代表である行商人の二人の青年、加賀四郎(松本きょうじ)と土沢時男(阿南健治)が、それぞれ数奇な運命の人生を歩み、芙美子の母林キク(梅沢昌代)と芙美子自身に要所要所でかかわってくるところである。四郎は権力の側に立ち、憲兵となり、戦後は警察官となる。時男は小作農家の婿養子になるが、兵隊に取られる。戦死の誤報で、戻ってみれば、愛する妻は再婚していて、もらった手切れ金も使い果たし、新宿で浮浪者となっていたところを、今は警察官となっている四郎に、芙美子の家につれてこられ、思わぬ再会を果たす場面などは、笑いと涙を誘う。「人物評伝」舞台であるとともに、井上ひさしの戦争への強い批判を感じさせる一連の舞台作品でもある。

 

074 10日(土) 劇団扉座第27回公演 『新羅生門』

作/横内謙介、演出/茅野イサム、美術/上田淳子、音楽/笠松泰洋
出演/村内貞介、高橋一生、佐藤累央、杉山良一、仲尾あづさ、他

新宿御苑、シアターサンモール

<感激度>☆☆☆

作者によれば14年前に書かれ、それからもいくどとなく上演されてきた作品であるということだが、主人公二人の若者の、フリーターという言葉も今では一層定着化してきて、地上げ屋という言葉もバブル経済の響きを感じさせ、一種の懐かしさをも覚える。しかし、作者にしてみれば、その14年の歳月というのが重みとしてずっしりとある。「今や弟や妹を越えて、息子や娘の年に近くなってきた扉座の若者たちを見ていて、彼らにコレ(『新羅生門』)をやらせてみたいと思い始めた。これは若者の話なのだ。特にまだ何者でもないけれど、何者かになりたくてたまらない若者たちに最もよく似合う」と横内謙介は語る。確かにこの『新羅生門』は大人の御伽噺というより、若者のための御伽噺だという気がする。明日は取り壊されるという、南青山の一角にある古い西洋館の建物に一人住む老婆飯島サエから、一晩一人十万円のアルバイトを引き受けるフリーターの岡元と山路。うまい話には何かやましいものがあるというが、サエの息子ゴロウが地下から骨を掘り出すのがその手伝いの仕事。そして実はそのゴロウは鬼であり、葬られていた骨は、ゴロウに返り討ちにあった鬼退治の桃太郎、一寸法師、金太郎、それに羅生門の鬼退治の渡辺綱。人の心には誰しも鬼が住んでいるということと、社会には生け贄としての「鬼」が必要であることが寓意される。だがそういう寓意性を別にして、歌と踊りの混じったテンポの早い、若者の舞台を見るだけでも楽しい気分になる。

 

075 14日(水) JIS企画公演 『今宵かぎりは・・・』 

作・演出/竹内銃一郎、舞台美術/島次郎
出演/佐野史郎、岡本健一、加納幸和、中川安奈、清水真美、大森博、谷川昭一朗

下北沢、本多劇場 (上演時間:休憩なしで2時間)

<感激度>☆☆☆

98年に新国立劇場で、栗山民也演出で初演されたものを、今回、作者自らが演出。1920年代のパリを舞台に、詩人の金子光晴(佐野史郎がカニエ・タキオとして演じる)、画家の藤田嗣治(加納幸和のオカダ・レンジ)、佐伯祐三(岡本健一のウエキ・シュンゾウ)をモデルにした、愛と嫉妬に揺れ動く男と女のデカダンス。その3人の芸術家たちの強い印象とは別に、金子光晴の本に出てくるという出島春光をモデルにした九州男児のコジマを演じる大森博、それに架空の人物、料理上手の画家キムラを演じる谷川昭一郎の脇役が印象に残る。

 

076 15日(木) 新宿梁山泊第28回公演 『吸血姫』

作/唐十郎、演出/金盾進、舞台美術/大塚聡+百八竜
出演/小檜山洋一、近藤結宥花、大久保鷹、三浦伸子、稲荷卓央、他

新宿、花園神社境内 (上演時間: 途中15分休憩2回はさんで3時間半)

<感激度>☆☆☆

テント公演を観るのは初めて。予約もしていなかったので、受付時間よりも早めに出かけた。当日はお盆の最中だというのに、この日が初日のせいか予約でいっぱいで、キャンセル待ちの整理番号で2番目。ずいぶんいろんなタイプの観客が集まってくる。劇団関係者らしき人々もかなりいる。小田島雄志教授、松岡和子女史も来ていた。いつものことながら、新宿梁山泊の舞台は熱気溢れるパワーに満ちていて、テントの中も一層熱く燃えていた。愛染かつらの高石かつえの皮相的パロデイーの笑いを超えて、大正・戦前の昭和時代の深層部を炙り出すような重層的なストーリーの展開には、自分の知識が不足していてほとんど理解できていないが、その圧倒的パワーを浴びるだけでも十二分に楽しめる。『吸血姫』は唐十郎の状況劇場で71年に初演されたというが、いまだみずみずしさを持っているように思えるのは、自分が始めてみるせいばかりではないだろう。それは今、歴史の試練の中に我々が立たされているという状況を改めて考え直させるような、そんな寓意的批評性をもっているからでもあろう。今回その初演で活躍した大久保鷹が同じく大陸浪人川島浪速を演じている。

 

077 18日(日) MONO第30回公演 『きゅうりの花』 

作・演出/土田英生
出演/尾方宣久、水沼健、西野千雅子、土田英生、他

下北沢、ザ・スズナリ (上演時間: 約1時間40分)

<感激度>☆☆☆

過疎地の山村を舞台に、村の青年団による村興しのイベント企画をめぐっての人間模様が織り成される。過疎地としての深刻な嫁不足の問題をコミカルに、一方ではムラの閉鎖性と排他性で、ナカマウチでは意見の対立を繰り返しながらも、よそ者が闖入してくることで、ナカマウチの妙な団結を作り出すという、どこにでもありそうな日常性の小さなドラマを描き出した佳作。事故死した同級生の永井(水沼健)の死に、急に涙が出てとまらないと呆然と立ち尽くす隆男(金替康博)の姿が最後のシーンが心に染みる。笑いを誘いながらも、心の襞に静かに染み込んでくるドラマである。演出家の栗山民也が来ていたのに偶然出会ったのが印象的だった。

 

078 20日(火)  『まちがいの狂言』

作/高橋康也(W・シェイクスピア原作 『間違いの喜劇』より)、演出/野村萬斎、
美術/堀尾幸男
出演/野村万作、野村万之介、野村萬斎、石田幸雄、ほか万作の会

世田谷パブリックシアター (上演時間: 1時間30分)

<感激度>☆☆☆

昨年4月に同劇場で公演され、その後ロンドンのグローブ座に招待された公演を、今回再構成させてグローバル・バージョンとして再上演。この8月に同劇場の芸術監督に就任した野村満斎の披露公演ともなっている。昨年チケットが入手出来ず、今年は念願かなってやっと観ることが出来た。(詳しくは「観劇日記」に)

 

079 21日(水) アジア舞台芸術祭2002東京 『リア王』

演出・主演/呉興国(一人十役)

国際交流基金フォーラム(赤坂) (上演時間: 途中休憩20分をいれて2時間)

<感激度>☆☆☆

「芸術見本市2002東京」との共同開催の「アジア舞台芸術祭2002東京」のプログラムの一つ。アジアの伝統芸能である京劇と西洋のシェイクスピアとを融和させた、呉興国の「当代伝奇劇場」の最新作。(詳しくは「観劇日記」に) 

 

7月の観劇記録
 
064  6日(土) 劇団昴公演 『ゆうれい貸屋』

原作/山本周五郎、脚色・演出/福田逸、美術/島次郎
出演/一柳みる、北川勝博、内田稔、新村礼子、他

俳優座劇場

<感激度>☆☆ 

山本周五郎の『人情裏長屋』に収録されている「ゆうれい貸屋」を、福田逸にとって初めての脚色作品。ほのぼのとした感じと、落語の人情話のおかしみでさわやかな笑いを誘う。

 

065 11日(木) 櫻会版 『夏の夜の夢』 アクターズスタジオ櫻会第12回公演

作/シェイクスピアとその仲間達、構成・台本・演出/沢田次郎
出演/高田強、貝塚秀人、小山陽一、木村義信、谷口典、吉村昌代、枝村みどり、
畠中冊子

中野新橋・櫻会スタジオ

シェイクスピアの『夏の夜の夢』の骨格を守りながら、遊び心を入れた櫻会版『夏の夜の夢』。全員が一人二役三役をこなす一方、パックの役では、吉村昌代と枝村みどりの二人が、二人合わせて「ツーパック」のギャグを演じる。森の中では、デミートリアスと彼を追いかけるヘレナの二人を、貫一お宮に仕立てた余興を加えたり工夫を凝らしている。相変わらず演技全体はうまくないのだが、一生懸命やっている姿が、アテネの職人達の芝居同様、その一生懸命さがいい。

 

066 13日(土) 「沙翁落語を楽しむ会」第4弾 「夏の夜の夢」翻案 『稲荷町の陽炎』

出演/落語・古今亭志輔、住吉踊り連中

東京グローブ座

江戸を舞台に、同じ長屋に住む噺屋二人の息子達がいる。二枚目芳次郎と踊りの師匠半次郎、芳次郎は煙草屋の娘ミー坊と相思相愛の仲、踊りの師匠半次郎には弟子の寿が恋いこがれている。ところが半次郎は女性に興味などなく、芳次郎に惚れている。ところがその半次郎にミー坊との縁談が持ち上がる。そのミー坊には二十歳にもなってまだ寝小便の癖が抜けない弟がいる。近所のかみさんが寝小便を直す薬として彼にいもりを黒焼きにして粉にした煎じ薬を与える。ミー坊の弟はそれをもって八幡様の境内までふらりとでかけて、そこの木に登る。しかしその粉薬の使い方が分からない。寝小便に効く薬だから、多分あそこに振りかければいいのだろうと、自分のあれに振りかける。木の下で寝ていたのが半次郎。その半次郎の頭に粉がパラパラとふりかかる。イモリの黒焼きは寝小便に効くだけでなく、惚れ薬の効き目もある。目覚めた半次郎が最初に顔を合わせたのが、彼に恋している弟子の寿。半次郎は寿に求愛を始める。一方ミー坊の弟は、相変わらずせっせせっせと自分のあれに粉を振りかけている。そこに芳次郎や、彼らの父親であるトンガリ吉楽とニギリヤ文吉がやってきて、彼らの頭にもその粉がふりかかり、芳次郎は半次郎と同じように寿に求愛し、文吉は吉楽に、吉楽はミー坊に恋いこがれるという一騒動。その原因が木の上にいる自分の弟のせいだと気付いたミー坊は、その粉を洗い流すように言うと、弟は木の上から小便をふりかける。半次郎だけはそのまま、寿にほれたままであとはめでたく無事に収まる。このオチは「ションベン」にある。このオチの面白みが分かるように、噺の枕で道具屋の小話を聴かせてくれているので、思わず笑える。シェイクスピア落語も東京グローブ座があってはならではのシリーズであったが、グローブ座の休館の後も、「これは刺激になるから、続けていくでしょう」という志ん輔の心意気は嬉しい。

 

067 14日(日) 劇団青年座162回公演 『美しきものの伝説』

作/宮本研、演出/鈴木完一郎、装置/柴田秀子
出演/山野史人、檀臣幸、山賀教弘、原口優子、川先宏美、津田真澄、他

紀伊國屋サザンシアター

<感激度>☆☆☆☆ 

ずっしりとこたえるよう重厚な感動で疲れる。しばらくは何も語りたくない疲れを背負って劇場を後にした。チラシのキャッチコピー<100mを9.81秒で駆け抜けた伝説の男と女の><20世紀初頭、大正時代。ベル・エポックと言われたのどかな時代。わずか15年で幕を閉じたその時間は激動の昭和へのプロローグだった>ということばで象徴される反語的アイロニーの<美しきもの>への郷愁を感じさせる舞台。時代の閉塞感の中にあって、よきものへの楽天的憧憬によって明るさを感じさせるのは、売文社の社主四分六こと堺利彦(山野史人)。そして奔放な恋愛と生き方であっけらかんとした野枝(川先宏美)の演技が印象に残る。ルパシカ・小山内薫(山賀教弘)の芸術至上的演劇論対、先生・島村抱月(山路和弘)の芸術二元論、クロポトキン・大杉栄(檀臣幸)のアナーキズム対四分六・堺利彦の社会主義は一見図式的で漫画チックでもあるが、それだけに純粋さも感じる。一時代の情熱は、今や青春の思い出=伝説としてのみ美しく記憶の中に輝く。青年座の若々しい力量を感じさせる舞台であった。

 

068 20日(土) 加藤健一事務所・第51回公演 『劇評』

作/アイラ・レヴィン、訳/小田島恒志、演出/久世龍之介、美術/石井強司

出演/加藤健一、池田成志、日下由美、古坂るみ子、関弘子、他

下北沢・本多劇場

<感激度>☆☆☆☆ 
蜷川幸雄の対談集『反逆とクリエイション』(2002年2月、紀伊國屋書店刊)の中の、市川猿之助との対談で蜷川がこのようなことを言っている。「ぼくらが一本の作品に費やすエネルギーや真剣さと同じだけのエネルギーで、批評家もまた一本の芝居を観てほしい。そうすれば月に50本も見られないはずだと思う」。このことは確かだと思う。本当に感動した芝居の後では、心身共に疲れ果ててしばらく何も語る気がしないことがある。

で、この『劇評』を観て非常に興味深かったのは、主人公である劇評家パーカー・バランタイン(加藤健一)が息子のジョン(海宝直樹)から、劇評に使用するのにしゃれた文句を買い取っている場面である。そしてパーカーはその劇評の文句を、讃辞用の白い箱と、酷評の黒い箱に分けて、観劇に出かけるときにその両方の箱から劇評の文句を抜き取っていくのである。これだと即興的に劇評のしゃれた台詞がすぐ出てくるわけである。劇評家のだれもがそうしているわけではないのであろうが、核心を突いているような気がする。そのパーカーの妻アンジェラ(日下由美)が脚本を書くと言いだしたのである。その脚本がブロードウエイで上演されるまでに紆余曲折があり、結果的にはパーカーとアンジェラの結婚生活の危機を招くことになる。それはパーカーが妻の書いた脚本の上演の劇評を書くことによって引き起こされる。アンジェラとしては自分の作品を認めない夫には何としても劇評を書いて欲しくない。そこでその邪魔立てを企て、一時的には成功したかに見える。

息子と義母を妻の作品の観劇に送り出した後、劇評家としての良心を捨てたパーカーは絶望状態に陥り、前妻で女優のキャサリン(古坂るみ子)を家に呼んで酒を飲む。パーカーはこのキャサリンのために六度、自分の意と反する劇評を書いたことがあり、その良心の咎めから、本当のことを書いてキャサリンを怒らせて離婚した経緯がある。パーカーの劇評家としての良心が目覚め、酔っぱらった状態で劇場に出かけようとする。開演10前なのでとても間に合わないとキャサリンが引き留めようとするが、パーカーは開演時間通りはじまった例しはない、まだ20分あると言って止めるキャサリンを振り切る。この開演時間通り始まった例しがないというのも面白い風刺である。

パーカーの劇評は痛烈なものだった。だが息子のジョンは、その劇評の文句は、どちらの箱にも入っていない今までにないパーカー自身の新しい声だと驚嘆する。16年間の劇評生活の中で、パーカーは自分の生の声での批評を取り返し、妻との危機も結果的には乗り越えることができる。

演劇界と劇評(家)の裏口を覗き見させるという苦味をたっぷり利かせながらも、加藤健一の持ち味を生かした、後味さわやかな舞台である。

原作者のアイラ・レヴィンは1929年、アメリカ・ニューヨークの生まれで、デビュー作のサスペンス・スリラー小説「死の接吻」で1953年探偵作家クラブ最優秀長編賞を受賞。第2作の「ローズマリーの赤ちゃん」は映画化もされ大ヒット作となる。

 

069 21日(日) 子供のためのシェイクスピア・シリーズ第8回 『ヴェニスの商人』

作/W・シェイクスピア、訳/小田島雄志、構成/田中浩司、演出/山崎清介
出演/伊沢磨紀、木村多江、間宮啓行、彩乃木崇之、戸谷昌宏、明楽哲典、山崎清介、
原田砂穂、山谷典子

東京グローブ座

 

070 22日(月) 俳優座劇場プロデユース No.59 『ファニー・マネー』

作/レイ・クーニー、訳/小田島恒志、演出/菊地准、美術/升平香織
出演/清水明彦、井上薫、宮本充、香月弥生、児玉泰次、田中正彦、里村孝雄、緒方愛香

俳優座劇場

<感激度=笑度>☆☆☆

'Funny Money'の'funny'は、辞書で引くと、「おかしな、こっけいな」という意味と、「疑わしい、あやしい」という意味がある。このドラマ=笑劇を観ていると、その両義性を意識する。

ヘンリー(清水明彦)とジーン(井上薫)はロンドンの中流住宅地に住むごく平凡な夫婦。今日は夫ヘンリーの誕生日。ジーンは誕生パーテイーの準備をしてヘンリーの帰りを待っているが、いつまで待っても帰ってこない。やっと帰ってきたヘンリーは、帰宅早々に「外国に高飛びする」と言い出す。地下鉄で取り違えられたアタッシュケース。その中に入っていたのがなんと73万5千ポンドの現金。その現金の詰め具合から見るとどうも「裏の世界」のもののようである。その突然降って沸いたような「あやしげな」現金をめぐって、こっけいな騒動が引き起こされる。

このドラマの訳者である小田島恒志は、この「ドタバタ騒動」を「ドタバタ劇」でなく、もがけばもがくほど窮地に陥っていく「ジタバタ劇」だと称しているが、言い得て妙である。

また、作者レイ・クーニーは自分の劇を「笑劇」と称しているが、笑劇は喜劇よりも悲劇と共通点があると言う―

<喜劇は普通の状況におかれたおかしな人物を描く。それに対して、笑劇(または悲劇)は、おかしな状況におかれた普通の人物を描く。そして役者が真面目に演じれば演じるほど観客の反応が大きくなるという点も、笑劇と悲劇はよく似ている>(『ファニー・マネー』のプログラム、小田島恒志寄稿文「レイ・クーニーの笑劇の衝撃」より引用)

タクシーの運転手ビルを演じる里村孝雄が、とぼけた感じの生真面目さを感じさせて、とても印象的であった。

 

071 28日(日) 燐光群 『CVR チャーリー・ビクター・ロミオ』

創案/ロバート・バーガー、パトリック・ダニエルズ、アービン・グレゴリー、翻訳/小澤緑、
日本語版台本/坂手洋二、演出/坂手洋二、ロバート・バーガー、パトリック・ダニエルズ、
アービン・グレゴリー
出演/中山マリ、川中健次郎、猪熊恒和、千田ひろし、大西孝洋、下総源太郎、他


下北沢、ザ・スズナリ

<感激度=衝撃度>☆☆☆

タイトルにあるチャーリー・ビクター・ロミオとは、事故現場から真っ先に回収されるブラック・ボックスのコックピット・ボイス・レコーダー(Cockpit Voice Recorder)のこと、略してCVR。CVRのつづりをアルファベットの音で説明すると、C for Charlie, V for Victor, R for Romeo (チャーリーのC、ビクターのV、ロミオのR)となる。

このドラマは、実際に起こった6件の航空機事故を、そのCVRを再現する形で、コックピットの乗組員たちが直面した事故に対応する状況を描き出す演劇ドキュメンタリーである。事故発生直後の暗転とそれに続く衝撃音がリアルなショックを感じさせる。それだけに非常に緊張感を感じさせるドラマである。特に1985年8月に起きた日本航空123便の御巣鷹山での墜落事故を扱った場面は、我々にとっても生々しい記憶を呼び起こす。

この劇を観たら、飛行機に乗るのがいやになってくる。怖いことには、28に2件の航空機事故が発生。一つはウクライナで、空軍基地の演技飛行中のロシア戦闘機が墜落して、観客83人が巻き添えで死亡。もう一つは、モスクワ発サンクトペテルブルク行きのイリューション86型旅客機が、モスクワ郊外で墜落し、乗員14人が死亡。この劇を見た日に、偶然の一致の事故に怖い思いがする。

このドラマは、事故に遭遇する6組の乗組員が、事故機ごとにコックピットを入れ替わるだけで、ほかには何も動きがないシンプルな舞台である。坂出洋二は彼の意思で、この劇の日本での上演をオリジナルメンバーとの共同演出によって作り出した。彼はこの劇を現代の『Moby Dick (白鯨)』と呼ぶ。飛行機は空に浮かぶ「鯨」の表象として、坂出洋二の前に立ちはだかったようである。

 

072 31日(水)円・こどもステージ、二つの朗読劇 『私の金子みすず』、『あらしのよるに』

構成・演出/小森美巳、音楽/小森昭宏
出演/『私の金子みすず』 高橋理恵子(金子みすず)、吉見一豊(弟・正祐)、
『あらしのよるに』金田明夫

演奏/林真理花、瑞木健太郎、小森創介

ステージ円

 

6月の観劇記録
 
052 1日(土) 世田谷パブリックシアター提携公演 『ピッチフォーク・デイズニー』

作/フィリップ・リドリー、訳/小宮山智津子、演出/白井晃、舞台美術/松井るみ
出演/萩原聖人、宝生舞、山本耕史、吉田メタル

三軒茶屋、シアタートラム

<感激度>☆☆ 

ヌメっとした、内蔵の内側を裏返しにしたような、不気味さ。28歳になる双子の兄妹の胎児退行症に擬して現代人の自閉症を局限化した作品。松井るみの舞台美術と高見和義の照明が印象的。

 

053 2日(日) 木山事務所公演 『紙屋悦子の青春』

作/松田正隆、演出/福田善之、美術/石井みつる

出演/水野ゆふ、本田次布、田中雅子、内田龍麿、平田広明

俳優座劇場

<感激度>☆☆☆☆ 
3年前に初演を観ている。静かではあるが、心の内側からしみ入るような感動を受け、涙を抑えられなかった。松田正隆は、ごく日常的な生活の中に、しんみりとした感動を感じさせるのが得意な作家だと思う。ちゃぶ台とお茶漬けがとても似合う作家である。

 

054 8日(土) 地人会第86回公演 『浅草・花岡写真館』

紀伊國屋サザンシアター

<感激度>☆☆☆☆ 

明治から四代続いている浅草の写真館に二人の若い男女、広樹(高橋和也)と亜也(東幸枝)が写真を撮ってくれとやってくる。その日は(あるいはその日も)朝から全く客もなく、当主の花岡昌志(木場勝己)は、その日限りで店仕舞いしようと決心した矢先のことである。そこへひょっこりと70代の男、白井誠一郎(鈴木慎平)が迷い込んでくる。彼は写真など撮ってもらうつもりは全くないのだが、昌志の妻友美(竹下景子)は、必死でお客として引き留める。この3人に写真機のレンズを通して死の影をみて昌志は写真を撮るのをやめるのだが、その説明として花岡写真館初代と3代目のエピソードが挿入される。結末では、若い男女と老人の「死の影」(自殺)の原因が明らかにされる。広樹は一番の親友のフィアンセを奪ったことの後悔で苦しみ、白井は逆に友人に恋人を奪われた苦しみを抱いていた。そして白井はそこで初めて覚ったと、心の鬱屈が晴らされた思いを吐露する。奪われた自分も苦しんだが、奪った相手も広樹のように死ぬほど苦しんでいたのだと思うと、胸のつかえがおりたと広樹に感謝する気持を抱く。漱石の「こころ」と一連の小説を彷彿させる。山田太一の生きていくひとの弱さへのいたわり、やさしさを感じさせる作品である。

 

055 9日(日) 2002年日韓国民交流記念事業 『その河をこえて、五月

作/平田オリザ・金明和、演出/李炳T・平田オリザ、美術/島次郎
出演/三田和代、佐藤誓、小須田康人、白星姫、李南熙、他

新国立劇場・小劇場

<感激度>☆☆☆☆ 

日韓共同による執筆・演出作品。言葉の障壁を超えて、感動。

 

056 10日(月) アカデミック・シェイクスピア・カンパニー 第24回公演 『十二夜』

作/W.シェイクスピア、訳/小田島雄志、演出/彩乃木崇之
出演/菊地一浩、鈴木麻矢、那智ゆかり、他

銀座みゆき館劇場

<感激度>☆☆☆

 

057 15日(土) 俳優座第263回公演 『舞姫―鴎外の恋―』

原作/荻原雄一、作/佐藤五月、台本・演出/佐竹修、美術/石井みつる
出演/加藤剛、香野百合子、立花一男、阿部百合子、小笠原良知、安藤みどり、
加藤大治郎(客演)、他

日本橋三越劇場

<感激度>☆☆☆ 

「アラユル外形的取扱ヒヲ辞ス、森林太郎トシテ死セントス」という鴎外の遺言は、エリーゼとの結婚を、家のため、国のため、諦めざるを得なかった鴎外の抵抗を感じさせる。林太郎が日本にまで追ってきたエリーゼに、「この世は舞台だ。この舞台の上で、役者が役を演じるように、僕たちはそれぞれの役の人物になりきる」といって、別々の人生を生きることを誓わせる。「人の命はいつかは終る。終ったらもう自由だ。永遠の自由だ」「やっと二人になれるのね。やっと二人だけの世界へ行けるのね。死ぬのが待ち遠しいわ」という二人の会話は、鴎外の遺書に、硬く、強く、意思表示される。「墓ハ森林太郎墓ノ外一字モホル可カラス」。鴎外は死んで初めて、家からも、国からも解放される。そして初恋のエリーゼと結ばれることができる。加藤剛の森林太郎を相手に、エリーゼを演じた安藤みどりと、芥川龍之介を演じた客演の加藤剛の息子、加藤大治郎の印象が新鮮だった。

 

058 16日(日) 演劇集団円公演 『エレクトル』

作/ジャン・ジロドウ、訳/鬼頭哲人、演出/前川錬一、美術/丸太道夫
出演/平木久子、野村昇史、井上倫宏、唐沢潤、上杉陽一、高橋理恵子、他

紀伊國屋ホール

059 18日(火) テアトル・エコー第115回公演 『ら抜きの殺意』

作・演出/永井愛、美術/島次郎
出演/安原義人、熊倉一雄、落合弘治、雨蘭咲木子、吉川亜紀子、山下啓介、他

俳優座劇場

<感激度>☆☆☆☆ 

初演が1997年という。その後5年間全国巡演を続け、321回のステージを重ね、今回発信地である東京での上演をもって最後の公演を飾る。作者・演出家である永井愛の挨拶文にもあるように、この5年間だけでも言葉をめぐる状況は激しく変化している。「ら抜き言葉」も今では不自然さは感じられない、というより常態化してしまって違和感を抱かせなくなっている。そのような状況においてなおこの劇の鮮度が落ちていないのは、この作品が単に言葉の流行的側面にのみとらわれたものではなく、本質的な問題提起を含んでいるからであろう。そして何よりもこの作品が、ドラマとしての面白さであるサスペンスや笑いとペイソス、そして最後の劇的どんでん返しでクライマックスを迎えるという劇的要素に満ちているからでもある。この劇で考えさせられたのは、最近の言葉遣いが心の本音を伝えることが希薄になってきているという状況である。それはまた語彙や表現力の貧弱化にもつながっている事実と結合する。そのへんの状況を、通信販売会社の社員伴篤男(落合弘治)の恋人、遠部その子(雨蘭咲木子)の相手に対する言葉の使い分けの演技でおもしろおかしく表現している。どんでん返しの極めつけは、通信販売の枕を返品にきた日系三世を称する青年日下勉(後藤敦)が東北弁訛りを隠すための詐称だったことがばれた後、実は伴も同じ山形出身で東北訛りを隠していたことを白状する。日下が片言の日本語を使うところで、この東北訛りが隠されているというにくい仕掛けをしている。「常識」を「ゾースク」と発音するところがそれである。これは後になっての種明かしの伏線となっている。語彙や表現力の貧弱化だけでなく、言葉に対するコンプレックスや無知、無神経さなどいろんな意味で考えさせられる作品である。

060 21日(金) <パパ・タラフマラ>2002年日韓国民交流記念事業 『Birds on Board』

作・演出・振付・小池博史、美術/田中真聡、小池博史、音楽/キム・テークン、
中川俊郎、澁谷慶一朗
出演/小川摩利子、松島誠、白井さち子、オ・マンソ、イェ・ヒューソン、他

世田谷パブリックシアター

<感激度>☆☆☆

061 22日(土) RSC公演 The Merchant of Venice << クリック

演出/ラブデイ・イングラム、美術/コリン・ファルコナー
出演/イアン・バーソロミュー(シャイロック)、イアン・ゲルダー(アントーニオ)、ハーマイオニー・ガリフォード(ポーシャ)、マイケル・ガーデイナー(ヴェニスの公爵/アラゴンの大公)、ポール・ヒッキー(バッサーニオ)、他

東京グローブ座

<感激度>☆☆☆☆☆

062 23日(日) 宇宙堂・第2回公演 『詩のしの詩』

作・演出/渡辺えり子、美術/加藤ちか
出演/片桐はいり、寺島しのぶ、渡辺えり子、深沢敦、篠井英介、他

下北沢・本多劇場

<感激度>☆☆☆ 

063 30日(日) チェーホフ・魂の仕事 Vol.5 『櫻の園』

作/アントン・チェーホフ、潤色/堀越真(神西清訳による)、演出/栗山民也、
美術/堀尾幸男
出演/森光子、津嘉山正種、段田安則、キムラ緑子、三谷昇、佐藤慶、銀粉蝶、
石田圭祐、花王おさむ、他

新国立劇場

<感激度>☆☆☆ 

ずっしりと、重厚な感動。チェーホフの『櫻の園』を、明治44年の信州を舞台に移しての翻案劇だが、登場人物の名前を別にすれば、原作に忠実な展開。森光子の茅野麗子うららこ(ラネーフスカヤ)は、あっけらかんとした退廃的感じがよく似合っていたし、舞台の華として映える女優だと感心。津賀山正種が演じる溝呂木栄吉(ロパーヒン)の台詞も圧倒的な存在感を感じさせる。どの役者も存在感を感じさせるすばらしい演技で楽しませてくれた。「チェーホフ・魂の仕事」を飾るのにふさわしい舞台であった。しかしながら、自分としてはいつものことながら、個々の演技の素晴らしさとを別にして、チェーホフの登場人物に全体的に退屈さを感じた。この退屈さはどの作品にも共通してよく感じることだが。

5月の観劇記録
 
045 3日(金) 『マクベスの妻と呼ばれた女・2002』

作/篠原久美子、演出・美術/山本健翔
出演/碧川るり子、菊地一浩、藤あゆみ、小松エミ、千うらら、ささいけい子、他

シアターX

<感激度>☆☆ 

マクベスの登場しない「マクベス」。ダンカン王殺害の真犯人を追求し推理する女達(女中達)。マクベス夫人に名前がないのは、<個=自分>がないからだと、女中頭のヘカテイは結論する。女達を中心にした、意欲的で、斬新な感覚の「マクベス」劇。

 

046 4日(土) 加藤健一事務所公演 vol.50 『煙が目にしみる』

原案/鈴置洋孝、脚本/堤泰之、演出/久世龍之介
出演/加藤健一、坂口芳貞(文学座)、岸野幸正(岸野組)、松本きょうじ、岡田達也(演劇集団キャラメルボックス)、有馬自由(扉座)、長江英和、一柳みる(昴)、白木美貴子、加藤忍、平田敦子、橋本奈穂子

下北沢、本多劇場

<感激度>☆☆☆☆☆ 

笑いと、涙と、感動と。心を揺さぶる劇を観ると、心が元気づけられる。ただひたすらに満足感!もし、人の死に臨んで、その死者と会話を交わせることができたなら、どんなに素晴らしいことだろうかと思う反面、もしそのことが当たり前のことになったら、それはもう感激でも感動でもなくなるだろう。それが叶わぬ夢だからこそ、この劇も生きてくる。しかし、この劇のおばあさん(加藤健一)のように、普段はボケ老人であるのに、幽霊との会話ができるということも、ありえそうなこととして思えてくる。加藤健一のいかついおばさん役が愛嬌!でもあった。

 

047 11日(土) 劇団京 第32回公演 『桜の園』

作/A・チェーホフ、翻訳/中本信幸、演出/レオニード・アニシモフ

東京芸術劇場・小ホール1

<感激度>

残念ながら、期待度に反比例。演出者のレオニード・アシニモフには、ロシア功労芸術家、国際スタニスフラスキー・アカデミー創立者、日本文化芸術祭受賞者というものものしい肩書きが冠せられているが、正直に言って、その演出の感性を疑わざるを得ない。今回この『桜の園』を観て、まず劇的品格のなさに失望させられた。台詞が心に響いてこない。翻訳の意図で、チェーホフの言葉の使い分けとして農民階級出身で成金富豪のロパーヒン、小間使いドウニャーシャらの農民出の言葉を意識して彼らに方言(茨城弁?)を喋らせるのはいいとしても、肝心のラネースカヤやガーエフの台詞が耳障りで劇的品性に欠ける。特にラネースカヤの台詞は、思わぬところで急にヒステリックなものとなって違和感があった。僕にとってはちっとも面白くないところで、若い(学生風の)観客達が大いに笑っているところをみれば、これは感性の違いを意識せざるを得ない。

アシニモフは、8月末から9月中旬に、劇団銅鑼の30周年記念公演においてチェーホフの『三人姉妹』を演出することになっているが、今回の劇を観たかぎりでは、次を観たいという気にはなれない。

劇団京は、チラシからすると、1976年故吉沢京夫が、スタニスラフスキー・システムの思想と美学を目標として「芸術の名に値する演劇」を志し、吉沢演劇塾を開設し、その活動を母体に1988年、劇団京を設立したとある。今回のアニシモフの演出は、病に倒れた吉沢の遺志を受けて実現されたものである。

 

048 12日(日)ひょうご舞台芸術第25回公演『ロンサム・ウエスト―神の忘れたまいし土地―』

作/マーテイン・マクドナー、翻訳/鴇澤麻由子、演出/鵜山仁、美術/島次郎
出演/辻萬長、磯部勉、小島聖、横堀悦夫

世田谷パブリックシアター

<感激度>☆☆☆☆ 

この劇は辻萬長が出演するというだけで予約した。内容もさることながら、期待に外れない密度の高い演技であった。特に、コールマンとヴァレンの兄弟を演じる辻萬長と磯部勉の後半、ウエルシュ神父の遺志に従って、二人の和解と告白の応酬、果てはせっかくの兄弟和解も再び崩壊し、殺し合い寸前までに至る二人の迫真の演技はみものであった。緊迫感のなかにもユーモアを含ませ、間に、15分の休憩をはさむ2時間30分の上演時間があっという間に過ぎた。

 

049 25日(土)オペラシアターこんにゃく座公演 オペラ『イヌの仇討あるいは吉良の決断』

原作/井上ひさし、台本・作曲/林光、演出/米倉斉加年
出演/大石哲史、相原智枝、岡原真弓、佐藤敏之、他

世田谷パブリックシアター

<感激度>☆☆ 

第1幕目は、井上ひさしの台詞劇としての台詞と、オペラとしての台詞の位相差になじめず、退屈さを感じた。しかし、第2幕で吉良上野介(大石哲史)が大石内蔵助の心底が見えてきたというあたりは、赤穂浪士仇討の井上ひさし解釈の構造(大石内蔵助の仇討は、吉良上野介という個人的レベルの意趣返しではなく、徳川幕府という体制批判としてのテロリズムである、ということ)をはっきりと感じさせて納得させるだけのものがあり、結末に至っては思わず目頭が熱くなった。初めの不満も終わりよければすべて良し、として星二つ。演出の米倉斉加年は、オペラ初演出。1月のシアタームーブメント・仙台公演の『イヌの仇討』に続いて、井上ひさしを違った形で二度楽しんだ。

 

050 26日(日) シリーズ・チェーホフ・魂の仕事 vol.4 『ワーニャおじさん』

作/アントン・チェーホフ、翻訳/小野理子、演出/栗山民也、美術/堀尾幸男
出演/角野卓造、鈴木瑞穂、片平なぎさ、内田稔、中村たつ、他

新国立劇場・小劇場

<感激度>☆☆ 

倦怠と物憂さを誘う脳漿を震わすような安藤聡のギター演奏で、舞台は静かに始まる。中村たつの乳母マリーナが緩慢な足取りで、ゆっくりと舞台下手の奥から出て来る。舞台全体の流れは、この緩慢さとけだるい倦怠が終始支配する。チェーホフの作品は、演出によって面白くもなるが、反面期待に反することも大いにある。この栗山民也演出の『ワーニャおじさん』ではキャステイングの期待が大いに働いた分、面白さは残念ながら比例しなかった。角野卓造のワーニャ、鈴木瑞穂の教授セレブリャーコフ、乳母のマリーナ 中村たつ、没落地主のテレーギン 内田稔、教授の若い妻エレーナは片平なぎさ、ワーニャの母ヴォイニーツカヤ 東恵美子、医師アーストロフに男優ばかりの6人の集団「カクスコ」(本年1月に解散)の元主宰者中村育二、ソーニャは演劇集団「キャラメルボックス」の小川江利子、と異色の個性派メンバーを集めて楽しみでわくわくするようなキャステイング。それぞれが個性的演技で堪能させるが、個性が勝ってそれが互いに相殺され、全体としての求心力を欠いていたように思われる。全体の気分としては、片平なぎさが演じるエレーナの倦怠感がそのまま劇全体を支配しているような、けだるい重苦しさを漂わせている劇の構成であった。

 

051 27日(月) 文学座創立65周年記念公演 『月夜の道化師』

作/渡辺えり子、演出/鵜山仁、装置/石井強司

出演/金内喜久夫、神保共子、外山誠二、南一恵、清水明彦、山本道子、他

紀伊國屋ホール

<感激度>☆☆☆☆

 

4月の観劇記録
 
033 1日(月) 日藝アートプロジェクト[NAP]公演 『夏の夜の夢』

作/W・シェイクスピア、訳/松岡和子、構成・演出・美術/串田和美、
音楽/朝比奈尚行
出演/清水紘治、室生舞、串田和美、他

日本大学芸術学部江古田校舎内・特設劇場

<感激度>☆☆☆ 

串田和美のパックが、時間を経ると共に印象が深まっていく(観劇後10日目の感想)。その時は、そんなでもなかった印象が、このように残像を深めるのは興味深いことだ。

 

034 6日(土) 木山事務所公演 『慶応某年ちぎれ雲』

作・演出/福田善之、作曲・音楽監督/古賀義弥、美術/石井みつる
出演/宮本充、金星女、旺なつき、田中雅子、菊池章友、林次樹、須田真魚、内田龍麿、他

俳優座劇場

<感激度>☆☆☆☆

『真田風雲録』から40年余り、今また、清水次郎長の史実とフイクションを織りなして、政治的思想を、ミュージカルにのせて紡ぎ出す。その思想性は、『真田風雲録』同様に<体制>ということについて考えさせられる。反体制の真田幸村とその一党に対応するのはゴロ長(清水次郎長)一家、そしてアウトローの存在が佐助と石、それを慕う女がお霧とお蝶という対応構図をなしている。真田幸村は反体制のままで終えるが、ゴロ長は体制内に取り組まれる。この二つの作品を並べて考えるとき、60年安保の時代と、政治経済に閉塞感のある現代との時代の相違を感じさせられずにはいられない。

 

035 7日(日) シリーズ/チェーホフ・魂の仕事
   vol.3『「三人姉妹」を追放されしトウーゼンバフの物語』

作・演出/岩松了、美術/島次郎
出演/戸田昌宏、戸田菜穂、荻野目慶子、李丹、矢代朝子、高橋珠美子、有福正志、
朝比奈尚行、岩松了、他

新国立劇場・小劇場

<感激度>☆☆☆☆ 

ミステリアスな展開に引き込まれていく。トウーゼンバフは、テネシー・ウイリアムズの空想が生み出した幻想の人物のようでもあり、朝比奈尚行と有福正志が扮する二人の浮浪者が、『ゴドーを待ちながら』のウラジミールとエストラゴンのように見える。テネシー・ウイリアムズという実在の劇作家を演じる劇作家の岩松了の演技には生々しいリアリテイがある。

 

036 8日(月) 近代能楽集より 『葵上・卒塔婆小町』

作/三島由紀夫、演出・美術・衣裳・音楽・振付/美輪明宏
出演/美輪明宏、宅麻伸、他

澁谷・パルコ劇場

<感激度>☆☆☆ 
『葵上』の美術は、ダリの絵のモチーフ。歪んだ時計。引き出しのついたミロのヴィーナス像。扉。演出から、美術、衣裳、音楽、振付、主演と美輪明宏の妖艶な美学の世界を満喫させる。『卒塔婆小町』では美輪明宏の百歳の老婆から若い娘への変貌がみものである。

 

037 13日(土) 劇団AUN第4回公演 『リチャード三世』

作/W・シェイクスピア、訳/小田島雄志、演出/栗田芳宏
出演/吉田鋼太郎(リチャード三世)、栗田芳宏(エドワード四世)、松木良方(クラレンス公ジョージ/他)、間宮啓行(バッキンガム公)、大塚明夫(ヘーステイング卿)、星和利(スタンリー卿)、他

品川、六行会ホール

<感激度>☆☆ 

カオスとしてのワイ雑さが強い印象として残るが、感動としては今一歩、期待からは外れた。

 

038 14日(日) 夜想会第27回公演 『ジュリアス・シーザー』

作/W・シェイクスピア、訳/小田島雄志、演出/野伏翔、美術/キマニ晃二
出演/原田大二郎(ジュリアス・シーザー)、上杉祥三(アントニー)、宮内敦士(ブルータス)、水島文夫(キャスカ)、姫野恵二(キャシアス)、石山雄大(占い師)、他

新宿、紀伊國屋ホール

<感激度>☆☆☆☆☆ シェイクスピアで久しぶりに、震えるような感動を感じた。ブルータスの高潔な死に、感動の涙が流れた。

 

039 18日(木) 笛田宇一郎事務所公演 21世紀演劇 vol.3 『ハムレット/臨界点』

作/篠原久美子、演出・美術/山本健翔
出演/碧川るり子、菊地一浩、藤あゆみ、小松エミ、千うらら、ささいけい子、他

シアターX

<感激度>☆☆ 

マクベスの登場しない「マクベス」。ダンカン王殺害の真犯人を追求し推理する女達(女中達)。マクベス夫人に名前がないのは、<個=自分>がないからだと、女中頭のヘカテイは結論する。女達を中心にした、意欲的で、斬新な感覚の「マクベス」劇。

 

040 19日(金) アクターズスタジオ櫻会 第11回公演 喜劇『おまえにも罪がある』

作・演出/沢田次郎、出演/小山陽一、高田強、貝塚秀人、三浦知佳、枝村みどり

中野新橋、櫻会スタジオ

<感激度>☆☆☆ 

ある富豪の邸宅に二人の男が訪ねる。一人の男1(小山陽一)は、庭先から闖入してくる。男は部屋に入るのを何度も躊躇するが、そのうちに別の男2(高田強)がその部屋に入ってきて、応接の椅子にどっかりと座る。何の用件で、誰に会いに来たのかもはっきりしないまま、男二人は会話を始める。結局二人の共通点は、妻に逃げられた男ということと、会社をリストラされたことであることが分かってくる。そこへ、この邸の息子・男3(貝塚秀人)がその話に加わってくる。男3も会社をリストラされているのだが、自分を理想の経営者だと信じ込んでおり、父親の会社を合理化し再建する夢想を抱いている。男1,2の訪問の目的は最後まで何であったのかは判然としないまま終わるが、この3人に共通した繋がりともいうべきものは、ソウカという会社の名前である。男1,2はそのソウカ産業をリストラされたのであるが、男3の父親の会社がソウカ産業であると聞いて、首を絞めて殺そうといきり立つ。ところが、この3人のソウカ産業はすべて字違いであることがすぐに分かる。男1は無能な営業マンで、それが故にリストラされ、男2は優秀な組合の書記長であったが、会社の罠(?)で女子社員に手を出して、それが原因となってリストラされる。弱い者はいつも損をするが、それは「お前にも罪がある」という悲しい現代の風刺劇でもある。小山陽一が熱演。高田強も謎の人物を好演、貝塚秀人も嫌味十分な役をうまく演じている。

 

041 21日(日) ステージ円オープニング公演 No.3 『栗原課長の秘密基地』

作/土屋理敬、演出/松井範雄、演劇集団円公演
出演/上杉陽一、渡辺穣、山口眞司、佐藤銀平、佐々木睦、大竹周作、藤貴子、入江純、
込山順子、福井裕子、馬渡亜樹

ステージ円

<感激度>☆☆☆☆☆ 

一口に言って、面白い。どんでん返しの繰り返しで、笑いとペイソスに引き込まれる。世の中欺瞞に満ちてはいるが、自分の抱える欺瞞を吐き出した後には、心の救済を感じる。そんな作品である。児童文学の佳作作品の作者がAV女優ということで、あわてて受賞式の写真撮影に顔が写らないように苦心するかと思えば、大賞作品の盗作疑惑騒動が持ち上がる。果ては大賞取り消しとなり、伝統あるその児童文学賞の存続を図る名目と、栗原課長自身の地位保全のために、大賞受賞者のでっち上げを図る。選考委員の読者代表の主婦は、そんな醜い舞台裏に憤りを感じる。しかし、みんな自分の中に、大なり小なり嘘を抱えているものなのだ。特別功労賞を受賞する老齢の児童作家の役柄を演じる佐々木睦の台詞が心を救う。

042 27日(土) 俳優座第262回公演 『八月に乾杯!』

作/A.アルブ−ゾフ、訳・演出/袋正、美術/嵯峨義衛
出演/岩崎加根子、小笠原良知

俳優座稽古場

<感激度>☆☆☆☆ 

老齢の男女が交わす大人の台詞劇。保養診療所にやってきた患者リーダと、そこの医師ロジオンとの最初の出会いの会話は全くかみ合わない。しかし、いつしか二人はお互いを語り合うようになり、親しくなっていく。二人とも戦争で一番大事な人を失ったという心の傷を抱えている。リーダは最愛の息子を、ロジオンは愛する妻を。その失った大切なものを見いだすために生きてきたような気がするというリーダの台詞。しんみりと、そして、笑いと、安堵感を感じる大人の劇。岩崎加根子と小笠原良知の二人が踊るチャールストンがとてもチャーミング。この劇の原題は『古風な喜劇』ということらしい。その名にふさわしい劇である。

043 28日(日) 劇団銅鑼創立30周年記念公演 No.30 『はちまん』

原作/内田康夫、脚色・演出/平石耕一、美術/深川絵美
出演/館野元彦、菊地佐玖子、飯沼慧(文学座)、本山可久子(文学座)、佐藤文夫、
千田隼雄、村岡章、山田昭一、青山恵子、栗木純、他

紀伊國屋サザンシアター

<感激度>☆☆☆ 

内田康夫の推理小説を劇化。スケールの大きな広がりをうまく纏め上げた佳作。推理小説のサスペンスを舞台で堪能。

044 30日(火) スカイスケープ主催 『フォーテインブラス』

作/リー・ブレッシング、翻訳・演出/青井陽治、衣裳/朝日真次郎、美術監修/朝倉摂、
美術/淡路公美子
出演/佐野瑞樹(フォーテインブラス)、堀内敬子(オフイーリア)、増沢望(ホレイショー)、
児玉信夫(オズリック)、沼田芳孝(ハムレット)、近藤洋介(ポローニアス)、
新井康宏(クローデイアス)、前田美波里(ガートルード)、他

ル テアトル銀座

<感激度>

期待に反して、感動を感じることがなかったのは残念

3月の観劇記録
 
021 2日(土) 劇団FUGS!(フグス)第3回公演 『夏の夜の夢』

原作/W・シェイクスピア、脚本・演出/高宗謙三

中野・劇場MOMO

<観劇メモ>劇団代表の高宗謙三が挨拶文口上に、「今の時代、生きてて暗いからせめて芝居を見て明るい気分に」ということで、この『夏の夜の夢』をやる、というのは建て前で、「ホントは自分がボトムをやりたくてたまらなかったから」という。そして小田島雄志の訳をこきおろして「俺がN・Yに10年居た時の語学力で俺流に訳したシェイクスピアは最高!」と自賛している。だが、その出来栄えは、正直な所、がっかりさせられた。特にひどいのは、オーベロンの役が、演技を投げ出しているとしか言いようのないいい加減な態度であったし、パックの演技もしまりがなくだらしがないものだった。それにボトムも台詞がまずく、演技も全く面白みがなかった。オーベロン役の役者が役を投げ出していたことがはっきりしたのは、最後のフィナーレの全員挨拶にも出なかったし、劇場を出たとき、出入り口の階段の所でふてくされてたばこを吸っていたことからも伺える。何とも後味の悪い不愉快な公演であった。

 

022 2日(土) 地人会第84回公演 『雁の寺』

作/水上勉、演出/木村光一、装置/石井強司
出演/高橋恵子、嵐広也、金内喜久夫、他

紀伊國屋サザンシアター

<感激度>☆☆☆

 

023 3日(日) 無名塾公演 『ウインザーの陽気な女房たち』

訳/小田島雄志、演出/林清人、美術/妹尾河童、音楽/池辺晋一郎
出演・仲代達矢、山本清、山本圭、野崎海太郎、他

池袋・サンシャイン劇場

<感激度>☆☆☆

 

024 9日(土) こまつ座第65回公演 『國語元年』

作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽/宇野誠一郎、美術/石井強司
出演/佐藤B作、たかお鷹、沖恂一郎、剣幸、山本龍二、他

紀伊國屋ホール

<感激度>☆☆☆☆

 

025 10日(日) シリーズ/チェーホフ・魂の仕事 vol.2『くしゃみ』 the Sneeze

作/アントン・チェーホフ、台本/マイケル・フレイン、翻訳/小田島恒志、演出/熊倉一雄、
美術/大田創
出演/麻美れい、いっこく堂、すまけい、熊倉一雄、安原義人、他

新国立劇場・小劇場

<メモ>「ドラマ」「外国もの」「くしゃみ」「熊」「たばこの害悪について」「検察官」「白鳥の歌」「プロポーズ」の8つの小品のオムニバス。

 <感激度>☆☆☆

 

026  11日(月) 人形劇団ひとみ座公演 『ロミオとジュリエット』

作/W.シェイクスピア、脚色・演出/藤川和人、美術/片岡昌
出演/人形劇団ひとみ座

俳優座劇場

 

027 17日(日) 劇団一跡二跳第46回公演 『奇妙旅行』

演出/古城十忍

新宿・シアタートップス

<感激度>☆☆ 

 

028 21日(木) 新宿梁山泊第27回公演 『アリババ』『愛の乞食』

作/唐十郎、演出/金盾進

東中野、芝居砦・満点星

<感激度>☆☆ 

唐十郎の初期作品を2編上演。物語は飛躍の連続だが、いつしか円を描いて還ってくる。荒々しい粗暴のパワーを感じる。

 

029 23日(土) みつわ会第5回公演 『水のおもて』『螢』

作/久保田万太郎、演出/大場正昭、美術/中嶋八郎

品川、六行会ホール

<感激度>☆☆ 

夏の夕立前の空模様を思わせる。見終わってもそこには「解決」がないので、その暗雲は消えないまま、腹の底にたまっているが、一編の短編小説を読んだ印象が残る。

 

030 24日(日) 『身毒丸』

作/寺山修司、岸田理生、演出/蜷川幸雄、美術/小竹信節、衣裳/小峰リリー、
照明/吉井澄雄
出演/白石加代子、藤原竜也、三谷昇、他

澁谷、Bunkamura シアターコクーン

 

031 30日(土) 流山児★事務所公演 『最後から二番目の邪魔者』

作/佃典彦、演出/天野天街、美術/田岡一遠
出演/若杉宏二、流山児祥、他

下北沢、ザ・スズナリ

032 31日(日) 演劇集団円公演 『マルフイ公爵夫人』

作/ジョン・ウエブスター、訳・演出/安西徹雄、美術/幡野寛
出演/草野裕(ボゾラ)、千種郁(マルフィ公爵夫人)、藤田宗久(フェルデイナンド)、
伊藤昌一(枢機卿)、他

ステージ円

2月の観劇記録
 

010 1日(金) 金沢市民芸術村ドラマ工房主催公演 『蜃気楼』

作/林恒宏(鐘下辰男戯曲講座受講生)、ドラマドクター/鐘下辰男、演出/西川信廣、
美術・衣裳/朝倉摂       

三軒茶屋・シアタートラム

<観劇メモ> 金沢市民芸術村の「創造発信事業」が、4年の歳月をかけて結晶した成果がこの作品である。劇作家鐘下辰男の指導の元に、作者林恒宏は本公演まで14回も戯曲直しを積み重ねた苦労の果ての作品である。そして2000年2月からドラマリーデイング、劇団文学座の西川信廣による演技ワークショップ、キャストのオーデイションを経て本年1月23日〜27日まで金沢公演の後、この2月1日〜3日まで、東京公演(シアタートラム)の運びとなった。

舞台は、昭和4年、金沢の日本海に面した大野町本木医院の病院の待合室と病室。日本海の荒波が岩にあたって砕ける音が、心の底をかきたてるように響く。舞台背景は、日本海の荒波の海原を表象するかのように緑青色の波の襞(ひだ)をした形象が、舞台奥から両側面にかけて全面張りめぐらされていて、病院の室内の簡素な情景とのコントラストをなし、波の砕ける音とともにドラマの内面的情念をかきたてる。舞台の病室には、自殺を図って重態の立木良孝が眠らされており、その傍らでは、金沢の海岸に数日前に二度も現れた蜃気楼の新聞記事を読んでいる看護婦の中村富江。

そこへ立木の幼馴染みで親友の中学教師山背遼一がやってくる。ドラマの展開は、その町で一、二を争う人気芸妓すみえと立木との心中未遂事件に興味を抱いて、事の真相を探り出そうとする若い新聞記者、岡田天外の山瀬への執拗な追求から始まる。岡田は自殺の原因が山瀬にあるとみている。山瀬と芸妓すみえは以前深い仲であったが、良家の子女と結婚することになった山瀬にはそれが支障となり、すみえを立木に押しつけた。山瀬は、立木の心中はすみえが強要したと岡田に主張する。ところが岡田は、気の弱い立木はいつでも山瀬の言いなりで、すみえとの心中未遂も山瀬の押しつけで逃れられなくなった末であると推論する。岡田の推論は、兄から自立できなかった自分を立木の気持に重ねているからでもある。岡田の真相追求がサスペンス的に進行する中で、二人の会話の立ち聞きをする3人の若い女性患者がドラマの緊張感のガス抜きをして舞台を和らげる一方、病室に乗り込んできて立木を襲うすみえの父、それを止めようとして山瀬が傷を負うことで新たな緊張が走る。

事件を心配した山瀬の妻が病院にやってきて、今日山瀬が担任している生徒広瀬の家に行って来たと報告する。新聞記者の岡田から、この広瀬にからんで何か事件があったことを臭わせられるのだが、ここで初めて事件について内容を知ることができる。山瀬はその生徒を木の定規でなぐって、運悪く目にあたって片目を失明させたのだが、悪いのは息子の方だとその母親も言ってくれていたと告げる。その山瀬の妻から語られる立木は、岡田のみている立木とは異なり、お金の問題からなにまですべて山瀬に依存しているどうしようもない人物である。この事件の背景がまるで<藪の中>じみてくる。

すみえの妹みよが姉の好きな「浜辺の歌」を歌うのが波の音とともに微かに聞こえてくる。立木の母たきがすみえを襲う。みよは病室のベッドに縛られている立木を紐解く。そこへかけつけた山瀬に立木は、「蜃気楼」が、山瀬から自立しようとする自分を自殺(心中)に誘ったのだと激白した後、舌を噛み切って自殺して果てる。

「蜃気楼」は、カミュの『異邦人』の「太陽」の不条理を感じさせる。

<寸評> ☆☆☆ 

4年の歳月の結晶の成果を十分に、ずっしりと感じさせてくれる。

011 2日(土) トム・プロジェクト・プロデユース 『乙女の祈り』

作・演出/水谷龍二、美術/加藤ちか
出演/片桐はいり、山田花子、光浦靖子

下北沢、本多劇場

<観劇メモ>女3人による喜劇。若い男性のマンションに、女が彼氏との約束の日にやってくる。ところが、どういう手違いか、3人の女性が鉢合わせとなる。最初の女性(光浦靖子)は、次の女性8片桐はいり)がやってくると、その男性の姉だと偽る。最後にやってくるのは、一番若いが、どうみても冴えないタイプ(山田花子)。3人が3人ともその若い男に金を貢いでいるわけだが、お互いどれだけ深い関係にあるのか気になってしようがない。しかし男はいつまで待っても帰ってこない。このドラマの面白さは、何と言ってもこの3人のキャストのキャラクターに負うところが大であり、そこがつけめでもある。

<寸評> ☆☆☆ 三人のキャラクターと熱演に敬意を込めて星三つ。

012 3日(日) 劇団俳優座公演 No.261 『黄金色の夕暮』

作/山田太一、演出/安井武、装置/内山勉

出演/中野誠也、川口敦子、川上夏代、田中壮太郎、他

新宿、紀伊國屋ホール

<観劇メモ> 98年夏、新宿紀伊國屋サザンシアターで初演され、その時以来二度目の観劇。総会屋対策の不正融資にからんで、地検の銀行支店長(中野誠也)宅の家宅捜索という大きな事件を通して、家族の絆の回復という日常性の小さな事件がドラマとなっている。当時の時事的ニュースが話題となっているが、事件の風化は進んでも、ことの本質に変わりがないので、今観ても古さを感じない。正義が必ずしも前途は限らない。そんないろんな問題を提起するだけでなく、親子の関係の断絶、会話の喪失がこの事件を通して回復される。支店長の母八重(川上夏代)の「これからますます悪くなるわよ。でもいいこともあるわ」という言葉が大きな救いである。

<寸評> ☆☆☆☆ 

涙と感動と、ちょっぴり笑いをくれる。演劇を観る悦びをここに感じる。

013 10日(日) シェイクスピア・シアター公演 『ハムレット』

翻訳/小田島雄志、演出/出口典雄
出演/吉田鋼太郎(ハムレット)、吉澤希梨、松木良方(クローデイアス/亡霊)、
杉本政志(ホレイショー)、他

東京グローブ座

<観劇メモ> あーでんの森散歩道 No.191 参照

<寸評> ☆☆☆☆ 1年前の再演だが、演出と舞台を変えて、一段と見応えアップ。

014 11日(月) 木山事務所公演 『はごろも』

作/別役実、演出/末木利文、美術/石井みつる
出演/楠侑子、新村礼子、水野ゆふ、林次樹、高木均、森塚敏、小林のり一、他

俳優座劇場

<観劇メモ> 別役実独特の幻想的不条理劇。「羽衣伝説」を本歌取りして、全く関係ない劇としているのは、これまでの一連の彼の作品に見られる手法。

<寸評> ☆☆☆ 

この劇の雰囲気を余すところなく伝えるベテランの高木均、新村礼子、森塚敏、小林のり一の存在感が飄然としていて、なんともいえないユーモアを漂わせる。

015 15日(金) シェイクスピア・シアター公演 『新ハムレット』

作/太宰治、演出/出口典雄

出演/吉田鋼太郎(クローヂヤス)、吉澤希梨(ガーツルード)、松木良方(ポローニアス)、
杉本政志(ハムレット)

東京グローブ座

<感激度> ☆☆☆ 

 

016 16日(土) 演劇集団 円公演 『オナー』  ステージ円オープニング公演 No.1

作/ジョアンナ・マレースミス、訳/佐和田敬司、演出/村田大
出演/勝部演之、高林由紀子、林真里花、水町レイコ

ステージ円

<感激度> ☆☆☆ 

017 17日(日) 劇団東演 第181回公演 『三文オペラ』

作/B・ブレヒト、翻訳・コーデイネイト/佐藤史郎、音楽/K・ワイル、
演出・美術/V・ベリャコーヴイッチ

出演/山中康司(ピーチャム)、A・ナウモフ(どすのメッキー)、井上薫(ポリー)、
鶉野樹理(ジェニー)、他

世田谷パブリックシアター

<観劇メモ> これまでブレヒトを観て面白いと思ったことが残念ながらなかった。東演によるこの『三文オペラ』も前半の第1幕までは、どちらかというと退屈をした。しかし休憩をはさんだ後の第2幕では、俄然盛り上がりを見せ、初めて面白いと感じた。何より良かったのは舞台美術の装置の使い方。鋼鉄製ベッドの骨組みのような装置であるが、それが使い方でドアにもなれば、部屋にもなり、監獄にもなり、印刷機にもなる。日本人とロシア人の俳優たちとの混成で、ロシア人の俳優はロシア語で台詞をしゃべる。その台詞を受ける日本人の受け答えで、全体の意味が分かるので、劇への緊張感が出てくるという効果もある。ブレヒトもこうしてみれば面白い。

<感激度> ☆☆☆ 

018 23日(土) ウイリアム館公演 『冬物語』

訳/小田島雄志、演出/小林拓生

東京オペラシテイ・近江楽堂

019 24日(日) スーパー・エキセントリック・シアター公演 『恋の骨折り損』

訳/小田島雄志、演出/八木橋修、美術/土屋茂昭、作詞・作曲・編曲/梶浦由紀

池袋、東京芸術劇場・中ホール

<感激度>☆☆☆

020 25日(月) 東宝創立70周年記念公演 『憎いあんちくしょう』

作/鈴木聡、演出/久世光彦
出演/浅岡ルリ子、蟹江敬三、名古屋章、加納幸和、江波杏子、斉藤由貴、他

帝国劇場

1月の観劇記録
 

001 2日(水) 東京乾電池25周年記念公演 『夏の夜の夢』

翻訳/福田恆存、演出/柄本明
出演/柄本明(オーベロン)、ベンガル(ボトム)、東京乾電池総出演

下北沢、ザ・スズナリ

<観劇メモ>座興的に、英語の台詞もときおり入る。妖精パックは猫のイメージにメイキャップ、柄本明のオーベロンは燕尾服の上着に、下半身は股引で、擦り切れた下駄履きという珍妙な格好に象徴されるように、シェイクスピアを徹底的にお遊びにしたチンドン屋風の祝祭劇。お遊びの演出としては、アセンズ(アテネ)の職人のピーター・クインスは、おむつを付けた寝たきり老人。全体的に台詞回しがシェイクスピア劇とはほど遠い平板なのは、この劇団の特色のようなものか。非劇的なる台詞回しで、劇的リアリズムとは相容れない倦怠感とけだるさを感じさせる。これもまたひとつの「夏の夜の夢」。

<寸評> ☆☆ 記念公演にシェイクスピアを評価。

002 3日(木)沢竜二VS竜劇隊 大衆演劇まつり『芝居・沓掛時次郎』&ショー
        『ドサ踊り春夏秋冬』

下北沢、本多劇場

<観劇メモ>さすがに中年以上のオバサマ方ばかりで、男性はひとつまみで若い観客は皆無。客の入りは六部目ほどでちょっと寂しい感じがした。大衆演劇は昔子どもの時に観た郷愁を感じていたので、いつか観てみたいと思いながらやっと果たせた。沢竜二は蜷川幸雄のシェイクスピア劇にも出ているし、本多劇場ではかつて沢竜二版ハムレットもやっているので、単なる大衆演劇役者としてみるわけにもいかないだろうが、理屈抜きで見る芝居もたまにはガス抜きでいいものだ。

 

003 6日(日) 劇団仲間公演 『森は生きている』

作/サムイル・マルシャーク、訳/湯浅芳子、演出/藤原新平、音楽/林 光

新宿、紀伊國屋サザンシアター

<観劇メモ>
中高生・大学生と親の芸術鑑賞会「五月の会」での観劇。「森は生きている」の原題は「12の月の物語」で、俳優座による日本初演が54年(昭和29年)で、以後上演回数は1700回を超えるという。ある国に早く両親に死なれたわがままな女王がいて、その女王が大晦日の日に春の花であるマツユキ草を集めて城に持って来た者には籠いっぱいの金貨を与えるというおふれを出す。森に母娘と、その家の居候の貧しい娘がいて、母娘は金貨欲しさにそのかわいそうな娘を吹雪の中にマツユキ草を探しに出させる。森の中で娘は焚き火に集まる12の月の精と出会い、1時間だけ4月の月となり、無事マツユキ草を集めることができた。それにしても、童話のいじわるな親子が母娘のパターンで父親不在というモチーフの共通性に興味がある。グリム童話のようなメルヘンの世界を劇の世界でしばし楽しんだが、一緒に観た娘はこのようなメルヘンのファンタジーには物足りなかったようだ。

004 12日(土) シリーズ/チェーホフ・魂の仕事 Vol.1 『かもめ』

作/アントン・チェーホフ、英訳/マイケル・フレイン、翻訳/小田島雄志、
演出/マキノノゾミ、美術/堀尾幸男、照明/中側隆一

新国立劇場、小劇場

<観劇メモ>
開場とともに劇場に足を踏み入れると、舞台装置の木の香りと、かもめの鳴き声。舞台奥、それと側面のバルコニー席を覆い隠すようにして、白の紗幕が張りめぐらされている。舞台奥の紗幕の内側は、この舞台の湖を映し出す。しかしながら舞台装置ほどには、この劇は面白くなかった。これを演出したマキノノゾミは、チェーホフを面白いと思ったことがなかったが、小田島雄志訳の初演にあたる宮田慶子演出の『かもめ』を観たとき初めて面白いことに気付いたという。だが、残念ながら彼による演出では三田和代のアルカージナの演技はうまいと感心したが、あとは台詞が走って飛んでいる感じで、返って舞台を平板なものにした。田中美里が演じるニーナの台詞、「わたしは、かもめ」にもリアリテイが全く感じられなかった。

005 13日(日) 『肝っ玉おっ母とその子供たち』 劇団俳優座公演 No.260

作/ベルトルト・ブレヒト、訳/千田是也、演出/アレクサンドル・マーリン
美術/ヴァレンチイナ・コモーロバ、作曲/パウル・デッサウ

俳優座劇場

<観劇メモ>ちょうど2年前にも全く同じ演出で観ている。だが、今回も前回同様にブレヒトを面白いと思えなかった。自分が面白いと感じる意識の層のベクトルが合わない。

006 19日(土) 『恋の骨折り損』 板橋演劇センター公演 No.69

翻訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵、美術/高橋あや子

池袋、東京芸術劇場小ホール2

<観劇メモ>
第12回東京地域劇団演劇祭参加作品、「あーでんの森散歩道」ホームページ「観劇日記」参照。

<寸評> ☆☆

 いつもながら楽しませてくれる。

 

007 20日(日) 『ゴドーを待ちながら』

作/サミュエル・ベケット、翻訳/安堂信也、高橋康也、演出・美術/串田和美
出演/緒方拳(エストラゴン)、串田和美(ウラジミール)、朝比奈尚行(ポッツオ)、
小松和重(ラッキー)

澁谷、文化村シアターコクーン

<観劇メモ>劇場の舞台のみを使って、舞台と観客席とした贅沢な趣向。舞台には何もない。木一本もない。観客席と舞台の距離もなく、演技者の呼吸の波動を感じるような臨場感。無駄なものがすべて削ぎ落とされた空間の緊張感。串田和美のチャップリンに似せた演技、そして微妙に間を測った緒方拳との会話のやりとり。<時>と<空間>を超越した現代の神話の復活。特設舞台の片側はこの劇場の観客席に向かって延びており、もう一方は、劇場に隣接する東急百貨店の荷物搬出入用トラックの出入り口である。パッツオとラッキーの登場と退場は、それを仕切っているカーテンの開閉で行われる。観客席側では、誰もいない真っ暗な空白感がシイーンと不気味である。この劇の非日常性の臓腑をえぐり出すかのよう。反対側の仕切が開閉されると、道路を走る車の喧噪が日常性を惹起させる。非日常的な『ゴドー』にその日常性を一瞬挿入するところが心憎い。正体の知れない『ゴドー』は<永遠>の抽象的存在。それは<神>の不在を抽象化した存在ともとれる。しかしながら串田和美と緒方拳のウラジミールとエストラゴンの<待つ>という行為に、ネガテイブなものは感じられない。ポジテイブでそこはかとないユーモラスな明るさを感じる。東京公演は2年ぶりの再演。

<寸評> ☆☆☆☆  串田和美に特別演技賞。

 

008 22日(火) 『イヌの仇討』 シアター・ムーブメント・仙台Y 演劇プロデユース公演

作/井上ひさし、演出/宮田慶子、美術/島次郎

世田谷パブリック・シアター

<観劇メモ>
この劇の初演は1988年で、公演前の予告では当初『長屋の仇討』となっていたが、その後作者の構想が大きく変わり、題名も『イヌの仇討』に変更され、赤穂義士に討たれる直前の吉良上野介の最後の2時間を描く。盗人(ぬすっと)仲間の自慢の種にと、赤穂浪士に狙われる吉良上野介の邸に忍び込んだ盗賊砥石小僧新助を通して、世評一般の「忠臣蔵」を別の目から見た戯曲。世評では吉良は悪役の立場だが、吉良の側から語られる真相は異なる。「イヌ」の仇討とは、多重的に解釈されるが犬将軍綱吉をも暗示しているようにも思う。そのことは大石内蔵助の吉良への仇討の真意が、当代将軍の御政道に対する体制批判が根底にある、と討たれる直前の吉良は悟り、それなら進んで討たれようと決心することから伺える。井上ひさしの作品はシェイクスピア同様にできるだけ全て観たいと思っているが、今回<こまつ座>以外で初めて彼の作品を観る。このシアター・ムーブメント・仙台は平成8年から地元仙台を本拠にする劇団の文化活動であるが、今回初めて仙台以外に、東京と広島で公演されることになった。演出の宮田慶子はこの活動の第1回目から演出に携わっている。

<寸評> ☆☆☆ 

地域に根ざす地方劇団の質の高さに感歎。砥石小僧新助を演じる金野むつ江に演技賞。

 

009 27日(日) 『クロマニヨンショック』 原始時代版 ロミオ&ジュリエット、アフロ13公演

演出/佐々木智広、脚本/伊東幸一郎・佐々木智広、脚色/毛利亘宏

東京グローブ座

<観劇メモ>「あーでんの森散歩道」ホームページ参照。

<寸評> ☆☆ 人類創世記のロミオとジュリエットに敬意を表して。

 

 
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