高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    こまつ座 第148回公演 『連鎖街のひとびと』          No. 2023-019

 初演は2001年、紀伊國屋ホールでのこまつ座第58回公演である。その時のチケットを"the座"(No. 43)の裏に表紙貼りつけていて、観劇日は6月24日(土)13時30分開演、料金は税込みで5250円、座席はP列8番となっている。ちなみにこの時の"the 座"の定価は800円となっている。
初演の出演者は、新劇の劇作家塩見に辻萬長、大衆演劇の劇作家片倉に木場勝己、中国人のボーイ長陳鎮中に松熊信義、ホテルの所有者で大連の市議会議員今西に藤木孝、作曲家の石谷一彦に高橋和也、ピアノ奏者に朴勝哲、満州国政府文化担当官で元俳優の市川林太郎に石田圭祐、ハルピン歌劇団のスター、ハルピン・ジェニィに順みつきである。
 "the座"の前口上で、井上ひさしは「連鎖街」について「関東庁と満鉄の特別援助によって建設された、世界で最初の組織的な商店街で、大連の名所でした。お店の数は約200、すべて揃って三階建て」と説明している。
 演出の鵜山仁は「連鎖街につらなる人生の劇の楽しみ」と題して、<『連鎖街のひとびと』の舞台になる大連という街は、かつて「外なる日本」で、その大連という舞台を使って「日本人って何だろう」と考える劇で、「解放区」と呼ばれる、十重二十重の「制約」「反対」に取り囲まれた、閉ざされた空間、舞台となる小さな小さな部屋に、広い広い世界が映し出される。冒頭、劇作家の「すまん」「わたしは逃げる」というセリフから始まります。人生から逃げてしまえば何も生まれない>と語っている。
 再演は、翌2001年の12月、同じく紀伊國屋ホールで、こまつ座第64回公演。出演者は石谷一彦を演じた高橋和也から中村繁之に変わっただけで、その他は同じである。"the座"はNo. 43(改訂版)とあるだけで、表紙もまったく同じであるが、前口上の部分は、「大連は夢の都」と称して井上ひさしの個人的な思い出話から始まる。この小文は今回の"the 座" No.119の巻末に再録されている。
 そして演出の鵜山仁は再演に当たっての言葉として、「観客席の想像力」と題して、<押し売りするより想像してもらう・・・ひとつの出来事、その記憶を登場人物達が舞台の上で共有できれば。観客の皆さんにも参加してもらえる。現実には見えないものを、想像力で見てもらいたい。・・・『連鎖街のひとびと』という芝居には、なるほど芝居とはいいものだ、役に立つものだという思いがあふれている。もしかしたら芝居の力を借りて人生の苦境を切り抜けることができるかもしれない>と記している。
 この2回の観劇についての観劇日記は残念ながら記していない。それで"the 座"に代弁してもらった。
 そして22年ぶりの今回の再再演。この20年という歳月が過ぎる間に作者の井上ひさしをはじめ音楽の宇野誠一郎や、出演者の方も数名すでに物故となられている。出演者で初演時の出演者は、高橋和也と朴勝哲の二人だけで、その他は全員入れ替わっている。初演で25歳の石谷一彦役を演じた高橋和也は、今回は41歳の新劇作家塩見を演じる。
今回22年ぶりにこの劇を演出する鵜山仁は、気持ちも新たに、「現実の過ちを芝居で償えるか―喜劇に仕立てた自己批判」として次のように語っている。
<劇中、日本政府の過ちについて登場人物たちが告発する場面にしても、それは自分自身がやったことに対する告発でもあって、堂々巡りの自己批判になっている。自己批判というのは自分を徹底的に告発するだけではなく、自分の鏡でもある仮想敵を作り出して、それをやっつけることで自分を浄化していく、そのプロセス自体が芝居になっている>
 今回劇を観ての感想としては、鵜山の語っている思想的な背景なども多分に感じるところはあるが、二番煎じとならぬよう鵜山仁の言葉に譲って、この劇を楽しんで観たことだけで十分としたい。
 劇の冒頭で面白いと感じたのは、中国人の陳鎮中を演じる加納幸和の中国語訛りで喋っての登場であった。そこからまず引き込まれていった。
 その他の出演者としては、新劇作家の塩見に高橋和也、大衆演劇の劇作家片倉に千葉哲也、ホテルの所有者で大連の市議会議員に鍛冶直人、作曲家の石谷一彦に西川大貴、ピアノ奏者の崔明林に朴勝哲、満州国政府文化担当官で元俳優の市川新太郎に石橋徹郎、そしてハルピン・ジェニィに元宝塚の霧矢大夢。
 劇中劇のミニオペレッタの歌唱に続く出演者全員の最後の歌の合唱に心温まる気がして、すべてが浄化される思いであった。それぞれの出演者の演技を存分に楽しんで味あわせてもらった。
 上演時間は、15分間の途中休憩を入れて、2時間50分。


作/井上ひさし、演出/鵜山 仁、音楽/宇野誠一郎、美術/石井強司
11月10日(金)18時30分開演、紀伊國屋サザンシアター、チケット:7000円
'the 座' No.119:1200円、座席:6列7番

 

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