高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
   2026年 神田香織 新春一門会               No. 2026-001

 今年最初の神田香織一門会。
 演目は、
 おりびあ、 『軍談風、平成のカビ騒動』(自作)
 伊織、『隅田川乗っ切り』
 織音、『中江藤樹』
 香織、『雪崩』(原作、山本周五郎)

 前座のおりびあが今年4月に二つ目に昇進するというおめでたい話とともに、二つ目の伊織が神田香織に入門して今年で10周年になるという。さらには織音が真打に昇進して今年が15年目になるという。
 おりびあの昇進に当たっては4月に「津の守講談会」で1日から3日まで、連続での二つ目昇進企画がすでに組み込まれており、5月30日(土)には日本橋社会教育会館で「祝・神田おりびあ二つ目昇進」と称しての神田香織一門会が開催される。
 伊織は、昨年の講座が200回を超えたといい、今年も10周年記念としての連続講談会が毎月のように企画されている。おりびあの昇進に当たって伊織は、めでたい反面、前座がいなくなることで、講演会などでのめくりや雑事をする者がいなくなり、いろいろなことが回らなくなるという困った問題が生じることになり、若い入門希望者を求める話が出された。
 織音は、自分の話より娘さんが小学校を卒業することになり、卒業式の袴着の話から、中学の制服代等々で10万円の出費の話などされ、ご自分の真打になってから15周年になるという話は出されなかったのだが、師匠の香織から真打になった時の裏話の紹介があった。今から15年前というとちょうど東日本大震災の時で、真打昇進の式典がまさにその震災の翌日で公共の交通機関もほとんど動いておらず、会場までたどり着くのもやっとの状態であったという。
 織音のそのような話を紹介した香織のマクラは、いつものように鋭くも小気味よい政治風刺。新年になって、国際法なんか自分には必要ないというトランプの一連の横暴な振舞や、物価高対策もなされないままの突然の衆議院解散の話、その選挙に要する費用が800億円という憤りの言葉に賛同する。

 前座のおりびあの演目は、自作の『軍談風、平成カビ騒動』。
 自宅が祖父の代から三代、60年以上続くうなぎ屋で、そのうなぎ屋の自宅兼店の壁が朽ちてきて、その修繕改装時、壁にはびこったカビとの格闘のひと騒動を軍談風にした話で、話の内容も面白いだけでなく、語りも実にうまく、彼女の熟達振りに感心したばかりでなく、創作講談の新しい分野としても注目すべきものがあって、非常に面白く、楽しく聞かせてもらった。今後が楽しみである。

 伊織の『隅田川乗っ切り』は、一度ならず聞いた覚えがあるのだが、自分の記録には残されていない。
 三代将軍家光に仕える旗本阿部善四郎が、正月、江戸城の道場開きで彼一人が家光を本気で打ち負かしたために勘気を買い、以後、口も聞いてもらえなくなる。その翌年、日照り続きの後大雨が続き、やっと雨があがった後、家光は供を伴って市中の見回りに出かけ、濁流で渦巻く隅田川の川中に一本の木が立っているのを見て、おそばの者にその木の事を尋ね、由緒ある木だと知って、誰かその木のところまで馬駆けする者はいないかと尋ねる。誰も名乗り出る者がいない中、阿部善四郎がひとり、その濁流の中に馬を乗り入れ、後に続いた善四郎の家臣平田団右衛門とともに見事に濁流を渡り切る。家光のおほめにあずかり、勘気も解けただけでなく、家禄も加増され、その後は老中まで出世したという内容である。

 織音は、「孝」を重んじ、「近江聖人」と呼ばれた中江藤樹の幼年期の物語で、涙をも誘う感動の話。
 藩主が国替えとなって、祖父とともに近江から伊予の国に赴き、そこで学芸に励む。母からの便りに、母があかぎれに悩んでいるのを知り、人から伝え聞いたよく薬を買い求め、祖父にも内緒で伊予から近江まで一人その薬を届けに行くが、母親は薬の礼は言っても、学芸が成就するまでは戻ることはならないとそのまま追い返す。藤樹が10歳の時の話である。四国の伊予から近江まで、母親のあかぎれを治す薬を届ける10歳の藤樹も感心でけなげであるが、それを、涙を殺して追い返す母も母で、今では到底考えられない親子の情愛の関係に胸を打たれる。

 中入り後、師匠の香織の演目は、山本周五郎の小説『雪崩』を講談に仕立て上げたネタおろし。
 江戸時代には仇討ちは善とされ、講談には仇討ちの話が多くあるが、明治になってから仇討ちは禁止され、変わって国が裁くことになる。しかし、香織は袴田巌や石川一雄などの冤罪被害者の多いこともあげ、香織もしばしば講演に取り上げて語っている。山本周五郎の『雪崩』は、親の仇とされた男と、その男を追う兄と妹の物語で、この仇討ちは逆恨みというもので、非は殺された側にある。というより、殺されたのではなく、宴席で自分から切り付けて手傷を負って、自分の過ちを恥じて自害したのであって、敵と狙われる男には殺した覚えもないのに仇討ちの相手とされ、今でいえばいわば冤罪である。敵討ちをしようとする兄妹は雪崩に巻き込まれ、それを仇討ちの相手から助けられ、敵と狙う相手は死んでしまう。兄妹は、その男の意志を継いで、男がやり残した農地の開墾の後を継ぐ 決心をするという話。
 4人のそれぞれの演目を、熱く、楽しんで聴かせてもらった。
 中入りの10分間の休憩を挟んで、2時間15分の上演時間。


1月17日(土)11時開演、なかの芸能小劇場、木戸銭:3000円


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