高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   「伊織のおんな」第二弾、
   『左甚五郎とあやめ人形』、『扇の的』、『仏縁物語』       
No. 2024-009

 神田伊織の講談、「伊織のおんな」シリーズの第二回目で、今回の演目は3作とも古典もの。
 第一席目は、ネタおろしで『左甚五郎とあやめ人形』。
 左甚五郎がまだ世に知られる前の話で、二人の女性がテーマとなる。
 甚五郎は、江戸は浅草の彫物師源太に見込まれ、その娘綾を嫁にもらう。寛永寺の鐘撞堂の高欄に龍の彫り物をすることになり、4人の彫物師が選ばれ、源太は自分の代りに、まだ無名の甚五郎を推薦する。
 甚五郎は龍の絵姿を求めて各所を見て回るがどれも満足なものがなく、かつての師匠飛騨の甚兵衛が「雲龍比翼」という本を秘蔵していることから、彼のもとへ訪ねる。甚兵衛には尾花という年頃の娘がいて、秘伝の「雲龍比翼」は身内以外には門外不出ということで、甚五郎に尾花との結婚を条件に出す。甚五郎は久し振りに会った師匠に結婚していることを言い出せずにいて、図らずも承諾してしまう。
 江戸に戻った甚五郎は嫁の綾を愛しており、結局、甚兵衛に事の次第を伝える手紙を出すことにする。綾は甚五郎の帰宅後のただならぬ様子から、その手紙を盗み見て事の次第を知り、何としても龍の彫り物を成功させることを願って父親に相談し、甚五郎と離縁させてもらう。父親の源太も娘の甚五郎を思う気持と、甚五郎の腕を惜しんで、心を鬼にして娘を離縁させる。
 甚五郎は真相を知らぬまま、尾花と結婚し、「雲龍比翼」のおかげで見事な龍を彫り上げ、将軍家光から格別のおほめをいただき、その名を全国に知られることとなる。
 甚五郎の成功を知って綾は満足して自害する。甚五郎は自分の成功の為に綾が自ら離縁を選んだことを知り、尾花も事の真相を知って、甚五郎のもとを去って仏門に入る。
 甚五郎は、綾を思って彼女の面影を人形に刻み、「あやめ人形」として生涯手元から離さなかったという。

 第二席は、『源平盛衰記』から那須与一の『扇の的』。この話には、女性はほんのさわりしか出てこないが、無理を押してのネタ。この話は、今月、「阿佐谷伊織会」で取り上げられた演目で、今月の初めに初めてネタおろしされ、今回が三度目の高座となる。
 テーマの女性は、義経を誘き出すための絶世の美女と言われた玉虫御前。ただし登場の場面はほとんどないに等しい。絶世の美女の形容として、講談では、「沈魚、落雁、閉月、恥花」(あまりの美しさに、魚も底に沈み、雁も空から落ち、月も雲に隠れ、花も恥じる)、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と言われる。
 玉虫御前が源平盛衰記の『扇の的』に登場するのはそれだけであるが、伊織はそれに後日譚を加える。
 平家滅亡後、頼朝は平家の残党刈りを那須与一に命じるが、与一は病のため、弟の大八郎を代わりに差し向ける。大八郎は日向の椎葉村で平穏に暮らしている平家一門の姿を見て、滅ぼすに忍びなく思う。その落人の中に鶴富姫という美しい女性がいて、大八郎は彼女と結婚し、そのままその地に落ち着く。
 頼朝は、大八郎が戻ってこないことから那須一族が裏切ったのではないかと疑い、更に与一に追討を命じる。与一は息子の小太郎を差し向ける。小太郎は熊本、八代の五家荘に鬼山御前と名を改めた玉虫御前を見つけるが、結局は彼女と結婚する。その五家荘には与一の弓と玉虫御前の肖像画が残されていると言われたが、その両方とも紛失したものの、肖像画だけは昭和になって発見されたという。
 平家滅亡後の、全国に残る平家落人の後日談伝説の一つである。
 『扇の的』本代の話については、「阿佐谷伊織会」より下記再録する。
 <源氏と平家の「屋島の戦い」で有名な「扇の的射ち」の逸話。
 平家方が、美女を乗せた小舟の先頭に、「紅地に金の日輪が描かれた扇」を竿の先に立て、源氏方に「扇を見事射て見よ」と徴発する。これには平家方の計略が含まれていて、船底に伊賀十郎兵衛家員を潜ませ、色好みの義経が美女に見とれているようであれば射殺す計画と、万が一扇を射貫いた時には、日輪を射貫いたことで朝廷に対する逆賊とするつもりであった。
 義経は家来にその扇を射るように命じるが誰も応じない。最後に弱輩の那須与一が選ばれ、彼は馬に乗ってその小舟の近くにある小さな岩場に辿り着く。しかし、二月の海は荒れていて、小舟は波間に大きく揺れている。与一が神に祈ると、一瞬、海が静まり、与一は矢をつがえて弓を引き搾り、見事、扇を竿の先から射落とすことに成功する。
 それを見て、船底に隠れていた十郎兵衛が立ち上がって踊り始めたので、与一は彼を射殺す。平家方はそれを見て怒り、与一めがけて攻め寄せるが、源氏方は無事に与一を救い出す。
 軍談の語りの調子が聴きどころであり、それを十分に堪能させてくれる語り口調であった。>

 中入りは、5分間の休憩。

 第三席目の『仏縁物語』は、幼い頃母親に捨てられた善太郎が、大宮の智光寺の和尚に拾われ、善真と名乗っている。あるとき、本願寺の幽玄上人が布教の旅で立ち寄って善真の身の上話を聞いて、彼を伴って一緒に諸国布教の旅に出る。善真は母親の顔を知らず、手掛かりは彼女が残した和歌のみである。
 幽玄上人が年老いて、今では善真はひとりで諸国を説教してまわっている。善真は説教を始める前に、必ず母親が残した和歌の上の句、「子を捨つる野毛の浦風身にしめど」を読み上げ、誰か下の句(「捨てずばなどて親を助けん」)を読む者がいないか尋ねるのを常としている。
 一方、母親は子の善太郎を棄てたことを悔いて、彼を探し求めて諸国を歩き回っているが、何の手掛かりも得られず、絶望の余り、早瀬に身を投げて死のうとしたところを助けられ、その者から和歌の上の句を唱える上人の話を聞き、それこそ我が子と後を追い、ついに越後の国で出会い、めでたく再会するという仏縁の話。
 終演時間は12時ちょうど、3作品で2時間の講演時間。


3月20日(水)10時開演、なかの芸能小劇場、チケット:2100円、全席自由

 

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