高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
    新国立劇場公演、ギリシア悲劇を再構築して描く 『テーバイ』     No. 2024-032

 ギリシア悲劇と言えば遠い昔の神話的な話に感じるが、この劇では身近で現代にも通じるものを感じたのは、単に現代の衣裳や道具を用いているからというだけではなく、ギリシア悲劇の特徴の一つでもあるコロスの登場がなく、すべて対話形式となっていたことにもよるだろう。
 また、この劇が新国立劇場が2018年から取り組んでいる、1年もしくはそれ以上の時間をかけてこつこつと稽古を積み重ねて一つの作品を作り上げていく「こつこつプロジェクト」から生み出されたということにも起因していることにもあるだろう。このような取り組み、実験的な企画は国立劇場ならでは可能な事であろう。今回の作品はその二作目になるという。
 オイディプスについてはギリシア悲劇から離れても、「オイディプス・コンプレックス」などで割と知られている話で、そのオイディプスを中心にしたソポクレスの二作と、アンティゴネを題材にした作と、三つ合わせた構成となっている。従って、劇の内容としては、テーバイの王オイディプスに始まり、彼が追放された後、彼の子どもポリュケイネスとエティオクレスの兄弟の王権をめぐっての対立、そしてその両者の死によって彼らの叔父であるクレオンが後を継ぐところまでの話となっている。
 開演時の舞台上には、一人の女性(ライオスの妻で、実の子であるオイディプスの妻でもあるイオカステ)が乳母車の中の赤ん坊を人形であやしていて、劇が始まるとともに彼女はその乳母車とともに奥へと下がっていく。
 舞台上では、市民の代表が疫病の災難を止める手立てを王オイディプスに迫っている。何の手立てもないオイディプスは神官を呼び寄せさせるが、その神官から災いのもとがオイディプス自身にあることが判明する。
 先の王ライオスは、自分の子どもに殺されるという占いにより、図らずも生まれたその子を棄てさせるが、その子オイディプスはコリントスの王の子として育てられる。
 オイディプスは自分が王の実の子ではないということや、父親を殺し母親を妻とするという占の話を聞かされ、国を棄てて立ち去り、旅の途中に山中で出くわしたライオスを殺し、テーバイの国に入ってスフィンクスの謎を解いて王に推挙され、ライオネスの妻イオカステを妻とする。
 神官によってその事実を知って妻であり母であるイオカステは自殺し、オイディプスは自分で自分の目を潰し、自らを追放する。
 オイディプスは娘のアンティゴネに導かれ放浪の果てに、他者が足を踏み入れてはならないアテナイの復讐の女神の森に辿り着き、そこを自分の終焉の地と定める。
 そこへ、王権をめぐってオイディプスの子のポリュネイケスとエティオクレス兄弟が対立し、亡命先のアルゴスから兵を率いたポリュケイネスがテーバイを襲おうと迫っており、テーバイを救うことができるのはオイディプスしかいないということで彼のもとへテーバイから使いが来るが、自分が追放された時冷たく見放した二人の息子を呪うだけであった。
 第一幕は、『オイディプス王』と『コロノスのオイディプス』を合わせた部分で終る。
 その第一幕の終わりでは、天井から吊るされた3本の赤い紐が切って落とされるのと同時に、同じく天井から人物をあしらった3つの物体が大きな音を立ててドサリと落ちてきて、その内の一体だけが丁寧に持ち運ばれて行く。
 第二幕は、再び同じ場面の情景から始まる。その三体の物体は、ポリュケイネスとエティオクレスの屍体を表象したもので、丁寧に持ち去られたのはエティオクレスの死体で、ポリュケイネスの死体は祖国を襲った犯罪者として埋葬することを禁じられる。その布告を出したのは他でもなく、オイディプスの叔父でもあり、ポリュケイネスとエティオクレスの叔父でもあり、今や王となっているクレオンである。
 第二幕はアンティゴネを中心とした物語で、ポリュケイネスの死体を埋葬しようとした彼女がクレオンが定めた法を犯した罪で、彼女を愛しているクレオンの息子ハイモンの反抗、そしてクレオンの妻エウリュディケの反対にもかかわらず死罪を言い渡される。
 そこには第一幕までの穏健なクレオンの姿はなく、彼は頑なな原則主義者へと変貌している。
 エウリュディケの自殺に動かされたクレオンはアンティゴネの釈放を命じるが、時遅くその時には彼女は自ら首をくくって自死しており、悲観したハイモンも後を追って自殺して果てる。
 自分の身近な者たちがみんな死んでしまった後、クレオンは王としてこれから統治していく決意を空しく語る場面で幕を閉じる。
 出演は、クレオンに植本純米、オイディプスに今井朋彦、アンティゴネに加藤理恵、アテネの王テセウスや羊飼やポリュケイネスの死体の番人などを務める役に久保酎吉、オイディプスの妻イオカステやクレオンの妻エウリュディケを池田有希子、ほか総勢10名で演じた。
 上演時間は、途中休憩15分間を入れて、2時間40分。


原作/ソポクレス:『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』
翻訳/高津春繁:『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』、呉茂一:『アンティゴネ』
構成・上演台本・演出/船岩祐太、美術/土岐研一
11月13日(水)14時開演、新国立劇場・小劇場、チケット:3150円
座席:B席、LB29、プログラム:800円

 

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