高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
    神田伊織 、二ツ目となって三年目の講演、古典二題 『魚屋本多』と『恋の彫物』
    ゲストの桂小すみの音曲に続いて、新作 『レニヤの物語』      
No. 2024-027

 神田伊織は目まぐるしいほど活躍しているが、なかでも注目されるのが、ずば抜けて新作の発表が多いことである。昨年が29本で今年はすでにこれまでに23本演じてきたという。
今回の演目にも古典に加え、新作を発表。
二ツ目昇進後の3年目としては、今後、一つ一つの話をじっくり仕上げていきたいという。
 中入り前の演目は、古典が2本。
 最初は『魚屋本多』―「水呑むみ」に由来する出生の秘話―。
これは昨年の11月、阿佐谷伊織会で聴いていたが、本多隼人正が小牧の合戦の模様を話す下りでの軍談調の語り口に聞き酔いしれ、魚屋宗太郎と親子の対面の場では、人情噺のようにじんわりとした感動を感じた。
 続いての二代目浜野矩随(のりゆき)の『恋の彫物』も、同じく阿佐谷伊織会で聴いたことのある演目。
 この話しも、二代目矩随となる松太郎が踊りの師匠と結ばれる話も人情噺的な感動を同じく感じる。
 中入り後、ゲストの桂小すみの音曲。
桂小すみについては全く知らなかったが、その声の素晴らしさと知的な内容の話に感嘆して、遅まきながらインターネットで彼女について調べて見て驚いた。東京学芸大学卒で、在学中に国費でウィーン国立音楽大学に留学し、ミュージカルを専攻。そんな輝かしい経歴を持っていながら、2018年に三代目桂小文治の門下に入って1年間前座修行を勤める。輝かしい経歴にもかかわらず芸能の世界に入ったのが伊織より後だということで、伊織のことを「兄さん」と呼ぶ。
 小すみの音曲の後、伊織の新作『レニヤの物語』。
 マクラで前座時代の話として、月に一度ほど師匠神田香織のお宅に通って、午後3時頃から10時ごろまでお話を伺ったこと、その間稽古はわずか30分程度で、あとは雑談と飲み食いで過ごしたという。その中で、師匠のプライベイトな話もあり、最初の結婚での義母が医療法人レニヤ会の創設者である女医武谷ピニロピであったという秘話から本題へと入っていく。
ピニロピの父親はロシア革命で福島の会津若松に単身亡命し、ピニロピは母親と共に7歳の時に会津若松にやって来る。学校ではピニロピの名前が発音しにくいということで、彼女は「レニヤ」と呼ばれる。詳しい経歴とその内容については、インターネットの「医療法人社団レニア会サイバー記念館、創業者資料室/福島民報掲載記事」に詳しいのでここでは省略する。
 師匠との個人的な雑談から発展して本題の地域医療に貢献した女医武谷ピニロピの一代記の話となる。師匠の神田香織も同じく福島出身ということで、二人は初対面の時からお互い親しく話が合ったという。
 充実した演目を楽しく、又意義深く拝聴した。


9月22日(日)14時開演、なかの芸能小劇場、木戸銭:2300円

 

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